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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
32/41

鍛冶師の自負

なんと10万字です。

「つきましたわよ。」


「あれ、思ったよりフツーの感じなんだ。」


眼前に現れたのは、フレスタットでもよく見かけるレンガ作りの店。言葉通り変わったところもなく、強いていうなれば煙突のような円柱の店構えであることくらいだ。


「では、入りますわよ。」


「へいラッシャぁいィィ!!」


「うわっ!?」


木製の扉を押しあければ、カランコロンとでも鈴がなるのではないか。そんな予想を蹴散らす怒号が扉の奥から現れた。


「御新規様ってあれ!?御嬢様じゃないの!どうしたどうした!?貧しい攻防にお恵みを施してくれんのかい!?」


「貧しいだなんて、戦争の影響で鍛冶師ブラックスミスは随分と実りがよいと聞いておりますわ。」


「だっはっはっはっ!風が吹けば桶屋が儲かるってね!まぁ今回は桶を求められてるから、もっと直接的だがね!」


大きな声をくぐもらせて笑うソレは、豪快にジェネリアと対話をする。ところで、それは奇妙な被り物をしていた。


「う、ウサギ?」


「おっ、そこに気がつくとはお目が高い!そうさコイツは爺の自信作、どんな無骨な顔つきでも子供を泣かせることのない被りもの。通称をピンクうさぎ!こだわりポイントはこの愛くるしいデッパとはらだたしい目つきさ!」


たしかに、そのウサギはヤケに縦長の瞳で、しかも白目をむいている最中のような絶妙に腹立たしい顔をしていた。


「ところであんた達は御新規様だね!ようこそ!レアルタリア一番の場末(ロマン)鍛冶屋、グッドナイト工房へ!爺はここの店主兼職人のジャガーさ!よろしくね!」


快い出迎えをするソレは、分厚い手袋をつけた右手を差し出してくる。


「ウチはチヨコっていいま〜す!よろしくお願いしま〜す!」


その手にチヨコが羽根を差し出し軽い握手を交わす。その後に続こうと手を伸ばしたが、


「あ。」


「ん?おぉ……なるほどね、だからココに来たってわけだい!」


握手しようと差し出した手に収まる未達の獣をみて、そのウサギは合点がいったように頷く。


「えぇ、特注でこちらの方にホルダーを作って頂きたいのですわ。」


「へぇ、納期は?」


「今日中に。」


隣にまで足を進めたジェネリアは、強気な言葉でさらに踏み出す。


「幾ら御嬢様でもそりゃ無茶だね。さっき言ったろ?戦時いくさどきさ。爺達みたいな場末の鍛冶屋にさえ仕事が回ってくるんだ。私的なことをしてる場合じゃないね。」


「当然、対価は支払いますわ。」


「そういう話じゃないんだよ。鍛冶師の自負(アイアン・プライド)ってやつだよ。わかるだろ?作りたくないモンばっかり作ってちゃ、この老骨は退屈で死んじまうっていってんだ。」


