三者三様
カクヨムから引っ張ってます
「それに、私たちだけの力では勝てませんでしたわ。フレスタットの義勇兵の方々の手助けがなければ、恥ずかしながら勝機は見えませんでしたもの。」
思い浮かべるのは、死力を尽くした燕尾服の男。あの特筆した判断力と思考力には光るものがあった。そのぶん影も濃かったわけなのだが。
「フレスタットに……義勇兵?申し訳ないが、我が国ではそのような制度は採用していないはずだが。」
「はい?」
より一層、影は深まる。
「失礼だが、どのような人々であったかお教え願えるか?性別や背丈、名前など覚えている範疇で構わない。」
「男性が二人と、女性が一人。名前はそのチームを率いていた男性だけ名乗っていただきました。たしか……シフェルさんと。」
「シフェル……フレスタットでは聞かない名前だな。出身や、所属などは聞いただろうか?」
「いえ、ですが聡明な方でございましたわ。魔物による投石を身を挺して防いでくださいましたわ。」
「それほどの勇ましい者が居たとは驚きだ。しかし、報告書を読ませて貰ったが一般の民が対応できる範疇を超えている魔物だった。なにか特殊な力でも持っていたのか?」
「……えぇ、なんでも女性は狩りを生業としていたらしく、専門的な知識で助けていただきました。」
「その女性の名前は?」
「非常に残念ながら、お名乗りいただいたのはシフェルさんだけですわ。」
「……。」
「……いや、すまないな。少々気を張りすぎているようだ。きっと勇気ある民草が照れ隠しに義勇兵と名乗りを上げたのだろう!ハッハッハ、我が国は民に恵まれたな!」
「えぇ、マークウィン様が知らないとなればそうなのでしょう。一兵士として、フレスタット都民の勇気には感服いしましたわ。」
「それでは、我々はもうここを立たねばならない!共に魔王を倒し、平和な世界を取り戻そうではないか!」
「えぇ、この身微力ながら尽くさせていただきますわ。それでは失礼します。」
折り目の正しいお辞儀を残して、白銀の甲冑と道を違える。
「チッ、うまくいきませんわね!」
「その通りですけど、私の猿真似はやめなさいな。」
口惜しげに地面をたたくカージェスに、手の甲をさせばヘラヘラと笑みを浮かべて軽い調子で口を開く。
「猿だなんてとんでもなぁい。御嬢様は例え獣でももっと高貴な獣になりますよぉ。」
「猿だって十分高貴でしてよ。」
そんな箸休めにも満たないような会話が、やっとのこと心拍を正常に正してくれる。
「どの程度見破られたと思いますか?」
「どうでしょうか〜。少なくとも勘の良い方だとお見受けしましたぁ。加えて、疑うのではなく信じられるか否かで物事を判断する方かと。」
ピンと立てた2つの指はその特性を加味してか、顎に据えられる頃には形を崩していた。
「まず御嬢様の討伐については間違いないでしょう。既に報告書として書き記しておりますし、秘匿性の高いものですから。次に義勇兵ですがこちらも問題ないかと。しかし、ルーシフェル様とチヨコ様のお話はされても、ローディアス様を避けすぎた可能性が高いです〜。」
「……しくじりましたわね。人数を出しておいて触れないとは。」
自己嫌悪が頭痛となって頭を響かせたので、思わず眉間に指を添える。
「下名から見てにはなりますが、それほど卑下することもないと思いますよぉ。ほら、いい人そうでしたし〜。」
「都合の、とつかなければ信用さえできないのが、私達でしてよ。まったく、タダでさえ大事を抱えさせられたと言いますのに……。」
穴を掘れば土がでる。そんなことは知っている。しかし、自分の素知らぬところで穴が掘られ、余剰の土を眼前に積まれているような現状には苛立ちを覚えても仕方ない。こっちは掘りたい穴さえ見つけられていないというのに。
「そういえば、どうでしたかぁ?囚人の方は。」
「その話はランチの時に。カージェス、食事の予約を。」
「はぁい。ここのところ出張続きでしたので、シェフの方々も喜ぶとおもいますよ〜。」
それにしたって、めっきり運のない人生だ。よりにもよって《《猫》》だなんて。
「……。」
「あ、隊長みっけ。」
