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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
30/41

秘密にナイフとフォークを立てて

カクヨムのせいです

「……えっーと、お久しぶり……です?」


「えぇ、その……お久しぶりです、ローディアスさん。」


鉄格子を一つ挟んで、御嬢様は得もいえぬ顔で口を歪めた。


「まさか、呪物の持ち込みで投獄されて居たとは。報告を聞いたときは驚きましたわ。」


「……その、本当に申し訳ありません。」


今となって考えれば、なぜあれだけシームレスに呪物を受け入れていたのかハタハタ疑問であったが、その疑問を後押しするように横にいるネクロマンサーはすこし不満げに頬を膨らませていた。


「呪物取り扱い法なんてナンセンスですよ。公にされないからこそ呪物なのであって、というか呪物そのものが危険という考え方が古いんですよ。そもそもネクロマンスは歴史を辿ればですね、今の人たち抱える死生観の根本になった学術なんですよ!天国や地獄、魂と肉体、霊体、先祖、信仰、背徳……死と向き合ったからこそ発展した文化を否定するつもりなんですか!」


「すんません、けして偏った危険思考(プロパガンダ)を発信してるわけじゃないんすよ。ただちょっとユニークな奴なんすよ。」


天使以上にユニークとはこれ如何に、恐らく同じところでツバを飲んだ。


「相変わらず皆さん愉快ですねぇ。」


「ともかく、皆さんの身元保証人は私が務めることにいたしましたわ。一次的にはなりますが、レアルタリアの魔王討伐特別部隊として編成されたことにしてくださいまし。」


「釈放だけでなく身元保証までとは、ジェネリアには感謝をしてもしきれないでありますね。いくら支払えばいいでありますか?」


「これは個人的な恩返しですので金銭を頂くことはありませんわ。それに、多分ですが放っておいても釈放はされていましたわよ。」


「え、そうなん?」


そんな兆しは一晩牢屋で過ごしたが感じられなかった。肩をそろえた面々も同じ感想なのか、薄暗い牢獄内に疑問がこだました。


「お、ジェネリア嬢じゃねぇか。知り合いってのはマジだったんだな。」


「世の中狭いね〜。やっほ~、奇天烈集団!」


正面から歩を進めてきた二人組は見覚えのある人物であった。一人は長い槍を背中に携える筋骨隆々の男、もう一方はまさしく牢屋に閉じ込めてきた……職務を全うした女だった。


「ほう、良い姿勢だ。」


「お?わかるかい、お姉さん。」


「その節は大変なご迷惑をおかけしました。」


「う〜ん、まさかただの良い子ちゃんだとは。ま、反省しているようで何よりだよ〜。御嬢様は相変わらず良い人を探すのが得意だね。」


深々と下げた頭をポンポンと袖で叩く女は、快い声で笑いかけてきた。


「お知り合いなんですか?」


「えぇ、同じ部隊に所属しておりますから。」


「部隊?」


漏れ出た疑問の手を取って、御嬢様は優雅に舞う。


「えぇ、先ほど話した特別編成は新設ではありませんわ。」


「ってことは、ウチらは加入するってこと?」


「飲み込みがはやいな、鳥の姉ちゃん。」


大きな体に見合った大きな声で、筋骨隆々の男は腕を張って笑う。


「ボクは門兵のクルルクだよ、よろしくね〜ルーキー達。」


「オレは門兵のギザンだ。よろしく頼むぞルーキー達。」


「ちなみに、私は隊長でカージェスは補佐ですわ。」


「……もしかしてジェネリアさんってとんでもなく偉い人なんじゃ?」


「あら、心外ですわね。偉くもない人が他国に派遣されていたとお思いでしたか?」


そりゃあそうだ、と頷いた後に政治に対する造詣の浅さが浮き彫りになった。


「あん?でも俺らって今フレスタットの義勇兵なんだよな。レアルタリアの部隊にそう簡単に加入できるもんなのか?」


「ふむ……確かにそうでありますね。是達は、契約のもとで動いているので権利の衝突が生じる可能性が高いであります。」


「えぇ。その事を含めてお話がありご招待いたしましたの。」


ご招待という言葉に恥じないそこは、6人という大所帯で押し寄せて尚、それぞれが自由に腰をかけることができる幅を持っていた。


「ところで皆様、お腹の調子はどうですかぁ?」


「一応牢屋飯を貰いましたけど、全然足りませんね。」


「うちも!レアルタリアの美味しいご飯なにか知らない?せっかくだし食べてみたいな〜。」


身を乗り出すチヨコを満足気に眺めるジェネリアは、パンパンと手のひらを2度打ちつけると部屋と部屋を隔てる扉が静かに開かれた。


「失礼いたします。」


「わっつ?んだこりゃ。」


清潔を表す真白の服達が運んできたのは、いくつもの銀の半球。それらは時に熱を持っているのか、8人で囲むような円卓に添えられていく度に少し部屋の中の温度を上げていく。


