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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
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観測者

ご迷惑おかけします

抹殺とは穏やかではありませんわね。」


「こんにゃご時世にゃ、物騒にいったもん勝ちにゃんよ。」


浅葱色の髪の毛が風に揺れた。


「いったにゃんね。棺桶の中から蘇ったと。」


翡翠の瞳が日を弾いて輝いた。


「4人の存在者は今一度舞い戻ってきたわけだにゃん。レアルタリアに。リーリアスに。ベイカニックに。ザレンに。」


「ちょっとまってくださいまし。私がお会いした存在者はフレスタットの存在者でしてよ。」


「にゃあ。そう、それこそがイレギュラーにゃのだよ。」


思い浮かべた燕尾服の男が途端に泥濘を彷彿とさせる。


「おじょうにゃんに質問にゃのだよ。とある商人がリンゴを5個求めている。おじょうにゃんの手元にはリンゴが7個あるにゃん。片道三日かかるとして幾つのリンゴを持っていくにゃん?」


「……7個全て持っていきますわ。道中で何があるか分かりませんもの。」


「にゃあ。」


アチキも同じ考えにゃ、道中でにゃにがあるかわからにゃいからにゃあ。


「要は存在者もおんなじにゃ。一度目の修正が行なわれた段階で、もしかしてとでも思ったんじゃにゃいかにゃ。緊急で対応できるようにスペアを一つ用意したにゃん。」


「そのスペアが、フレスタットに現れた存在者であると?」


明確に霧は晴れていくはずなのに、途方もない坩堝に迷い込んだ気分になる。


「にゃあ。」


「では、貴方達はフレスタットの存在者を抹殺すると?」


「ローディアス、でいいにゃ。こんにゃ土壇場でも冷静なのは褒められたことにゃけど、今は別のところに頭を使うにゃん。」


そして霧が晴れたからこそ見えてきた坩堝と吐き捨てるには、やはりそれは広大すぎる。


「そして、アチキはローディアスを抹殺するつもりはにゃいにゃ。」


「はい?」


猫は気まぐれるようにその坩堝をさらに深めていく。


「ギルザリアでにゃん人が死んだとおもうにゃん?」


「市民の殆と……約10万人ですわ。」


「……にゃあ、その通りにゃのだよ。」


伏せられた翡翠の瞳が初めて何を観ているのか分かった気がした。


「魔王誕生の理由は知らないにゃ。アチキが意思を持った頃には旗が立てられていたからにゃあ。けど、だからといってそんな人数を殺したのにかわりはないにゃん。」


悔恨、自罰、謝意。そんな(くびわ)に猫は繋がれてる。


「それに面識はにゃいにしてもローディアスは同僚……後輩みたいなもんにゃ。ソレの抹殺にゃんて気持ちが良い話じゃにゃいにゃんね。」


「随分と情に厚いのですね。」


「にゃあ、アチキのことを化け物とでも思ってたにゃん?」


自嘲を含めて笑う猫の魂は誰よりも囚われていた。


「まぁみんにゃがみんにゃアチキと同じ考えじゃないにゃ。もしかしたら、一人くらいはもう抹殺を策略しているかもにゃのだよ。それにアチキだって抹殺をする気がないだけで止めるつもりはないにゃ。」


「あくまで無干渉でいるということでして?」


頬の輪郭を隠しきり、肩まで伸びる毛先を指先でくるくると弄びながら囚人はふてぶてしい顔をする。


「言っておくにゃんけど、コレはアタチに出来る最大限の助力にゃのだよ。そんにゃ一言で切り捨てにゃいで欲しいものにゃね。」


「干渉しないことが助力?確かに魔の手が一つ減ったと思えば良いことですが、止める気がないのでは助力とまでは行かないと思いますが。」


そんな言葉を受けて、囚人ははっとしたように眼を見開く。


「すっかり忘れてたにゃん。」


「今度はなんなんですの?」


「アチキ達の正体についてにゃん。」


場を仕切り直すように、パンと一つ音を鳴らした囚人は机に肩ひじをついて手の甲にあごを据える。


「アチキ達のような元存在者には、抹殺にあたって新しい役職(ロール)が与えられているにゃん。」


「ロール?」


「にゃあ。アチキは元存在者改め今は観測者オブザーバーをににゃっているのにゃだよ。未来を観測することで、未来の事象を確定させることができるにゃん。」


机の下では恐らく足を組んでいるのだろう。そして、そんな態度に見劣りすることのないカミングアウトであった。


「未来っていうのは常に無数の可能性に満ちているにゃん。そして、それは絶え間なく変動し膨張し点滅する。コンマに満たない時間のにゃかで、その瞬間ににゃるまで確定することはにゃい。にゃぜにゃら、未来のことは誰もわからにゃいからにゃん。」