囲われてなおそのため息ははっきりと聞こえた。


「退屈でございますか?」


「そう、退屈だね。炉で燃える火がない。金槌を振いたい理由がない。コイツに賭けたいと思う出会いがない。……まったく、退屈な時代まで生きちまったもんだね。」


失望、退屈、苛立ちをないまぜにして吐き出すようなソレはどこまでも重たく沈んでいった。


「……あの、名乗り遅れました。ローディアスって言います。今はレアルタリアで魔王討伐部隊に編成してもらってます。」


「へぇ、流石は御嬢様のお連れだね。ちょうどいいね、ベイカニックのクソどもに文句言っといてくれないかい?お得意の選民思想のせいで、若い奴らが参っちまってね。」


「はい、それは絶対言っておきます。」


失望を拾い上げる。退屈を跳ね除ける。苛立ちを吹き飛ばす。それは本来果てしなく困難なことに違いない。


「そして、絶対に戦争を終わらせます。殺すとかじゃなくて政治的に話をつけるかも知れないですけど、それでも魔王を鎮めます。」


『随分とした様変わり。』


「はっ!言うねぇ。それでなんだい?爺のご機嫌取りかい?」


「はい。戦争を終わらせれば、退屈もなくなるんですよね。退屈がなくなれば楽しく仕事ができるんですよね。」


けれど、今だけは簡単だ。この使命を忘れなければそれらは容易に片付けられる。


「だから、助けて(ベット)してほしいんです。見返り(ジャックポット)は世界平和と楽しい仕事。分の良い賭けだとおもいませんか?」


『この男は大言壮語を惜しみなく散らして、恥なんて知らない顔で妄言を宣う。』


「言うは易しさ。爺がお前さんのホルダーを作った所でなにも変わんないだろ。」


「かわります。ホルダーがないと投獄されちゃうので、まずは貴方(アンティ)が必要なんです。」


そのためならどんな事だって厭わない。


「この《《鉄火事場》》が勝負時。賭けてくれませんか、僕達に。」


『ッ、ははは!』


『その言葉を出されちゃ、ノらないわけにゃいかないね。」


天井に向かって伸びた2本の耳を、分厚い手袋が掴み、あろうことが引きちぎる。途端に特徴的な輪郭を失ったそれは丸になる……なんということはなく今度は三角の耳を2つ早す。出っ歯は牙に、地肌は灰色に。所々に残ったウサギのピンク色がまるで血のように口元を濡らす。腹立たしいウサギから一転、ジャガーとなのる鍛冶師の頭はホラーコメディな狼に姿を変えた。


「改めてようこそ。レアルタリア唯一の(アダルト)鍛冶屋、ノクターン工房へ。」


打って変わっての快い出迎えに胸をなで下ろした。


「やっぱり人たらしだね、ローディっち。」


「えぇ!?そんなに人を誑かしたことないよ。」


「へぇ〜、あの時の説得は誑かしたに入んないんだ。」


「チヨコが言ってる通り説得だからね。誑かしじゃないからね。」


どうやら一階は、商品の売り場だけだったようで、現在は狼頭のジャガーに習って階段を登っている。


「それにしても、本当にありがとうございます。ジャガーさん。」


「ん?あぁ、構うことはないよ!どうせ作ってやるつもりだったしね。」


「え?」


あっけらかんとした様子で吐き出された言葉に目を丸めてしまう。


「恩人の頼みなんだ。断るわけないだろ?」


「恩人?」


「過去に違法な鉱石が持ち込まれたことがありましたの。検問に務める兵士が悪さをしたのですが、あろうことが冤罪を訴えまして。私としては同門の恥を拭う為でしたが、それ以来ジャガーは恩人だと。」


サラリとした様子でそう口にするジェネリアだが、レアルタリアで投獄をされた経験があるからこそわかる。きっと投獄や冤罪の回避はとても難しいことなのだろう。


「まぁ、御嬢様はその一件以降から今に至るまで迷惑料として資金援助を定期的にしておりますから、ここの工房にとって重要なお客様であることは変わりないでしょう。」


「カージェス、口を慎みなさい。」


普通ならば惜しげもなく晒しだすような善行を慎ましやかに隠し立てる。もしもう少し後ろ向きな性格で産まれたなら、隣にいることが少しむず痒いくらいの人格者だ。


「ちなみにホルダーって何ギルクくらいなの?あっ、レアルタリアは紙幣なんだっけ?」


「たしかにレアルタリアは紙幣ですけれど、フレスタットとは近隣であると同時に同盟国でもありますのでギルクでも支払いは可能ですわ。そうですわねギルク換算ですと……二百万ギルクほどでしょうか?」


「まぁそんなもんだね。ただ、ローディアスのソレはかなり厄介そうだからもっとかかるね!」


賭博場で稼いでなかったら危なかったね、と耳打ちするチヨコに激しく首を縦に振った。


「ま、詳しい話は採寸が終わってからにしようかね。」


「採寸?」


そんな話の折、一枚の鉄扉に向かい入れられる。どうもかなりの高さだったらしく扉には4と彫られていた。


「わぁ、凄い!」


「そうだろう?自慢の工房さ!」


扉の先で待ち構えていたのは、大きな溶鉱炉や鍛冶台、壁に張られたのは何かの設計図なのだろうか、あらゆる技巧を詰め込んだ部屋がそこにはあった。


「さて、それじゃ早速採寸を始めるかね。」


「あの、採寸って?」


狼の被り物を両手で挟む様は、まるで頭を抱えているようだった。それが問いかけを無視して力めばポンっ!と軽い音がしてその被り物が抜ける。当然だが、ジャガーにも素顔があったわけだ。


「コレで見るのさ、凄いだろう?」


シワが深く刻み込まれ、毛は白く染まる。しかしその顔は耄碌には見えず貫禄を叩き出す。一体それは、不敵に歪んだ口元からか、あるいは今だ熱意を絶やさないその《《単眼》》からだったか。

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