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ブレイブマン・イレギュラーズ  作者: 尾沖泣栗
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猫耳の囚人

おきまりの

「どう見ても陰謀論者じゃないですこと?まったく、我が国の憲兵の質が少しばかりに心配になりますわね……。」


再び人が消えた牢の中で息を吐く。そろそろ、腹八分といった様子だろうか。


「ふぅ……こんにちわ、ご機嫌は如何でして?」


「こんにゃちわ、おじょうにゃん。」


他と変わらない牢の中、最後の三人目は呑気に壁に背中を預けながら大口を開いて欠伸をした。


「おじょうにゃん?……コホン、少しお話がありまして、協力していただきたいのですが、お時間はございますか?」


それは有無を許さない問いかけ。拘束された自由を見せしめに突きつけることで、先制に優位を取る御嬢様の作法ブリリアント・スタイル


「にゃあ、何が知りたいにゃ?」


しかし、それはあっけらかんと踏み倒された。


「おじょうにゃんを捕食者に仕立て上げた犯人についてかにゃ?」


「はい?」


理解が及ぶよりも前に、それはベールを無残に裂く。


「お付き人を実験に、不老の研究をダメ押ししたお貴族様の名前かにゃ?」


「ッ、貴方―」


誰一人として口外を許していない、心うちに秘めた神秘を踏み倒して声を荒げる。


「それとも公のために話すにゃ?存在者の正体について。」


「……なにを、知っているのでして?」


プライバシーを値踏みされるごとく、翡翠の瞳がこちらを覗く。どちらとも鉄格子に向かっている、それだけではないはずなのに、体はまるで自らが捕らえられた側だと言わんばかりに心臓を萎縮させる。


「にゃと追うものは一頭も得ず……話すのは二つに一つにゃのだよ。この二択を選ばにゃいことにはお話を始められにゃいにゃ。信念をとるか義務をとるか、おじょうにゃんはどっちにゃのかにゃ?」


恐らく、本当に知っているのだろう。それはもはや確信であった。目の前の囚人が持つ迫力がそうさせるのか、或はその翡翠の瞳が全てを狂わせるのか。


「では、存在者について。」


それでも、躊躇はしない。それは決して崇高な感情なんかではなく、私で公を殺すことは気に食わないという根性。全く扱いづらい女だとため息をつきたくもなってしまう。


「アチキも同じ考えにゃ、道中でにゃにがあるかわからにゃいからにゃあ。」


「……はい?一体なんの話ですの?」


そんな根性を見せつけてやったつもりだったが、返答に誠意どころか真意も見えないものであった。


「……ごめんにゃ、会話ミスったにゃん。」


「えぇ……。」


心底反省したように、シュンと下を向いた女はすごすごと申し訳なさそうに顔を上げて、手のひらを眼前で合わせる。


「勇気ある選択に感服したにゃ。ここに嘘偽りなくアチキの話せることは話すことを誓うのにゃよ。そのためにも椅子と机を所望するにゃん。話はまずそれからにゃのだよ。」


「……本当に話すんでしょうね、貴方。」


机と椅子の用意がされた部屋に移動した後は、またあの調子を取り戻していた。


「さて、兎にも角にもアチキの身の上を知らなきゃ話ににゃらにゃいのだよ。アタチは存在者を吹聴して閉じ込められているわけにゃのだが、随分と手荒にゃ手段で判別をつけたものにゃね。」


「致し方ありませんわ。見つけられた方法がこれだけでしたので。」


聞いていたのか、見ていたのか、どちらにせよ隠し事は通用しないのだろう。素直に話にのることにした。


「それじゃ、アチキを存在者として認めるってことでいいんにゃね?一応、指一本くらいにゃらくれてやるつもりにゃのだけど。」


「いいえ、結構でしてよ。仮に貴方が存在者でないにしても、有益な情報を持っているのは確かそうですもの。」


話が早くて助かるにゃぁと間延びした感心が独房内をコダマした。


「それじゃあ土台は整ってるにゃんね。何から聞きたいのかにゃ?」


「何からと言われれば難しいですけれど、一先ず存在者について全てお話願えますか?」


真相に迫る瞬間はもっと劇的だと思っていたが、意外に始まってしまえばあっさりとしたものなのだな、と場違いな感想を一つ浮かべた。


「存在者とは言ってしまえば《《ブレ》》の修整係にゃ。それ以上もそれ以下もにゃい、実にさっぱりとした存在にゃのだよ。」


「ブレの修整とは?」


「にゃ〜、おじょうにゃんは予定調和説を信じるかにゃ?」


「予定調和説?すみませんが、そこから説明していただけますこと?」


「知らにゃいことを知らにゃいと言えるとは無知の知にゃのだね。きっとおじょうにゃんは良い淑女になるにゃるのだよ。」


付け加えられた無知の知という言葉も知らない言葉だったが、満足気に頷いていたので邪魔をしないようにした。


予定調和説アルモニー・プレエタブリエ、神様によってすでに運命が定められているという考え方にゃのだよ。今ここでアチキとおじょうにゃんが会話をする事さえ、世界創生の瞬間に決められていた。そう言われれば信じるかにゃ?」


