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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
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また少し停滞します。

「それでは、レアルタリア祭開催にあたっての直前会議を始めさせて頂きます。」


座り心地の悪い椅子に真面目な顔をした大人達が腰をかける。天に登ろうと特出した玉座を囲うように置かれたのは5席。


「進行は私、行政補佐官のバギズ=ハンキンスが。議長は現レアルタリア城主《《代理》》であるパーキリス=レアルタリア様がお勤めになります。」


「皆、いつも通りよろしくね。」


玉座に腰を据えるのは優しい顔をした初老の男。その玉座の側で背筋をピンと伸ばすのは規律さを体現したような中年の男であった。


「僭越ながら、先ずは皆様方のご出席のほどを確認させて頂きます。また、会議の円滑な進行のため申し訳ありませんが確認の後はファーストネームのみでお呼びさせて頂く場合がございます。ご理解の程をよろしくお願いいたします。」


5つの平等にならぶ席は位や立場こそ均一を示すが、性質や特質は示し合わせたかのように色を出す。


「財政管理局局長、リンバス=クローク様。」


「リンバス=クローク、ここに出席しているわ。」


最も絢爛な椅子に腰をかけるのは薄紫色の髪を靡かせる貴婦人。その正体はレアルタリア内の財政をクローク財団として一枚岩にした先達、ハーネス=クローク直営の子孫に当たる財団長。彼女を知るものは金貨を積み上げる者ラベンダー・アルケミストとその手腕を称し、彼女は讃えられる自負から自らのことを金貨の婚約者(マダム・リンバス)と呼称させる。歴代のクローク家の中でもかなりの革新派に腰を据え、卓越した手腕は混沌の世でより一層の輝きを見せる。


「法政管理局長、ネロ=マーキュアス様。」


「ネロ=マーキュアス、ここに。」


リンバスが最も絢爛ならば、ネロは最も厳格であろう。年齢の割に深く掘り込まれたシワは威厳を、揺るぎない瞳は正義の一つを指し示す。進行役に当たるバギズと共に政治学のエリートとして法政管理局で長きにわたり活躍をしてきた豪傑の一人であり、レアルタリア内での最高裁判長を務める英傑でもある。若い頃は野心家として有名であったが、長きにわたるしのぎ合いはその粗を削り内に潜む厳格さを残し消えた。


「内政管理局局長、ヌディア=ハイウェイ様。」


「はいどうも。ヌディア=ハイウェイはここに。」


老いた男は細身な身躯が相まってか、より一層老けて見える。加えて嗄れた声、蓄えたヒゲは一目すれば耄碌を焼き付けるがこのレアルタリア内において、ヌディアほど器用な人材は他にいないだろう。内政管理局は教育から福祉など民に直結する業務を担当する。ソレゆえに不満や不平の矛先が向くことも多いその席にいながら、就任してから大きな反感を買うことなく運営しているといえば、その異質さは際立つだろうか。


「領土管理局局長、フィラー=ネモメス様。」


「はい、フィラー=ネモメス出席しています。」


レアルタリアの運営を仕切る5つの席、その席のなかで《《唯一》》の亜人種とされている樹人種(ドライアド)の男、フィラーは実績主義のレアルタリア社会をよく体現した人物であろう。領土管理局内ではその出自から訝しまれるようなことも少なくはなかったようだが、亜人種特有の一点に特出した知識と能力によって瞬きの間に局長へ出世した今太閤。かねてより領土管理局は保守的な古い派閥が多かったため、フィラーがこの席に収まってからは革新的雰囲気が一層強くなった。


「治安維持局局長、ジェネリア≠ミスティク様。」


「ジェネリア≠ミスティク、出席しておりますわ。」


いつの間にかこんな席にまで来てしまった。時折ふと冷静になったとき、そう考えてしまう。捕食者と不老者の呪いを施した犯人探しの傍らで、ある程度の地位と自由を求め続けた結果がこの席だとは嘆きたくなってきてしまう。しかし、嘆き愚痴を吐くのはこの祭事を終わらせてからではならない。心のなかでパンと両頬を叩き一切の呆けを追い払う。


「皆様方のご出席が確認されましたので、これより本日の議題であるレアルタリア祭について移行させて頂きます。パーキンス議長、よろしいでしょうか?」


「うん、よろしくね。」


張りのある声と柔らかい声、これではどちらが城主かわからないではないか。


「皆様方のご尽力あって、レアルタリア祭の開催はついぞ明日へと迫りました。本会議では今一度レアルタリア祭についての軽いおさらいと当日の動きについての最終確認をさせて頂きます。一通り私、バギズの方から進行していきますので発言の際は挙手のほどをよろしくお願いします。」