「急で申し訳ありません。助かりましたわ。」


「いえ、料理長シェフはジェネリア様へお届けする料理を作っているときが一番生き生きしております。勿論、我々調理人(コック)一同も同じ気持ちでございます。」


柔らかい笑みを浮かべた白服の一人を最後に、部屋に現れた数人は1人ずつ丁重な礼を残して姿を消していった。


「ではまずはランチに致しましょうか。カージェス。」


「はぁい。」


名を呼ばれたカージェスが、中指と親指をこすり合わせてパチンと弾けば、銀の半球は吹かれた火のように姿を消していく。


「ほぅ。」


「これは、凄いですね……!」


姿を現したのは、魚を肉を葉を穀物を机を埋め尽くすほどのそれぞれを、麗しく加工した料理の数々。鮮やかな赤身、艶のあるタレ、ころも、或は姿造り。食に品位をつけ足したそれらは、食欲よりも怖気を差しに突きつけてくる。


「なるべくクセのない味付けをベースにレアルタリア風味に仕立てさせました。少々フレスタットに比べるとスパイスが多いと思いますが、楽しめていただけるとおもいますよ。」


「あ、はは。気持ちはうれしーんだけど、こういうところのテーブルマナーわかんないっていうか……。」


「テーブルマナーなんて気にしないで大丈夫ですよ〜。というか、御嬢様のをみたら気にしてるとかじゃないと思いますよぉ。」


「あら、私は素直に食べているだけでしてよ?」


気を許し合った二人がホストだったからか、或は空腹に負けてか、どちらにせよその食事会は柔和な雰囲気で鼻腔をくすぐった。


「ん〜〜!!おいしぃ〜!!!!」


「どうです!?可愛いでしょう!!うちの御嬢様!!」


「ど、同一人物なんですか?」


年相応と表現するに相応しい様子で、ジェネリアは満面の笑みを浮かべて食事を頬張る。確かにそこにはテーブルマナーなどはなく、ただそれぞれが思い思いに食事を楽しむ空間にあった。


「次はどれにするでありますか?」


「じゃあね〜、その魚食べよっかな!なんか、魚ってめちゃくちゃ美容にいいみたいなこと聞いたし!」


とは言え流石に足を乗せるわけにもいかないのか、チヨコの選んだ食事をシディが掬って口元に運ぶ。もうすっかり見慣れた光景になった。


「ローディアス、これは辛いか?」


「あ、食べてみますね。」


隣に腰を掛けるヒバナは辛いもの全般が苦手らしく、余った腕が運んできた肉を口に含む。


「あー……なんていうか、痺れのある感じですね。ヒバナさんは少し苦手かもしれないですね。」


「助かる。では妾は引き続きこれを食べるとしよう。」


「なぁ……これ、話できるのか?」


眉をひそめる天使を気にしてか、ジェネリアはコホンと小さく咳を出して場を取り仕切る。


「結論から申しますが、私はローディアスさん達と敵対するつもりはございませんわ。同時に、私のことを信用できなくなればすぐさまレアルタリアを後にしてくださいまし。」


「おいおいおい、随分とぶっそーな話じゃねぇか?」


ナイフとフォークを静かに戻すジェネリアは、一切その瞳をずらす事なくこちらを見据える。


「存在者について、限りなく正解に近い解釈を得ました。そして、この情報には際限のない価値がある。私がローディアスさんを利用することに頷けるほどに。」


「なるほどな。だからあの門兵2人はここにいねぇーってことか。」


どういたしますか?その問いを押し付けるように、個を確立させる扉が執事によって音もなく開かれた。


「情報はあるに越したことはないと是は考えますが、ここは張本人であるローディアスの判断を仰ぎたいと考えるであります。」


「妾もそれでよい。どうせ魔王を討つという目標は変わらない。」


「偵察ね。うん、ウチもローディアスに任せるよ。」


「私も、ローディアスさん次第だと思います。」


好きにしていいぜ、そんな最後の後押しを受けて審判の時を迫られる。


「結論からでいいかな。」


「……えぇ、構いませんわ。」


ナイフとフォークをテーブルに戻して、その瞳を真正面から受け止める。


「どんな話であれ、ジェネリアさんを信用するよ。利用するなら、最大限利用してね。」


「ふふふっ、全く叶いませんわね。カージェス、閉めなさい。」


「はぁい。」


再び仕切られた部屋の中で、少女は可憐な笑みを浮かべる。


「あくまでもこれは個人的な恩返しですわ。どうか何卒、肩ひじ張らずに聞いてくださいまし。」


「ありがとう、ジェネリアさん。」


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