「ふむ。……個人的には信じられませんわね。決められてるから仕方ないと思いたくありませんもの。」


「恵まれていない人間がその言葉を吐けるのは少し残酷な気がするものにゃのだよ。」


恵まれない人間と一瞥されたものの、そこに声を上げる気にはなれなかった。偏見や侮蔑ではなく本当に見透かされている気がしたから。


「ま、いい気持半分悪い気持半分できくにゃ。ただし、良いようにも悪いようにも聞くのは禁止にゃのだよ。ただ与えられた言葉を額縁通りに噛みしめるにゃん。」


突きつけられた人差し指は、そこいらの人間と何一つ変わらない出来栄えであった。


「予定調和説はある意味で正しい説にゃのだよ。しかし、アチキ達の運命を決めることはにゃいにゃ。というより、予定調和説が決めてたのはただ一つの運命だけにゃのだよ。」


「それが本題ですの?」


「本題も本題、大本題にゃ。にゃにせ今おじょうにゃん達が頭を悩ませている魔王誕生こそがその運命にゃのだからね。」


驚きの声を上げることはなかった。なぜならと説明をするまでもなく、崩都の魔王が存在者であることはすでに知っていたからだ。


「そんにゃ決定づけられた魔王誕生までに、人はすこし自由すぎたにゃん。完璧な予定調和説に則れば存在者にゃんて必要にゃかったわけにゃのだよ。」


「その自由がブレですの?」


「そうにゃ。予定調和説に則らなかった理由として、一つ大きな旗がたっていれば人はその旗に向かって歩く。そんにゃくだらにゃい慢心があったにゃん。」


なんとも不気味な旗を立ててくれたものだと、悪態をつきたくもなる。


「存在者が現れる共通の事象を知っているにゃ?」


「戦争、それもかなり長期化が見込まれたものだと学びましたが。」


「そうにゃ、それがブレ。或は自由にゃ。」


用意した机に両肘をついて、ようやく机は意味を成した。


「過去四回人類は自由にも主張をぶつけ合ったにゃん。それは時に進化を促し、それ以上に停滞をまにぇいた。そんなところで足踏みしてちゃ決定づけられた魔王誕生に必要な土壌がつくれにゃいわけにゃ。存在者はそんな停滞をかき消すために派遣された修整係というわけにゃ。」


「誕生が保証され、それどころか手厚い介助も受けている……。はぁ、異端なのは私達の方だと言われても仕方ないですわね。」


「思ってもにゃいことを嘯く必要はないにゃん。」


またも翡翠の瞳に見透かされる。


「ところでおじょうにゃんは一つ良い考えをしているにゃん。」


「良い考え?」


「アチキは存在者じゃないにゃ。」


そして、またもあっけらかんと踏み倒される。


「今までの話は存在者が現れた説明になっていても、アチキがここにいることの説明にはなってにゃい。寧ろ、ここまでの説明は世界に現れた存在者を否定するお話にゃのだよ。」


「えぇまぁ考えては居りました。修正役として役割を終えた以上、魔王誕生後に貴方達が現れているのはおかしいと。」


いい線を突いていたと言うことは、伏せられたカードに近づいていたわけだが、こうも堂々とそのカードを返されてはまるで良い気分にはなれない。


「にゃら、にゃんでアチキたちは再び姿を現したとおもうにゃん?」


「……別の役割を与えられたから、でしょうか?」


その言葉に付随したのは、パチパチと打ち合わされた手のひらの音。


「そうにゃん、アチキたちは新しい仕事を押し付けられて棺桶の中から起き上がってきた労働者にゃん。」


まるで子供を怖がらせるように、頬をへこませ痩せこけた顔をして見せる囚人は、両腕にハメられた枷を尻目に口をゆがませる。


二人目の存在者(イレギュラー)の抹殺、ソレがアチキたちの仕事にゃん。」


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