――――レアルタリア祭、当日。


『それでは皆々様ッ!レアルタリアのさらなる発展と、高貴なる吸血鬼の女王への感謝を!以上で開会のセレモニーを終了とします!』


万雷の喝采に飲まれゆくその際まで、快活な声は上がり続けた。


「実況解説として、セレモニーの挨拶はどうだった?」


「ま、頑張ったほうじゃねぇか?俺ならもっと上手くやるがね。」


レアルタリア古城の高いベランダからごった返す人波を見おろして、ルーシフェルは戯けたように口を開いた。


「んじゃ、そろそろ時間だから俺は出るぞ。土産物は期待しとけよ。」


「いいな〜、僕もお祭りでたかったよ。」


「そこはヘカーテとシディに要相談だな。存在者探知にゃ、当然ながらお前も引っかかっちまうからな。」


レアルタリア古城の書斎を抜けた先にある小部屋には一人掛けの椅子とこじんまりとした机、そして人一人が身を乗り出せる程度のベランダだけが作られていた。


「ヒバナさんたちによろしくね。」


「おぉ、んじゃまた夜会でな。」


起こり得るかわからない襲撃のために用意された唯一の穴、混乱をさけるために設けられていたこの小部屋が祭事の3日間を過ごすセーフルームとなった。


「相変わらずの活気だな。マークウィンにも見せてやりかった。」


「ヘンドリクス様、こちらでございます。」


フレスタット王家の家紋が印字された馬車、それを囲うように歩を進める兵隊達を分断し毅然とした態度でその男はレアルタリア古城へ招かれた。


「ジェイス。」


「如何なさいましたか?ヘンドリクス様。」


「剣の模型とバンバルグ、それとレアルタリアには古槍術があったな。上質な槍を購入しておけ。マークウィンが王室に戻っても暇をしないようにな。」


「……承知いたしました。」


何処か哀愍のようなものを孕んだ瞳を側仕えは一切表に出すことはなく、丁重な礼で承った。


「なんなんだこの変な匂いは!鼻が利かないではないか!」


飛び交う歓喜と歓声から外れた路地の裏で、腹立たしげに地面を蹴飛ばすのは長身の女性であった。艷やかな黒髪は腰元まで伸び切り、浅黒のハリのよい肌は若さという美貌を確立させる。切れ良い銀眼光に筋の通った鼻は鋭利な輪郭のなかで程よく収まる。もっとも、今はそれらを苛立ちで曲げているが。


「くそっ!ただでさえこの人数だというのに!このような場では自由に動き回ることもできない!愚かしい人間どもがぁ!」


かなり背の高いロングブーツはガンガンとタイルを蹴り続け、それに連動するようにぴったりとしたタイツを腿にのぞかせ、腰元からはふっくらと膨らんだトランクホーズに身を包む。背広の色いロングコートを肩口で留めるその女性は、傲慢な口調を閉ざさなくとも絶世の美人であるのことにかわりはなかった。


「ん?マーシャルさん?」


「あぁん!?」


「あぁ!やっぱりマーシャルさんじゃないか!去年の祭ぶりだから、丁度1年ぶりだね!」


路地裏を覗き込むように現れたのはキュートなウサギの被り物をした老人。その深い造形には心当たりがある。


「……ジャガーじゃないか、久しぶりだな。息災か?」


「おかげさまでね!マーシャルさんの宝石の知識がなければ儂はどうなっていたか……。ま、救われた分以上は金槌を振るうさ!それで、こんなところで何をしてたんだい?」


「……色々あるのだ、色々な。」


我ながら完璧な誤魔化しだろう。矮小な人間がいくらその小さな脳みそを捻ったところで、この完璧な言葉の裏をかくことはできまい。


「色々……まぁいいか!それより珍しい石を知人から預かっていてね!どうだい?今年も用意してるよ!スターゲイジーパイ!」


「なに!?スターゲイジーパイ!?」


どうせこのまま乱雑に歩いても目当ての品は見つからないだろうし、宝石商として侵入している建前もある。けしてあのパイに釣られたわけではないが、釣られるわけがないのだが一先ずはコイツについていくとしよう。


「珍しい宝石だったら買い取ってもかわないのか?」


「いやぁ、わからないね!なんせ預かり物だからね!祭の間滞在するなら、是非とも会ってほしいけどね!」


けしてあの愛くるしい魚の顔だけが飛び出したフォルムと、甘美な食感にうつつを抜かしたわけではない。女王に使えるこの私がそんな世俗に流されるわけはないのだから。



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