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カクヨム、誤字脱字、コピペ
「おぉ……コイツは《《エグい》》ね!」
「嬉しそうな声ですわね。」
「変人の嬉しそうな声って、信用ならないんですよね〜。」
ギロギロと覗き込む単眼が歓喜を含んだ声を上げた。それにしても、単眼に隅々までのぞき込まれるというのは思った何倍も迫力を携えていたので、ローディアスはすこし萎縮してしまった。
「エグいってどんな感じ?」
「手を付けられないね!笑っちまうくらいとんでもない呪物だよ!」
「えぇ。」
興味深げにローディアスと未達の獣を交互に覗き込む行いが、採寸らしいのだが結果はこの通り豪快な笑い声だけが残された。
「まぁまぁ安心しなさないな!呪物なんて手のつけようがないモンさ!」
「呪物には呪物たる故があるという事ですわね。」
諦めたような笑みを浮かべるジェネリアにカージェスがハンカチを差し出すが、その手をジェネリアが押し返す。
「にしても随分と精密にイジられてるねぇ!これは素人がイジらないほうがいいね!」
「素人?この道うん十年の匠ではありませんか〜。」
「その程度の爺じゃ軽く及ばないってことだね!改良者にあってみたいが、話が通じるかどうか……そのレベルだね!」
もしかして、とチヨコと顔を見合わせるが目線がぶつかった先でどちらともなく笑ってしまう。いつだってあの死霊術師は常識の範囲外であったのだから、上の句に続くヘカーテは凄いのでは?なんて下の句は今更すぎるものであったからだ。
「じゃあホルダーは無理な感じ?だとしたらウチらって投獄?」
「……ジャガー次第ですわね。」
「あぁ、ホルダーは作れるよ!そもそもこの改良自体が持ち運びに重点を置いてるものだからね!そうじゃなかったら完全に詰んでたさ!」
「よ、よかった。」
安堵の息を吐いた矢先に、じろりと単眼がコチラを捉えた。
「これ、刻印式と詠唱式の2つを備えてるけど、それぞれの効果は正しく把握してるのかい?」
「刻印式は起動した人の手元に戻ってくる効果で、詠唱式はビームが出るって聞いてます。」
「ビーム?出したことあるかい?」
「ないです。」
初めて見るものを珍しがる子供のように瞳がひかる。
「出してみてよ!」
「やっ、やっぱり……。」
「もし、ローディアスさん。」
耳打ちをするようにジェネリアがそっと耳に息を吐く。
「ここは素直に出してくださいまし。ジャガーは腕こそ確かなのですが、気が乗っていればいるほどクオリティの上がる職人気質なのでして。ローディアスさんの啖呵で大分気が良くなってますので、ダメ押しということでどうか。」
「わ、わかりました。」
ジェネリアの謀に頷くが、念押しを忘れることはできない。
「どの程度の物が出るか分からないですから、できれば開けた場所に出たいんですけど。」
「なら裏庭だね。空に向かって打てば間違いないだろうさ!」
そんな言葉を工房に残して促されるままに外に一向は向かった。
「一応、口元を空に向けてますけど何処からビームが出るか分からないので、皆警戒しててくださいね。」
「ジャガー様は下名が、御嬢様達はお気になさらず自己防衛なさってください〜。」
ジャガーを守るようにカージェスがすり寄るが、光景を邪魔しないためか邪魔にならない最大限の場所でとどまる。
「じゃ、じゃあ生きますね。」
「おう!いつでもいいよ!」
ヘカーテに教えられた詠唱を思い出す。そんなに複雑なものでもなかったが、やはり古風な言い回しにはなるので少しの照れくささが同伴している。
『魂に定着、詠唱を始める。』
手の内に収まるだけの頭蓋骨がひんやりとした冷たさを帯びて、手のひらに吸い付く。触れる手が指が皮膚が、それを身体の延長線とでもいうように管を伸ばして赤血を流し込む。
『鬣を持たぬ獅子の王。血潮通わぬ鉄の奴隷。脳を持ちえぬ藁の骸。並べてソレらは、人に至らぬ未達の獣。』
薄紫の光を孕んで人骨が嘶きを上げる。それは悔恨を訴えるように冷たく、怨嗟を嘆くように激しく、叫び吠えそして鳴く。
『意味なく吠え、意味なく鳴き、意味なく叫び、意味なく嘶き、意味なく謳う。何一つを成さず何一つも得ず。されど無様に夢をみる。』
ガクリと下顎骨が引かれて、結晶の頭骨は空に大口をひらいた。その様を消して目にすることはないが、なぜだかそのように強く感じた。口の底沸き上がり、膨張し、混濁に薄汚れた銀光が恨みがましく溢れ出る。
