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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
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カクヨム、誤字脱字、コピペ、賞賛求む

この季節になると、血の匂いが一層濃くなる。宵闇の中で一点の光に虫が集るように人々が集い、熱に狂い高らかに声を上げるからだ。


「急がなければ、急がなければッ!」


熱意、興奮、活気、それは時に混ざり合い、時に膨れ上がり、時に大きな衝撃をもたらす。


「何故!何故、今ッ!?いや、考えるな!落ち着け私ッ!!落ち着けェ゙!!あああぁあぁあ!!!駄目だッ!理性を保つことができないッ!!キエェエェェェェェッ!!!」


それが潮風に乗って流れてきた頃、背筋を抉り立てるような悪寒に苛まれた。それは正気を揺さぶり、正常を異常に変えるには十分すぎるものであった。


「私でさえ自粛し触れぬというのにッ!何も知らぬ愚か者が汚れた手で女王の私財を弄ぶなどォ!!!許せぇぇんんんんんんんんん!!!!」


場は、孤城レアルタリアと群諸島リーリアスを繋ぐシンサーバ貿易航路。青い空と青い海に挟まれながら、奇声を発する飛翔物は祭事を控えるレアルタリアへと矢面を向けていた。


「ふんふ〜ん、ふふん。」


「おや、上機嫌ですね。ナイアルラトホテップ様。」


「わかる?わかっちゃうか!さすがはショゴス!」


堂々と黒が寝転がるソファは使い古したブランケットを生地に据えたようで、足はとっくに投げ出されてしまっていた。


「お褒めに預かり光栄でございます。しかし、疑問ですね。紅火徒花と会合を成しながらナイアルラトホテップ様が上機嫌になるなど。」


「あーいうつまんない事はまっさら忘れるに限るってね!もっと面白い事で上書きしちゃえばそれまででしょ?」


脚が1本欠けた木製の椅子に腰をかける舵頭は寝転がる黒に興味深げな視線を投げる。


「それが、■をここに呼び出した理由でございましょうか?」


「そうだよ〜。ショゴスにはこれから僕の研究に付き合って貰いたいんだ。」


埃を散らしながら少年はソファの上で勢いよく上体を起こす。そのままソファの肘掛けに膝裏を乗せ、踵でソファを蹴り飛ばして立ち上がる。


「合同研究という訳ですか。■にはどのようなメリットが?」


「メリット?それはなんでしょうか?」


「あぁ、いえ。ハスター様に頼み事をすると時たまそのようなことをボヤくので、口にしてみた次第でございます。」


「そうですか。ショゴス、付き合うお友達は良く選びなさいね。」


舵頭を嗜めるように美麗な淑女は口を開き、舵頭が腰を据える椅子を蹴り飛ばす。


「儂らが求めるのは、確かな結末でも明確な未来でもない。絶え間なく変化を続けていく混沌じゃよ。」


「いわれずとも。このショゴス、全身全霊で混沌を求める次第でございます。」


ネイビー調のスーツが汚れることも厭わずに両手と両膝を地面につける舵頭は、その背中に腰を据える舵頭の椅子になるように無言を貫いた。


「それで計画のほどは?」


「まずは小手調でしょう。レアルタリアにしがみつく吸血鬼を引きずり下ろします。この変化を世界はどう扱うか、それによって今後の行く末は大きく変わります。」


舵頭に腰をかける舵頭。そして、それに語りかけるのは舵頭。


「ふむ。高貴なる吸血鬼の女王ワードズ・フェイル・クイーンですか。言葉では表すことの出来ぬほどの美貌の持ち主、確かに気になりますね。」


「面喰いだよね、ショゴスって。別に否定するつもりはないけどさぁ、かおなんてそんなに大したものだと思えないけどなー。」


「■が興味を持つのは造詣でございます。顔とは造詣がもっとも深いものの一つ、抗いがたい魅力があるのでございます。」


「それで舵を頭にしたんでしょ?その美的センスは私には合わないんだけど。」


気持ち悪い物を眺めるように、少女は顔をしかめて舵頭に視線を向ける。


「芸術とは納得でございます。実物を曲解し、奇抜な回答で的を射た気になる。本質を蔑ろにしアレやコレやと虚構を膨張させ、次第に求めるのは他者より優れた感性を持つという矜持のみ。そして、そこに疑念をもたぬように絶え間なく自己を騙し続ける。その結果、本人が納得さえしていれば良いのですよ。」


