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たくさん読んでくれ。褒めてくれ。
「その顔は……御嬢様、マダム様にお会いしてきましたね?」
「あら、顔にでてまして?」
隠せている自信も隠しているつもりもなかったので、わざとらしく声を上げて笑みをこぼす。
「御嬢様は本当にマダム様がお好きですね〜。弱みを握られているとは思えません。」
「故郷の味、とでもいうのでしょうか。獰猛な野心と向上心、恥も知らない自尊心に齟齬のない自己評価。ああいう典型系な野心家というのは、この時代にやすやすとお目にかかれるものじゃなくてよ。」
「確かに好感を持てる方なのは間違いないですね〜。こと経済においてマダム・リンバスの隣に並ぶものは居ない、あれ程までにお強い方だと嫉妬の念さえ湧かないものです。」
真白のティーカップに彫られた金線を紅茶が超えたころ、そんな話は芳醇な香りにのまれて消える。
「それで、研究会の方は如何でしたか?」
「今日の晩には。早急に対処しようにも情報が不足していてはどうしようもないですから、歯痒さを堪えるしかありませんわね。」
「全く厄介ですね〜。城主様も見る目がない。」
散々カージェスには礼節という物を叩き込んで来たが、やはり研究会が絡むと規律は乱れる。だが、それを咎められるほど潔くなったつもりもない。
「それで、守備の方は?」
「ヘカーテ様、シディ様考案の探知魔術を発布することに致しました。いやはや、想像以上でございましたね〜。魔女の最高傑作に死霊術の開祖、フレスタットはいったい何を動かせばあのような方たちを集めれるのでしょうかぁ。」
「そこも追々調べる必要が出てきそうですわね。ともあれ、今は仲間であることを安堵しましょう。」
珍しくついている、そんなことをぼんやりと考える。不運と絶え間なく踊る人生であったため、何かと曲解して受け入れてしまうことも多々あるが、ローディアス一行に善性があり同盟になれたことは素直に喜ばしいことであった。
「これで元存在者対策は出来たとして、問題は夜会でございますねぇ。」
「ヘンドリクス公が研究会と繋がっている、残念ながら確定してしまいましたわね。」
「はぁい。ヘンドリクス公から研究会を通してのレアルタリアへの交渉。内容は報告書待ちだとしても、発行元は不動でございますからねぇ。」
これは露見させたのか、或は露見してしまったのか。どちらにせよ早い段階で繋がりが見えたことは喜ぶべきことで、どちらにせよ繋がりがあったことに悲嘆するべきだ。
「いったい、何処から何処までが魔王騒動なのでしょうね。」
「もしかしたら下命達の呪縛もまた、なのかもしれないですねぇ。」
「あぁ、嫌でしてよ。身震いしてしまいますわ。」
茶菓子かわりの軽口は腹を満たさすことはなかったが、乾いた心根にはちょうどよかった。
「……これ、ほんとに大丈夫なやつなんだよね?」
「はい!実証させて貰えたので、胸を張って大判太鼓を押せますよ!」
大通りから少し外れた路地の裏。なんてことのない植木鉢の裏をヘカーテが器用に掘っている。
「実証って……誰にやったの?」
「レアルタリアが逮捕してる人達です。本城とは別の牢獄で、だいぶ離れていましたけど効果は抜群でしたよ!」
「いっ……ぱん市民で試さなかっただけ成長かな。」
鼻歌交じりで彫刻刀を握るヘカーテは滑らかに刃先を動かしていき、しゃがみ込んで数分としないうちに植木鉢へふっと息を吹きかけた。
「できました!これで完成です!」
「おぉ、凄い。本当に魔力を殆ど感じない。」
「はい!あくまで相手に察知されずなので、今回はそこにも重きを置いてみました。十分に死霊術の知識を持ち込めた自信作です!」
肉体と魂を分離する、という話だったが尻目で見た大通りは何時も通りだったので本当に害はない様子だった。こっそりと構えていた未達の獣をホルダーに収め、手放しで褒めることにした。