『|これを持って詠唱を成す《アイムレディ》!|風が渦巻く幻想を哀れに抱く獣たちよ《オブサッセドウィズファンタズム》!』
滲むような青に潜む白雲に、それは一つ穴を空けた。
「おおおぉ!予想以上だよ!!」
「こーれは、まじでヤバタンかも……。」
「魔物戦、これがあれば即座に片が付いていたのではありませんか?」
「皆まで言わなくてよろしいですわよ、カージェス。」
面々の反応を見るに、ヘカーテに文句を言ってもバチは当たらないのだろうとぼんやりした感想を抱いた。
「ん?」
「危ないっ!」
何やら急接近してくる気配を感じ顎を上げれば、赤子程度の黒塊が画面めがけて接近してきた。
「うっ、うわぁ!!」
情けなく漏れ出た悲鳴は、まるで尊厳を守ってくれるかのようにガキンという爆音にかき消された。
「大丈夫!?ローディっち!!」
「な、なんとか……。ありがとうチヨコ助かったよ。」
落ち物に気がついていち早くチヨコが猟銃を行使してくれたおかげで、弾かれた黒塊は背後に落ちた。
「いやぁ、驚きましたねぇ。流石はチヨコ様、相変わらず鮮やかな狙撃ですね〜。」
「変わった形状の猟銃だとは思ってたけど、そんなふうに撃つのかい!はぁ〜爺にゃ考えつかない構造だね!」
口々に褒め称えられる狙撃手を尻目に、一人ジェネリアは落下物のもとへ歩み寄る。
「……これ、見てくださる?」
「え?……こ、これって!」
地面に差し向けられた指の先に転がるのは、まるで結晶の塊であった。丁度、手元に収まるソレを真似たようなソレは、姿形を野鳥でも模したかのような形であった。
「鳥……だよね。」
「鳥、ですね。」
今まさに青空を享受せんと広げられた自由の翼を伸ばした石像は、大自然を生きる生物の一コマを切り取った如くの出来栄えだ。
「いや、いやいやいや……まさか。」
脳裏をよぎるのは荷台のなかでゆすられた記憶。『そうなんですよ!そこが魅力なんです!何でもオークション当時はですね、手首ごと切り落とされて付いてきたんですよ!私が着手する前は延々に離れないどころか、触れた部分から体が結晶状に侵食されていき、最終的には頭以外を結晶化させて、その頭にすり替わる呪物だったんです!』
「ふっ、触れた部分から体が結晶状に侵食されていく……。」
「あっ、あーーー……そんな話あったかも……。」
目を合わせた先でチヨコは血の気が引いた顔をしていた。そのおかげが、鏡が手元になくとも自分のしている顔も想定がついた。
「その話、詳しく聞かせてもらえるね?」
「……スッーー、はい。」
隠し通すにも仕方がない。どうか悪名さえ轟いていないでくれと、情のない願いを含ませてか細い声をレアルタリアに響かせた。
「へくしゅん!あ、すみません。それでですね、この箇所とこの箇所にこの刻印を置いていけば隙間なく感知することができると思うんですよ!」
「加えて是の形態変化があればより詳細な感知が行えるであります。レアルタリア祭を滞りなく行うためにも、この手は打つしかないでありますよ。」
「ナチュラルに催し物を脅しに使ってくれるね〜。年に一度とは言えここまで警備に気をつける必要あるかなぁ。……どうしようか、ギザン。」
「守りが強くなるのは良いことなんじゃねぇか?それに、魔王騒動でレアルタリアも大分兵士を出してるだろ。存在者の自称騒ぎといい治安が揺らいでんのは確かだからな。ま、城主様に相談だな。」
そんな会話もあったかもしれない。ともすれ、ジャガーによるホルダー作りは1日どころか半日さえ掛からずおわった。
「無差別に呪いを撒き散らさないように内面はしっかり改造されてるからね、鍛冶師としてはつまらない話だけど、後は如何にもな殻があれば問題ないよ!」
こうして、売り場に並んでいた大きめの鳥かごにその単眼は向けられて、腰元に巻かれたベルトにカナビラとともに掛けられた。
「手の間に1枚挟ませて、かつ身近にあるならこれでいいね!ビームも迂闊に出ちまうもんでもなさそうだしね。」
「あ、そう言えばだ。ちょっとコレ見てもらっていい?」
思い出したようにポーチから器用に取り出されたのは、快挙の証。もとい魔物討伐の際に落ちていた謎の結晶。
「あぁ、確かに。鳥が結晶になるなんて珍しい現象が2度も起こったのですから気になりますわね。」
「う〜ん?未達の獣は関係なさそうだねどね。ちょっとあづかってもいいかい?レアルタリア祭に際して、馴染みの宝石商が来るんだよ。ソイツに見てもらうことにするよ!」
ありがとうございます!丁重に下げられた頭を最後に工房に背中をむけた。




