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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
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カクヨム方式ですので、読みづらい場合はそちらにどうぞ。

「お呼びでしょうか、父上。」


身軽な絹に身を包む長身の男は、厳格な顔つきを崩すことなく部屋に現れた。


「……来たか、ヘンドリクス。」


「はい。このヘンドリクス、確かに参りました。」


5人ほどが横になれる豪勢なベットの中心で虚ろに漏れた声は衰弱していたが、たしかにヘンドリクスを捕らえて発せられていた。


「先日、ギルザリアから手紙が届いた。我が国の兵士を投獄したとのことだ。」


「……それは、一大事でございますね。」


深くなったシワは病床により濃くなっているのか、はたまた病床でさえ跳ね除ける怒りを携えているのか。


「その兵士らは我らが誇り高き王家の紋を所持していた。お前の仕業だな、ヘンドリクス。」


「さぁ?」


「とぼけるのも大概にしろ!」


よろよろと腰を上げた老人は、今にも朽ちるその喉を裂いて怒声を張り上げる。


「無断で任命式を行い、通行書を発行するに飽き足らず、《《蝋人形》》にまで手を出したそうだな!あれがどれ程危険な代物か分かっているのか!?」


「……父上、お身体に障りますよ。」


「ごほっげほっ、お前の親として思うところはあったから今までは見逃してやったが、今回ばかりはもう許すことはできない!既にお前が編成した部隊はギルザリアに預け、その指揮権は放棄した。通行証も廃止、あの暴利もだ!蝋人形も即刻回収する!」


枯れ枝と見紛うほどの腕を振るい、老人は悲痛な叫びをあげるが、それを見据える男はせせら笑うように口をゆがめる。


「父上、《《元》》次期国王であるこのヘンドリクスが何の手立ても打たず、指をくわえているとでも?」


「くっ、研究会か!?アレと関わるのは辞めておけと言っただろう!あれらは話の通じない災害と同じだ!」


「ですが、利益をもたらします。」


「それこそが災禍だと言っておるのだ!お前のその安易な行動で、フレスタットだけでなく、この世界に生きる尊い民を穢すことになると何故分からない!!」


「そんなことにはなりませんよ。このヘンドリクスは、あの程度の者たちに後れを取りません。」


もはや、風前の灯。老いとは何処でも残酷だ。


「……マークウィンを次期国王にしたことを恨むのはわかる。だが時代なのだ、ヘンドリクス。」


「ほぅ、分かっていただけますか?実兄でありながら弟に立場を追われ、能無しと蔑まれるこのヘンドリクスの気持ちを。」


「魔王の誕生による暗黒の時代。この時代を生きる民の為に今は頭脳ではなく、圧倒的な武力で鼓舞をしなければならない。馬術、武術に長けるマークウィンをシンボルに民を引きねばならない。目に見える英雄が必要なのだ。」


かつてその特質した頭脳でフレスタットの経済難を立て直した智将がこのザマか。


「だから、先んじて産まれた兄を犠牲にしたと?時代のためであれば、弟にその席を追われた無能な兄として歴史に名を残せと、そう父上は仰るのですね?」


「そのようなことはない!マークウィンが剣としての象徴であるならば、お前は盾としての象徴なのだ。マークウィンの凱旋を出迎えるのは、ヘンドリクスお前でなくてはならない。お前はお前の用いるすべてを使って、マークウィンが守るフレスタットの民に安寧を与えるのだ。そして、お前の名は確かに歴史に残る。王の不在であった国を支えた賢者としてだ。」


「そのようなものに価値などない!このヘンドリクスが求めるのは、手放された王座のみです!」


だから、どうかその老いに縛られていてくれ給え。我が覇道を穢すことなきように。


「……王とは誰よりも美しく着飾る事を求められた奴隷だ。ヘンドリクスよ、その輝かしい王座は鎖なのだ。生半可な心持ちで腰を据えるものではない。」


「そうです、父上。このヘンドリクスは奴隷になりたいのですよ。恥辱を忍んでこの絹に身を包むよりも、晴れやかな心持ちで布切れに身を包みたいのです!」


「ッふざけるな!マークウィンの命を!フレスタットの未来を!この混沌の時代を!その程度で切り抜けられるものか!!」


「……埒が明きませんね。」


失望を吐いて踵を返す。これ以上は老骨には過激だろう。


「まて、ヘンドリクス!話はまだ終わってないぞ!」


「あまり大きな声を出さないほうが良い。病床に伏せる晩年は穏やかなほうが良いですよ。」


「病床だと?……減らず口を!くっ、待て、ヘンドリクス!ヘンドリクス!!」


重厚な扉を閉め切り、廊下に出る。


「ナイアルラトホテップ、出てこい。」


「はっ、ここに。」


廊下の隅で膝をつく黒は変わらず従順に頭を下げる。みたことか、研究会など権威の前では民草と何ら変わらないではないか。


「指揮権の放棄から蝋人形の所有権をギルザリア城主へ《《譲渡》》しろと王はご命令だ。ヘンドリクスの名を持って、正式にこの執り行いを実行する。同時に、《《蝋人形の所有権を研究会の手の内に収めろ》》。」


