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「これは……凄い盛り上がりですね、シディさん。」
「レアルタリア祭、噂には聞いていたでありますが想像以上の盛り上がりであります。」
活気のある賑わいのなかで感心したように呟く二人組は、その賑わいを担う多くの人々と差異を抱えていた。
「この混み具合じゃ何処も大変そうですね。ローディアスさん達、ホルダー作れてるといいんですけど。」
「ジェネリアはレアルタリアにおいてかなり立場の高い者でしょうし、今はそのコネを信頼するしかないであります。それより、是達は是達のできることをやるであります。」
片方は横長の耳に、もう一方はその肌質に。最もその心根はさらなる異彩を放っているのだが、それは傍目で見ただけではわからない。
「そうですね!正体は掴めないにしても、抹殺の件は気になりますもんね。」
「加えて、元存在者達の情報は乏しいであります。是達で出来る対策となるとどのようなものになるのでありましょうか?」
フィーリング調査として実際に外に出向いてみたが、シディさんの言う通り明確な案は浮かんでいない。
「まずは探知しなきゃですよね。怪しい人や物を見つけないことには警戒も出来ません。」
「探知でありますか。探知に特化したアルカナモードを備えてはいるでありますが、特定ができなければ機能は難しいであります。特定に特化したネクロマンスはないでありますか?」
「特定ですか?……う〜ん、特定を目的としてはなくとも結果的に特定が出来るものが理想的ですよね。となると細分化できるものか又は色付けでもできれば……あ、出来るかも知れません。怪しい人の特定。」
死霊術としては初歩的なものをいくつか組み合わせて、軽い構築式を練ってみる。程なくして頭のなかで出来上がったそれは一見してそれらしい問題は見当たらない。
「肉体と魂を分離して知覚する方法でどうですか?少し効果は甘いですけどこれなら大した準備も時間もかからず行なえます。」
「なるほど。肉体を魂の器と定義し、そこにフィルターを挟むということでありますか。ですがソレを行ったところで特定に漕ぎ着けるのでありますか?」
「はい。シディさんの言った通り一度フィルターを挟み分離し、そののまま紐付けし直すんです。」
「なるほど。肉体を器とする魂は一度分離をすると自然に肉体に戻る傾向があります。しかしフィルターを挟むことでその回帰を妨げ、紐づけを行う事で肉体に近い位置でとどめ続けるでありますね。」
「そうです!そうすると普通の構造なら互いに引き寄せられ合い紐づけと共生することで擬似的に器に収まっている状態を再現すると思うんです!ですがジェネリアさんの話の通り、もし仮に死体を利用して元存在者が活動しているとしたらその引き合いに特異な反応が見られるかもしれません。」
「そしてその特異な反応を感知し、是がより深い特定を行う。おぉ、非の打ち所がないであります!」
「そうと決まれば早速構築していきましょう!レアルタリア古城周辺の出入り口を押さえるとして、簡素な刻印式にして普及させればあっという間にレアルタリア国内を押さえられます!」
和気あいあいと話しながらソレ達は踵を返してレアルタリア古城へ戻っていった。
「聞き取れたか?」
「全ッ然!どういう仕組みなのかな〜あれ。」
そんな2人の様子を他所に、人混みと屋台に紛れて一般的な背格好をした男女が呆れたように息をつく。
「奇術師でもわかんねぇか。」
「奇術師って別に便利屋さんじゃないからね。ま、死霊術師の方がよっぽど偏ってるのはたしかだけどさ。」
「死霊術師?もう一方の嬢ちゃんの方はノータッチか?」
折りたたんだ紙幣を中年の男へ差し出し、引き換えに串肉をもらった男は軽い会釈をして会話に戻る。
「おっ、ありがと〜。お嬢ちゃん……アレは魔女の残した最高傑作で究極的な外方魔術の集合体だよ。まぁ魔女に取ってって意味でだけどさ。」
「へぇ?」
