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Part11 リリッカの休日

Part 11 リリッカの休日


俺はひょんなことからダンナと結婚してしまった、それはそれで悪くない、ダンナは頼りないけど、優しいし妙にいろんなことを知っていたり、変な魔法を使う、どうやら漂流者らしい、まあとにかくダンナといると楽しいし妙に安心できる。

問題はダンナが次々と妻を増やすことだ、ダンナは事故だと言っているが、どうなんだろう、まずはシャルだあいつはダンナの宿命に導かれたなんて言っているけど本当の所は解らない、次にリズだ王家のしきたりなんだそうだが、いきなり知らない男と結婚するなんて言い出すか?困った事に俺はシャルやリズの事まで気に入っているらしい、なし崩し的にパーティーを組んでしまったが、それが決して不快ではないという事だ。


<そういえば、親父が「いつかお前も自分の命を預けられるパーティーをもて。」って言ってたけど、これがそうなのか?>


どうやら、俺の腹は決まっているらしい、それはそれで一向に構わないのだが、その前に俺は俺自身にけじめをつけなければならない、これは俺だけの分だ他の奴等に手出しをさせてたまるか。


☆☆☆☆☆☆


東の森の中に分け入りちょうどいい場所を探している。

ナナさんにだけは東の森に行くと伝えている。「東の森には何か恐ろしい者がいると評判よ、行方不明者も絶えないし、一人で行っちゃだめよ。」って言っていたけど、これは俺だけの分だし、その恐ろしい者に用事が有るわけだ。

たとえ俺がこのまま帰らなくても、優しいダンナの事だ“紅”ぐらいは探し出してくれるだろう。


<この木がちょうどいいかな。>


俺は大きな木の根元に立ち、木に背中を預けている、こうすれば少なくてもいきなり背後から襲われる心配はない。このまま奴が現れるのを待つとしよう。


☆☆☆☆☆☆


どのくらい経ったのだろう。奴はまだ現れない、敏い奴の事だ俺が森に分け入ったのはとっくに気が付いているはずだ。何故…


<いけない、焦りは禁物だ。>


何故…

何故…

何故…


日が傾いてきた。


<そうか、暗くなるのを待っているのか。>


奴は狡猾だ。

親父は奴に殺された、まだ奴は老いていなかったが、親父が簡単に引けを取るとは思えない、たぶん親父の不運と奴の幸運が重なったのだろう、そして奴は狡猾だった。


<暗くなったらこっちが圧倒的に不利だ、その前に強引に引きずり出すか。>


覚悟を固めたら元来た道を歩き出す。

スタスタとまるで用は済んだと言わんばかりに。


<どうだ、お前はこのまま俺を見送れるか?できないだろう?今まで何度も遣り合ってきた、お前とは気持ちが通じているとまで思っているだぜ。>


いきなり上から奴が降ってきた。

近くの木の根元に飛び、転がるそして奴との間に木を挟むように立ちあがり、“紅”を抜く。

奴は自分の体を晒し、こちらを睨め付けている。


「ルル…」


小さく唸り声をあげている。狡いよと言わんばかりに。


<へへっ、そうだろう、このまま帰す訳がないよな。>


“紅”を構え、奴と対峙する。

圧倒的な力を感じ、背中の毛がピリピリとそそけ立つ。


<へへっ、さあ楽しもうぜ!>


まだ間合いではない、半歩詰める、もう少しで奴の間合いだ、俺の間合いはもう少し先だ。

奴は背中を撓ませ、その瞬間を待っている。

周りの状況を確認する、使える物はなんだって使ってやる。

奴から目が離れた刹那、奴が飛びかかってくる。

右に逃げる。

爪が追ってくる。

後ろに下がる。

また奴が地面を蹴る。

奴の攻撃を躱しながら、左の地面に回転し、立ち上がりざまに一気に間合いを詰める。

奴はまだ態勢が十分ではない。

“紅”が美しい軌跡を描く。

躱された。

奴の爪が上から降ってくる。

なんとか飛び退いた。

更に爪が追いかけてくる。

飛んだ。

“紅”が閃く。

奴が飛んでくる。

逃げると見せかけ、奴の前足を狙う。

読まれていた。

奴が前に立ちふさがる。

逃げられない、“紅”を腰だめにして体ごと奴に突っ込む。

奴は身を捩りながら、爪を横殴りに振り回してくる。

背中の皮膚が裂ける。


<へっ、皮一枚だぜ。>


もうどれ位こうしているのだろう、体のあちこちが、熱を帯びている。

それにしても奴は艶めかしく美しく俺の攻撃を躱す、俺はこれを見たくて“紅”を振るっているのか。

いや違うはずだ。なんだったっけ。けじめ?

奴の牙が迫る。

そうはいくかよ、強引に突きに行く。

そうだ、その爪が怖い、凄い力で暴風の様に振り回してくる。

あの爪を体の中心で受けると楽になれるかな?