「メビウス!どうしたんだ、こんなところで!」
白銀の甲冑が闊歩する廊下の先、突き当たりからクリーム色の髪の毛をした少年が姿を現した。
「ん、ちょっと図書館にね。レアルタリアは歴史が古いから貴重な蔵書が多くて。」
「そうかそうか!こういう機会でもないと他国の歴史は学べない!しっかりと学ぶと良いぞ!」
「ね、隊長。なにかあったの?」
同じくクリーム色の瞳は少年特有の柔らかさを孕みながら、培われた経験を眼光に乗せる。
「うむ!メビウス、よくわかったな!」
「うん。何年来の付き合いだとおもってるの?」
何年来のというにはその二人は余りにも違って見える。方や上品な装飾に包まれる青年。もう一歩は革を基調としたスチームパンクに身を包む少年。白銀の甲冑はその膝をつかなければ少年と目を合わせられない。
「別に悪い予感はしなかったんだ、ただ何かを隠しているような気がした。しかしフレスタットを守ってくれたのは確かだ!秘密が多いのは良い淑女だと、ワカバも言っていたしな!」
「ね、僕が出ようか?」
「それだけはダメだ、分かってくれ。」
白銀の甲冑はその分厚い腕をスチームパンクに回し、背後で手のひらを重ね錠前をかける。その鎖に閉じ込められたスチームパンクは諦めたようにその抱擁を受け入れた。その様はまるで駄々をこねる子供を抱きとめるように見える。
「うん、隊長は我儘だね。」
「すまないな、メビウス。」
まだ遊び足りないと手を引く白銀の子供と、それに付き合うスチームパンクの大人。
「皆のところに戻ろう、メビウス!魔王を討つのは早ければ早いほうが良いからな!」
「うん、そうだね隊長。」
白銀の首に両足を回して、スチームパンクの少年は一頭高い景色に興じる。
「お迎えにあがりました。」
「にゃあ、呼んでないにゃ……。」
レアルタリア古城から外れた細道で、格式張って腰を折る者が一人。
「お言葉ですが観測はなさったでしょう?」
「どの未来を観測してもお前がいただけにゃ。ストーキングは勘弁にゃんよ。」
辟易とした様子でため息を吐くソレは、まるで牢獄から抜け出した直後かのように薄汚れた服に身をつつみ、片腕には手錠を残していた。
「やはり思ったよりも自由ではない様子ですね。」
「身なりがにゃん?」
「観測のほうですよ。」
静かに間違いを正すソレは、囚人とは違いネイビー調のスーツに袖を通し、顔は古びた木製の舵であった。
「自由がにゃいんじゃにゃくて、不便になっただけにゃん。にゃんでもできる分、にゃにかをしないようにするのがむずいだけにゃんよ。」
「はい、お気持ちはよくわかります。」
「やすい同情はいらにゃにゃん。それに、アチキと人間じゃどうやっても産まれが違うにゃん。わかるわからにゃいの次元じゃにゃいにゃんよ。」
「……これは、嫌われたものですね。」
首に巻いたネクタイを締め直しながら、参ったように舵が左右に揺れる。
「研究会にゃんて嫌われて当然にゃん。どうやったらここまでタチが悪くにゃれるにゃん?」
「少々自由が過ぎるだけですよ。」
「にゃら、そのうち修正対象ににゃ……あー……そういうことにゃんね。」
今度のため息は本当に重たく沈んだ。
「乗ってやるにゃん、舵頭。」
「話が早くて助かります。」
再び折られた腰が示すのは、歓迎の挨拶。
「■はショゴス。研究会にて使役者として腰を据えています。」
「きっしょい一人称にゃんね。歳食ったらキツくなるにゃんよ。」
「歳をとるなど、随分と人間らしい考え方をなさりますね。」
「……そりゃ、この体は人間だからにゃん。」
やがて話を諦めたのか、囚人は淡々と口を開いた。
「それで、アチキはどこに収まればいいにゃん?」
「では、ハスター様としましょうか。役割は引き続き観測者でお願いします。」
「ハスターぁ〜?にゃあ……趣味じゃにゃいにゃん。」
義務的な咳を挟んだ後に、囚人はショゴスと名乗る者に触れる。
「それでは、向かいましょうか。お相手は研究会所属の■。全ての先祖ショゴスがお送りいたしました。」
「……これアチキもやるにゃん?」
「えぇ、次からは是非。様式美のようなものですよ。」
路地裏で2つの影が消えた。