「蝋に極小で膨大な量の陣を組み込むんだよ。そして、それらは単体じゃ意味を持たないけど接触し合うことで作用する。たくさんの小さい歯車をイメージしたら分かりやすいかな?360°左右上下縦横無尽に歯車が移動し合うけど、最後は必ず噛み合って回り続ける。けど、歯車は移動してるから当然結果が変わる。こんな感じで、蝋人形はどの形状に変化しても組織内では極小の陣同士が隣り合うことで常に何らかの魔術を発動している状態を保つんだよ。」
「はは!さっぱりわかんねぇな!」
丁重に順序立てた説明を受けた男は豪快にソレを笑い飛ばして、女が食べ終えた串肉の串を受け取る。
「とにかく、あの蝋人形ちゃんは自分の体を変形させることは出来ても、体外のものを変形させることは出来ない。だから疑わしいのは死霊術師の方ってわけ。」
「だけど死霊術と考えるにしちゃ特殊すぎるって話か?」
手に収めた串を男が握りしめると、木色の串はその形を保ったまま黒に染まり、やがて風に吹かれて形を崩し空に舞う。
「そう。ていうか本来死霊術っていうのは一介の学派に過ぎないんだよ。生き死にに対する考え方っていうか、宗教に近い感じかな?とにかく死霊術を魔術の応用として使うなんてそもそもがおかしい話なんだよね〜。」
「けどあのエルフ?の嬢ちゃんはソレをやってんだろ?」
「そこがネックなんだよね〜。」
簡素に積まれた木材に腰を掛ける女に向かい合うように、男は腕を組んで前に立つ。
「ヘカーテ=クロミナル=テラフィネス。正直な話魔女の最高傑作と同等かソレ以上だね。」
「マジでか?フレスタット指定の一級危険魔術内包品って話だろ?一級なんていや、魔王様を除きゃ最優先事項だぜ。」
「だからそのレベルだって話なんだよ。参ったね〜これは。」
腰を掛けた木材から勢いよく飛び上がった女は地面に足をつける頃には、ガタイのよい男に姿を変えていた。
「ヘカーテの嬢ちゃんは死霊術を八百年かけて学派から魔術に昇華させた。それも、自覚があるかは分からないけど各所で燻ってた死霊術の学者を奮い立たせてね。あの嬢ちゃんは死霊術師の中でカリスマ的な存在だ。」
「物騒なカリスマもいたものだよね〜。」
「物騒なのはそれだけじゃない。なんでもヘカーテ=クロミナル=テレフィネスは死霊術で自分の死体を蘇らせて実質的な不老不死なんて噂もある。」
両手を組み合わせてぐいっと背中を伸ばしながら、女は他人事のように口にした。
「加えて、死霊術師はリーリアスを除く全ての国で禁術扱い。わかるか?危険魔術じゃなくて禁術。研究どころか存在さえ知られちゃいけない魔術だぜ。ま、結果名前は広まっちまったわけだけどな。」
「そんなのを監視するって、ボクたち門兵には荷が重すぎるよね。」
辟易とした様子で男は首を振る。
「とにかく、分かったことは一つ。対象は会話を限定する能力を保有してる。盗み聞きは意味ねぇってことだな。」
「なら変わらず監視を進めるしかないね〜。あんなのがゲストなんてジェネリア嬢は何を考えてるんだろうね。」
「言いなりの城主に類を見ない混乱の時代。さてさて、俺達ゃ一体どうなるんだろうな。」
来た道とは全く違う路地裏に溶け込み、男女は姿を消していった。
「……あっぶねぇ、やっぱり監視ついてるよな。羽で遮らなきゃ盗み聞きされてたぜ……。」
「ふむ。やはりあの門兵、一筋縄ではいかぬか。」
レアルタリア古城内、二人で収まるには少々豪勢が過ぎる部屋のなかに天使と鬼は腰を掛けていた。
「帰ってきたら忠告するかぁ。露骨に顔に出しそうだけどな。」
「時に目に見える警戒は見えぬ警戒よりも効果を出す。調整は任せたぞ、ルーシフェル。」
「少し荷が重すぎねぇか?」
「万能の白羽だ、それくらいが丁度よいだろう。」
愉快げに瞳を閉ざして、鬼は気楽に吐き捨てる。
「にしても珍しい組み合わせだな。恋バナでもするか?」
「ふっ、妾とて花も恥じらう乙女だ。ココでは辞めておこう。」
「んじゃ真面目に計画でも考えるか?っても、今何をするべきか分かんねぇけどな。」
「ならば、妾から一つ良いか?」
薄紫の瞳が開かれた、真紅の瞳へ差し向けられる。
「お、なんだ?」
「いい加減明らかにするべきだと考えてな。」
「あん?」
腰掛けた椅子から立ち上がり、鬼は《《扉に背中を預けた》》。
「ルーシフェル、貴公の話をしよう。」