「でも魔力が見えなくなるって、どうやったらそんなことできるの?隠すとか弱めるとかは聞いたことあるけど、こんなに完璧に分からないのは始めてかも。」
「そうですね……ローディアスさんは魔力はどこで感じていると思いますか?例えば目で見てるとか、音がするとか。」
「多分……目、かな?」
「では、魔力の音などは一切感じたことはないですか?例えば匂い、例えば空気感、例えば味、そういうのは一切感じないですか?」
「一切かぁ、そう言われると目以外でも感じたことがあるような、ないような……肌感とかもあるかな?」
植木鉢を元々あった場所へ戻したヘカーテは、いつぞやのように教鞭を振るう顔つきになる。
「はい、多分ですけど多くの人は目、ついで肌感や空気感だと言うと思います。」
「うん。音とか味はあんまりないかなぁ。」
「魔力はその正体こそ不明ですが、私達はみんな明確に感じ取ることができます。第六感って聞いたことありますか?」
「だいろっかん?ないかな。」
頭を悩ませるもなく、そのような言葉を聞いたことはなかった。
「大体の生物には視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感というものが備わっていて、それぞれに対応した処理方法で情報を脳に集めます。目なら見て、耳なら聞いて、みたいな簡単な認識でいいですよ。」
「それが五感なら、第六感ってことはもう一つ何かあるってこと?」
「いえ、勘違いされガチなのですが第六感はプラス1じゃないんですよね。元々第六感っていう言葉自体は昔からあったらしくて、新しく命名するまでの仮名が本命になってしまった言われてます。」
「へぇ〜、じゃあ第六感はどういうものになるの?」
日の当たりづらい路地から大通りに出て、人混みを避けながら進んでいく。レアルタリア古城がある場所ほど栄えているわけではないが、それでもこの人混みはやはり祭に際してのものだろうか。
「第六感は五感に相乗するものだと言われてます。明確にコレ、というのではなく視覚に+aといった感じで、通常の視覚と同じ働きをしながら、おまけでもう一つ見えるといえばわかりやすいですかね。」
「その+aが第六感で、視覚が強化されてるってこと?」
「ですです!大体そんな認識で良いとおもいます!」
やはり店頭には吸血鬼伝説に基づくものが掲げられていた。ジェネリアさんやカージェスさんの様子を見るにそこまで信仰に熱いイメージはないが、律儀にどこも掲げていてるのは、もはや祭としてのアイコンになったからなのだろうか。
「私達はその+aで魔力を感じ取っているので実は見えても聞こえても味わってもおかしくないんです。ただ、目はほかと比べて最も情報を集めやすい器官なので+aの幅が大きい。なのでほとんどの人は目で感じるみたいですよ。ただ亜人種はそのルーツによって発達している器官が変わるので、まちまちですね。」
「そうだったんだ……。そういう知識って何処にいけば手にはいるものなの?エルフがもつ膨大な知識の中では一般的だったりする?」
「いえ。エルフの使う魔術はエルフ専門のメカニズムがあるので少し違うんです。といっても、宗教色の違いなんですけどね。こういった知識は偶々出会った方に教えて頂いたんです。」
まばたきの合間に何人もの人を追い抜かし、または追い抜かれる。雑多に目を奪われてしまいそうな人混みの中で、ヘカの声はよく通った。
「へぇ〜、やっぱり専門家の人がいるんだ。その人はどんな人だったの?」
「お名前は教えてくださらなかったんですけど、呼び名?通り名のようなものは教えていただきましたよ。私が人生で出会ったなかで群を抜いて魔術への造詣が深かったのでよく覚えてます。」
「変わった人だね。ちなみに、なんて名乗ってたの?」
「霧の魔女、とだけ。素晴らしい知識を数多く持ちながら、霧に関する魔術だけを専攻していた特異な女性でした。」