いや、楽になるためにこうして着た訳じゃない。

楽しいぞ、苦しいぞ、愛おしいぞ。


間合いが開いた、空気を胸いっぱいに吸い込み吐き出す、体を確認する、痛いが大丈夫だ支障なく動く。

奴は大きく肩で息をしている。


<へっ、老いたかよ。>


奴の動きが慎重になった。お互いの間合いを探りながら、隙を窺う。

お互い体力が十分でないことは承知だ、動きが止まりがちだ。


<この展開は違うな、こうやって奴を休ませるのは、奴の思うつぼだ。>


強引に間合いを詰めにいった、足が滑る。


<拙い!足が出ない!>


一寸の間、無様に転んだ俺を、何故か奴は呆然と眺めていた。

俺は態勢を立て直す間もなく、強引に突きに行った。

奴は何とか突きは躱したものの、その首筋に“紅”が触れていた。


<勝機!>


奴の首筋に沿って“紅”を力いっぱい引いた。

奴の首からシュッと血が重吹く。


一呼吸、お互い何が起きたのか理解するまで目を合わせていた。


奴は強引に引き分けを狙ってきた。

防御も、何もかにもかなぐり捨てて攻撃本能を露出させてきた。

俺は、“紅”を捨て、生存本能のままに逃走した。


逃げる。

躱す。

逃げる。

逃げる。

飛ぶ。

逃げる。

逃げる。

飛ぶ。


がはっ…奴の動きが止まった瞬間、苦しい呼吸を再開させる。


俺は慎重に奴との間合いを取り、“紅”を探し手に取る。


<まだだ、最後の一呼吸を残し、死んだふりで誘っているかもしれない。>


暫らく奴を見つめた、惚れ惚れする様な巨大な体躯の、美しい虎だ。


<へへ、お前には何度も殺されかけたが最後は俺の勝ちだ、俺の幸運とお前の不運が重なっただけだ、お前が弱かったなんて思っちゃいないぜ、まぬけな勝ち方で悪かったな。>


奴に慎重に近づき紅の先で顔を突いてみる、どうやら本当に息絶えたようだ。


<お前は俺の最高の獲物だ、ここで鼠や虫の餌なんかにするもんか、俺の家に連れて行ってやる。>


奴の巨大な体の上半身を何とか肩に担ぎ、奴を引き摺りながら歩き出す。


☆☆☆☆☆☆


「ナナさんリリッカさんが帰ってこないっす、もう暗くなって大分経つのに。」


「あら、貴方達と一緒じゃないの?朝東の森へ行くと言ってたから、一人じゃ駄目よと声を掛けたのに。」


「兄ぃ、リリッカの姉御がどうかしたんでやすか?」


「それがまだ帰ってこないんっす、東の森に行ったみたいっす。」


「えー大変でやす、シャルの姉御たちにも知らせてきやす。」


たまたまギルドに居たリートさんに伝言を頼み、僕は町の東の端に来てみる。

やがてシャルさん達も現れる。


「シャルさん、リリッカさんを探しに行くっすよ。」


「亭主殿それはならぬのう。考えてもみよ、リリッカなら大概の事は自分で何とかできるはずぢゃ、そのリリッカを帰さぬほどの事情とはなんぢゃ、この暗さではあまりにもリスクが高いのう。」


僕は照明ボールをあたりに散らし、ついでに大きな火柱を立てる。


「そうぢゃのう、リリッカがこの目印を見つける事を願い、あ奴を信じて待つしかないのう。」


「わたくしも祈ります。」


「…。」


「リリッカが東の森から帰らないんだって?」


リートさん、ナナさんを始め幾人かの町の人が心配げに集まってきた。


☆☆☆☆☆☆


どれ程こうして待っていただろう、町の人たちもひたすら待っている。

ただ、リズさんの祈りの声だけが聞こえる。


「あれはなんだ?」


「なんかでかいのが居るぞ、動いている。」


僕は照明ボールを飛ばす。


「虎か?」


恐ろしく巨大な虎が妙な姿で近づいてきて、どさっと横倒しになる。


「あれは、リリッカじゃないか?」


☆☆☆☆☆☆


どれ程の時間が経ったのだろう、もう体力の限界はとうに超えている。森を抜けてすぐ街道を見つけたのは幸運だった。それからどれ程こうして歩いてきたのかもう判らない。


<まったくてめーは、何食ってこんなにでかくなったんだ?>


<あっ、明かりだ、あれはダンナの炎か?>


ダンナが待っててくれた、安心したら力が抜けてしまった。


「へへっ、ダンナやったぜ…」


<ダンナが何か言っている、シャルやリズそして町の皆も居る、帰って着だぞ!>


かすむ視界の端にリートが見えた、「こいつを敷物にしてくれ。」自分の声がぼんやりと聞こえる。そして、安心感と睡魔に引き込まれる。


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