ここに来てようやく理解が届いた気がした。この常に見透かされているような気色悪さこそが、囚人が隠し持つ異能なのだと。


「けど、アチキはそんな未来を観測できるにゃん。不確定にゃはずの未来は、一度観測されれば確定する。そして、それは避けられない運命として襲いかかるにゃん。」


まな板に乗せられた魚があとは切り伏せられるだけのようだと感じた。


「アチキが観測すれば、おじょうにゃん達は勝手に死んでいくにゃん。これを助力と言わずしてにゃんというにゃん?」


「大変申し訳ありませんでしたわ。」


にゃんにゃんと満足気に首を振る囚人は、またも計り知れない怪物となった。


「……ま、こんなところにゃんね。あんまりサボってるとヤバいにゃんから、アチキはここで失礼するにゃん。」


「……とめるつもりはありませんわ。ご自由にどうぞ。」


どうせ止めたところで観測されればそれまで。ローディアスについては観測しないと約束をしたが、それ以外は保証されていない。人情は備わっているようだが、それだって化けの皮かも知れないのだから。


「そう言えばおじょうにゃんのにゃ前を聞いていにゃかったにゃんね。にゃ前はにゃんていうにゃん?」


「ジェネリア≠ミスティクですわ。よろしければ、貴方の名前をお伺いしても?」


前二人の詳細は資料で知ったが、三人目の囚人は資料が出来上がるよりも前の会合になったので、ダメ元で名前を尋ねてみることにした。


「にゃあ。聞いた手前にゃ乗らにゃいのも無粋にゃのだね。といっても、あいにゃくアチキ個人に名前はにゃいにゃん。となれば……アレしかにゃいにゃんね。」


そう言うと、仕方なさそうにため息を一つ吐いて囚人は輪郭を隠すように肩まで伸びた毛先を5本の指でかき上げる。


「んなっ!?そ、それは―」


「名刺代わりに焼き付けとくにゃん。」


顕になったのは、頭上に生えた二対の猫耳があるにも関わらず、《《堂々と生えた人間と同様の二つ耳》》。


「新人類!?亜人種はとっとくの昔にその過程を終えたはずじゃ!!」


「何を驚いているにゃん?アチキはさっきからずっと言ってるにゃんよ。《《棺桶から起き上がってきたって》》。」


だとして、額縁通りに受け取れというのは少々無茶があるだろ。そんな文句を許すはずもなく、観測者は既に観測を終えていた。


「あっ……あぁ、もう!私の人生何一つ思い通りにいかないではありませんこと!?」


独房の据えた匂いがうつったドレスに身を包んで、苛立ちを牢に閉じ込めた。


「おや、御嬢様。お戻りになられましたかぁ。」


「御嬢様ということは、カージェス殿そちらの方が?」


牢と城を隔てる境界線に差し掛かったころ、鉄格子を挟んだ向かい側で談話をする二人の男の姿をみた。


「カージェス、そちらの方は?」


城に足を踏み入れ、従者をそばに寄せて問いかければカージェスを介入することなく、眼前の男が声を上げた。


「俺は《《マークウィン》》と申すものだ。フレスタット率いる遊撃部隊の隊長を務めている。」


「これは……ご丁寧にどうも。私は《《ジェネリア》》と申しますわ。どうか以後、お見知りおきを。」


「……《《気を使わせてしまって申し訳ない》》。ジェネリアさんは話に聞いた通り、聡明な女性のようだ。」


フレスタットの遊撃隊、マークウィンと名乗られてヌケヌケとフルネームを名乗るわけにはいかない。そうなってしまえば政治的な意味を持ってしまうからだ。


「お褒めにあずかり光栄でございますわ。マークウィン様も民草を救う快進撃、お話はかねがね聞いておりますわ。」


それはそれとして息をつく暇もないなと、カージェスへ恨めかしい視線を送りつけておく。


「カージェスの方が無礼を働いておりませんでしたか?」


「無礼だなんてとんでもない!俺は君たちに感謝を伝えたく馳せ参じた次第だ。」 


「感謝?」


程よく切りそろえられた金色の髪。豪勢な装飾がなされた白銀の鎧。そして何より、英雄の登場を知らせる赤色の布飾りが勢いよく地面へ沈む。


「フレスタットに現れた魔物の討伐を請け負っていただいたこと、感謝申し上げる!我が国の宝に等しい民草が血をこぼすことがなかったのは貴方達のお陰だ!遊撃隊の安い頭で申し訳ないが、ここに傅く事で一つ、礼として受け取って頂きたい!」


「……どうか頭を上げてくださいまし。その事で感謝を述べられるなら、私達こそ感謝を述べなければなりませんわ。レアルタリアに現れた魔物を討伐して頂いたこと、有り難く存じますわ。」


片膝をついて頭を下げるマークウィンは厳格にその姿勢を正す。そこから一拍おいて、スッと立ち上がりまたも快活な笑みを浮かべる。


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