「承りました。」


予定外の番狂わせには取り乱したが、そうなればあとは立て直せば良いだけ。


「通行証の廃止だが、これは改定という形を取る。金利を廃止し、僕の直下に所属させる。研究会が蝋人形の所持権を放棄することを引き換えにこの契約を取り仕切れ。勿論、ルーシフェルとだ。」


「承りました。」


なるほど盾とは言い得て妙だ。アレでも僕の親というわけだ。


「ルーシフェルの件はどういたしましょうか?」


「まだ泳がせておけ。《《目的が何なのかは知らないが仕事は上出来だ》》。変わらず蝋人形と本隊の状況を報告させろ。報酬は……余程のものでなければ僕が便宜を図ろう。」


「承りました。」


僕は受けに回ったほうが強い。無謀にも無茶にも前線を走る愚弟とは違うのだ。


「……待っていろよ、マークウィン。《《俺》》が必ずお前を守ってやるからな。」


上がる口角を惜しみもせずにヘンドリクスは歪な声を漏らした。


「僕は君と交渉に来たんだ、楽園の修羅。あぁ、それとも紅火徒花(べにびのあだばな)の方が馴染みがあるかい?」


「生憎と今はヒバナと名乗っている。そのような名で呼ぶ必要はない。ナイア、ナイ……交渉とはどういうことだ?」


黒の手から逃れ、紅の拳から逃れ、相対する2人を天使は壁際から見る。


「ナイアルラトホテップ、長かったら伝達者で良いよ。」


「必要ない。妾は今後汝と関係を持つつもりがないからな。」


「それは無理だよ、ヒバナ。君は規格外イレギュラーすぎるからね。」


まるで劇で踊るように伝達者は大仰に指を差し向ける。


「それが交渉と関係あるのか?」


「あぁ、勿体ぶらずにいこうか。実はね蝋人形……シディの所有権を今僕が所持している。この所持権を君に譲渡する代わりに僕からの条件を飲んでほしい。」


「所有権?シディに所有権があるのか?」


「っ、そ、れは……。」


訝しげな薄紫の瞳が天使を捕らえる。天使は声こそ発することはなかったが、伝達者を見据えるとオズオズと首を縦に振った。


「条件を飲まなかった場合、シディはどうなる?」


「答えてあげなよ、ルーシフェル。」


「俺?……シディはフレスタットが所有する危険魔術内包品ってことになってる。だから、正式な所有権を失えば封印か殺処分される……はずだ。」


鬼は賭博場での会話を思い出した。確かにオーナーがその様な事を声高に叫んでいた気がする。


「条件は?」


「一つは通行証の暴利について。君の推理通り、この暴利はヘンドリクスが考えた首輪だったんだけど、思いの外君たちが機転を利かせるもんだから直球になったみたいでね。蝋人形の所有権と引き換えに君たちにはヘンドリクス直下の特別部隊になってもらう。」


「そうなるとどうなるのだ?」


「俺?ヘンドリクスが雇い主になるわけだから、基本的にはヘンドリクスの命令を第一に聞くことになる、はずだ。」


話の詳細を追記していく天使は、なぜ鬼が自分の話に信憑性を得ているのか分からなかった。同時に、少なくとも伝達者に問うよりは良いのだろうがという思考も備えていたが。


「もう一つは、ルーシフェルについて。確かにルーシフェルはヘンドリクスの息がかかったスパイだった訳だけどその事は他言しないで欲しい。」


「それは汝との関係性によるな。汝はヘンドリクスとは別口なのか?」


「半分そうで半分そうじゃない。総括したらまぁ別口だと考えたほうが良いかな。」


わざとらしく顎に手を添える伝達者は、悩む素振りを見せながらあっけらかんと口にした。


「そちらが出せる利益は?」


「ローディアスの事をヘンドリクスには黙っていてあげる。」


歪に歪んだ黒は引き裂けんばかりに、両端を吊り上げて笑みを浮かべた。

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