幕間 クビ
親衛隊の基地が完成して四日目の朝、ミュラーが食堂に来た時、見知らぬ人間が三人いた。
テーブルにパソコンを広げていた。カメラが二台、椅子に立てかけてあった。三人ともコーヒーを飲んでいた。くつろいでいた。
ミュラーは三人を見た。三人はミュラーを見た。
「おはようございます」と一人が言った。日本語だった。英語に切り替えた。「Good morning」
「誰だ」
「Netflixです」と別の一人が言った。「ジェームズ・パークです。監督です」
「ここはNetflixの施設ではない」
「知っています」
「なぜいる」
「住んでいます」
ミュラーは少し間を置いた。「……いつから」
「一昨日から」
「誰の許可を取った」
三人は顔を見合わせた。「……特に取っていないです」
ミュラーはコーヒーを注いだ。席に座った。「局長に報告する」
「はい」とジェームズは言った。「よろしくお願いします」
三人はパソコンの作業を続けた。
局長への報告は昼前に行われた。
ハーパーが書類を持って局長室に入った。「Netflix制作チームが基地に住み着いています」
「知っている」
「……ご存知でしたか」
「三人が来た時に報告が入った。そのままにしろと言った」
「そのままにしろ、というのは」
「住まわせろということだ」
ハーパーは少し黙った。「理由を聞いていいですか」
「あの三人はメキシコで病院の廊下を這いながらカメラを回した。バッテリーが四パーセントでも止めなかった。そういう人間を追い出す理由がない」
「しかしここは王室騎士親衛隊の——」
「外交問題は後で何とかする」
ハーパーは頷いた。「……承知しました。書類上はどう処理しますか」
「取材同行者として登録しろ」
「分かりました」ハーパーはドアに向かった。「ちなみに局長、Netflixから彼らへの連絡が来ているようです。解雇通知だそうです」
「知っている」
「ご存知でしたか」
「そういう顔をしていた」
ハーパーは出ていった。
午後、ジョンが食堂に来た時、三人がいた。
見た。
「……お前たち」
「お久しぶりです」とジェームズが言った。「ここに住むことになりました」
「誰が決めた」
「局長です」
ジョンは少し間を置いた。「……何をしている」
「YouTubeチャンネルを立ち上げています」とマイケル・チェンが言った。「今日から独立します」
「Netflixはどうした」
「解雇されました」
「……なぜ」
「無断公開を七回やったからです」
「七回」
「はい。最初の三回は警告で済みました。四回目から五回は減給でした。六回目でプロジェクト停止命令が出ました。七回目が病院の映像で、それで解雇になりました」
ジョンはマイケルを見た。「後悔しているか」
「していません」とマイケルは言った。迷いがなかった。「七回とも正しい判断でした」
「……そうか」
「YouTubeなら上司がいません」とサラ・ミラーが言った。「私たちが判断して、私たちが公開します。その方が合っています」
ジョンは三人を見た。パソコンとカメラとコーヒーが並んでいた。「カメラは回すか」
「回します」
「俺のことも撮るか」
「撮ります」
「……断ったら」
「撮らないことにしますが、気づいたら撮っています」
「正直だな」
「メキシコで学びました。隠すより言った方がいいと」
ジョンは少し間を置いた。それからコーヒーを取って席に座った。
「……好きにしろ」
「ありがとうございます」
三人は作業を続けた。ジョンはコーヒーを飲んだ。
夕方、ダリアが食堂に来た時、三人がいた。
「あなたたち、住んでるの?」
「住んでいます」
「なんで」
「局長が許可しました」
ダリアは三人を見た。「……Netflixはどうなったの」
「解雇されました」
「え」
「七回無断公開したので」
ダリアは少し考えた。「七回も」
「七回です」
「……すごいわね」
「自分たちでもそう思います」
ダリアは椅子を引いて座った。「YouTubeでやるって聞いたんだけど」
「はい。今チャンネルを設定中です」
「チャンネル名は」
ジェームズが画面を見せた。
「The Man Who Would Not Die」
ダリアは画面を見た。しばらく見た。目が少し光った。「……それにしたの」
「これしかないと思いました」
「そうね」とダリアは言った。「それしかないわ」
「サムネイルを作っているのですが、ダリアさんに相談したいことがあって」
「何」
「バンコクの朝に白バイで走っている映像があります。あの日、撮影していました。サムネイルに使っていいですか」
ダリアは少し間を置いた。「……見せて」
マイケルがパソコンを回した。
白バイが走っていた。朝の光の中を、白いBDUとマフラーが走っていた。
ダリアはその映像を見た。
「……これ、使って」
「ありがとうございます」
「絶対使って」
「使います」
ダリアはパソコンから目を離した。「ところで、ここに住むなら掃除当番もやってもらうわよ」
「……掃除当番ですか」
「住むなら当然でしょ」
三人は顔を見合わせた。「……承知しました」
「サラに当番表を作ってもらって。あの人が一番きちんとしてるから」
「分かりました」
ダリアは立ち上がった。「チャンネル、うまくいくといいわね」
「ありがとうございます」
「ドキュメンタリー、ずっと見てた」とダリアは言った。「百回以上見た」
三人が少し固まった。
「……ありがとうございます」とジェームズが言った。声が少し変わっていた。
「百回以上、ですか」とサラが言った。
「百回以上よ」
「……それは」
「それが私がここにいる理由よ」とダリアは言って、食堂を出た。
三人は少し黙った。
「……撮っとけばよかった」とジェームズが言った。
「撮っていました」とマイケルが言った。
「いつから」
「ダリアさんが入ってきた時から」
「さすがだ」
三人は作業を続けた。バンコクの夕方が窓の外にあった。




