Part12 シャルの休日
Part 12 シャルの休日
「むう…。」
実験道具が輝いている、ギルバーディア家が誇る数々の秘儀を可能としてきた物、父から譲り受けた物も数多い。
今朝からずっと考えている、考えることは嫌いではない、自身を真理の探究者と位置付けてきた、あの日からずっと。
<何を考えておるのぢゃ。>
重力か?亭主殿は重力の正体は時空の歪みと言っていた。何を知っているのだ?解らぬ。あの男は漂流者であるらしい、不思議な魔法を使う、更に色々知識が有るらしい、ふむ、謎は嫌いではない、謎のない処に真理など存在しないからだ。
妾とて知識が無いわけではない、物には互いに引き合う力が有る事、どうやらこの大地は丸い事、しかも大地は一定方向に常に動いて居る事。重力を探る過程で得た知識だ。
<父に未練があるのか?>
あの日父は重力に裂け目を作る事に成功した、確かにこの目で見たのだ、しかし父はその裂け目の向こうに吸い込まれそのまま帰らなかった。重力を自在にすることができれば父を探し出すことができるとまだ思っておるのか?
<あれは何時の日ぢゃったかのう?>
多くの時が流れた。
<ふむ、どこへ流れたのぢゃ?>
過去から現在へ、現在から未来へ時は流れる、では過去とは何処ぞ?未来とはどちらに有るのだ?流れるものなら流れる方向が有ろうに。エントロピーはどこに変化の究極を見出すのか?
重力を操ろうとすれば必ず時空をも歪ませてしまう、ほんの僅かだが確かに歪むのだ。
亭主殿の水球の魔法を思い描く、重力など初めから無かった様に水が宙に浮かんでいた、時空の歪みなど微塵も感じさせない。
「むう…」
まてよ、亭主殿の言うとおり重力とは時空の歪みだと仮定すると、その歪みを完全に消し去った処に反重力が可能となるのでは?
「ふむう…」
時空の歪みが無い完全に平坦な処など存在しうるのか?常に周りに物質が存在する、物質が存在する限り引き合う力が働き時空を歪ませる。
「うんん…」
完全に時空が平坦な場所、幾何学的に存在しうるのか?エントロピーの究極の変化の彼方か?
まてよ、逆に極限まで歪めてしまえばどうなる?つまりは無限の重力、全てを押し潰してしまうのではないか?すべての物質が押しつぶされ永遠に内側に崩壊する。
「うむう…」
まてよそうなると時間も停止してしまうはず、その限界面、つまり事象の地平面で永久に停止して見えるはず?きっと光でさえ閉じ込めるだろう、もしそのような物を造り出してしまえばこの世界がすべて崩壊してしまう。
あまりにも危険だ。
<いかん堂々巡りぢゃ…>
どうもあの男、亭主殿は妾の心を乱すようだ。あの指輪はなぜ持っていたのだろう、用事が済めばさっさと握り潰せば良かったものを?ベルゼバブの誓約?
<ふん、そんなもの今更恐れる妾か?>
あの男の宿命?そのような物に妾が縛られるのか?小賢しいと思いつつもそんなに悪い気はしない。何故か、あの男には他にも妻が居る、まずはリリッカ「俺が最初だ。」といつも言っているが、早い者勝ちでもあるまいに。あとリズ、王家のしきたり?そんな物何の価値があるのだ?しかしながらリリッカもリズも只者ではないそれは確かだ。困った事に二人とも亭主殿と同じくらいに気に入っている。自身の良人に他に妻が居るそんなことを“爆炎”のシャルロッテと有ろう者がそれを許している、自身でも笑いたくなる。
<いかん、何を考えているのぢゃ。>
自身の口元に浮かんでいた笑みを消し、もう一度実験道具に目をやる。真理はまだ遠い先らしい、【神は永遠に幾何学する】か?いったいどこまで神は意識しているのだろう。
<さて、困ったのう。>
人間は短命だ、あの男も妾より先に死ぬことになるだろう。その前にあの男から感じる只ならぬ宿命とやらに決着をつけてやらぬと、時間が無い。
<時間の流れを止めることは叶わぬかのう。>
あの男の生涯をあれやこれやと思い描いてみる。
<ふん、人の生涯など所詮邯鄲の夢よ。>
でも良い、あの男がその生涯を閉じるまでこのシャルロッテが全力で支えてやろう。