「あ〜はいはい。話戻すけど、修正役の一人がレアルタリアに襲撃をするみたいだから、それに乗じて欲しいんだけど。」


「ふむ。■が出るだけで女王が腰を上げるのでしょうか?」


徐に、舵頭は頭に据える舵を取り外して胸元から取り出したナプキンで表面を撫で始める。繊細で赤子を取り扱うような優しさをもつその動作は、まるで絵画のように映る。


「種は蒔いた。貴様の役割は水を与えることだ。」


「水、でございますか。」


「そう、水だ。」


一通り拭きおえた舵を頭にもどし、汚れ一つついていないナプキンを折りたたんで再び胸元に戻す。


「それで、■は何をすればよろしいのでしょうか?」


「はぁ……ったくムードもへったくれもないね。ま、いいけど!レアルタリア城主のア・ン・サ・ツ!よろしくね〜。」


「承知いたしました。しかし、暗殺というのならばティンダロス様が適任ではないでしょうか?」


「ティンダロスはクトゥグアにオネツだから動かないよ。ま、あんな気持ち悪い女に浮かれるくらいだから丁度いいんじゃない?」


「どのように丁度よいのかは測りかねますが、重ねて承知いたしました。では、また後日お会いいたしましょう。」


「はいは〜い。お相手は研究会所属の這い寄る混沌ナイアルラトホテップと全ての先祖ショゴスがお送りいたしました〜。」


夕日が沈み月が顔を上げた頃、やっとの思いで木彫りの駒を摘み前に持ち出す。


「これでどうだっ!……どうなの?これ。」


「えーっと、歩兵だから前でいいはずですけど……あれ?敵陣にはいる場合は歩兵って最低3体必要なんじゃなかったでしたっけ?」


薄い本を両手で広げてヘカーテが不思議そうに首を傾げる。


「いえ、9手前でのローディアスによる砲兵の攻撃ですでに城壁が破壊されているので歩兵は一人でも侵入できるであります。」


木製の盤上は長方形となっており、対立するように白い城と黒い城が建てられている。シディはその城と城の間に幾つも置かれた木製の駒の一つを指さす。


「ウェイトウェイト!ちょっと待てって!弓兵の見張りはどうなったんだよ?歩兵の侵入を防げるんじゃねぇのか?俺の弓兵はまだ生きてるぜ。」


白い城の城主として腰を据えるルーシフェルは大げさに城付近で弓を構える木製の駒を持ち上げて指をさす。


「え〜?ヘカっちちょっとソレめくってくれる?……あっ、マジじゃん!これローディっちの歩兵ダメなんじゃね?」


ヘカーテがめくった本を横からのぞき込み、核心的な文章を見つけたのかチヨコは大きく声を上げる。


「待て、崩落の状態で歩兵が一人で侵入する際には駒が変化するはずだ。特殊条件でのみ使用が許される駒、暗殺者になるのではないか?」


一連の駒が収められていたケースから、ヒバナがやけに作り込まれた駒を一つ取り出して、ヘカーテのもつ本をチヨコと共にのぞき込む。


「あ!そうです!この状態は暗殺者になるので、弓兵の見張りは無効!そのまま暗殺に成功するのでローディアスさんの勝ちです!」


正式に勝ちを断言された後、ソレを覆すルールは見当たらなかったのか皆が頷き合いやっとのことで勝利が確定した。


「ホーリーシットッ!マジかよ!?そんなずりぃ駒あんのかよ!」


「特定の条件下でのみ使用が許された駒、使用条件がかなり難しい分効果も絶大でありましたね。」


ヘカーテから本を受け取ったシディはかなり後半のページをめくりながら、興味深そうに口を開いた。


「ウチは弓兵に活躍して欲しかったな〜。やっぱ同業?みたいなもんだし。」


「弓兵を主体とした戦術もあるようだな。見たところ、ほかの特殊駒(イレギュラーピース)に比べて条件も緩い。即効性に特化した戦術なのだろうな。」


ケースのなかに収められた駒の一つを取り出して、ヒバナとチヨコは愉快げにソレを弄くる。


「おめでとうございませす、ローディアスさん。どうでした?レアルタリアで親しまれる盤上競技の机上の戦争(バンバルグ)は。」


「嬉しいより疲れたの方が勝っちゃうかも……外で遊んでた子供たちを見て簡単そうなんて思った自分が情けないよ。」


フレスタットではカードゲームが好まれるように、レアルタリアでは卓上遊戯が好まれるようだった。ジェネリアから軽く耳に挟み、無邪気に遊ぶ子供たちを見て手を出してみたが、脳みその使わない部分がないのではというほどに厳しいルールが幾つも設けられていた。


「なにはともあれ……ナイスゲーム、ルーシフェル。」


「おぉ、勝者がする顔じゃねぇな。」


「どっと疲れちゃった。今日はもう寝よう。」


レアルタリア祭まで、残り1日。

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