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神の吹かせる風  作者: わた
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語る真実2

空が赤く染まり、そして夜の蒼が現れ始める頃。不安を煽る真白き太陽も沈み始め、ワープはにわかにほっとしていた。


シミひとつない真っ白なテーブルクロスがかけられた長いテーブルに、豪華な金細工が施された椅子がずらりと揃えられた広間。窓と廊下側には兵士たちが列をなし、重々しく槍を床に立てている。

王の椅子には特に美しい装飾が施されており、そこにアータウルが厳かな表情で腰かけていた。


向かい合うようにリフィルが座り、その脇を彼女の騎士たちが護る。ワープも騎士候補生たちとともに広間に入ったが、席につくことはしなかった。これは、祈りの巫女リフィルと国王の対談だからだ。


「それで、リフィル殿。突然このような面会を希望なさるとは。余程の大事があったと見えるが、どのような用件ですかな?」


物腰は穏やかだが、アータウルの顔は厳しく歪んでいた。リフィルの訪問を快く思っていないことは明らかだ。


リフィルは表情を変えない。祈りの巫女の証である紅色の瞳に冷たく見据えられ、アータウルが僅かに怯む。


「あたしは知った。祈りの巫女とは、本来どのような存在だったのかを。国民すべてが、今まで欺かれていたことを」


リフィルは真実を語った。神殿から国民に演説をするのと同じように、力強い声で、まるで歌うように。古の少女・ファラと、彼女の騎士であるシエのこと。神は巫女を罪人とみなしたこと。巫女は神に国民の祈りを届ける存在などではない。本当は、巫女は崇め奉られるべきではないということ……。


アータウルの顔に驚愕の色が広がる。それとともに、ほんの一瞬、歓喜の色が浮かんだことに、リフィルは気がついただろうか。


やがてリフィルが話を終えたとき。アータウルは低く唸るように、


「……私はこの国の王だ。その話が本当ならば、貴女をこのままの身分にしておくわけにはいかない」

「……」


リフィルは髪を透かしてアータウルを睨む。


「あたしは民にすべてを話す。その後のあたしをどうするかは、民が決めることよ」

「だとしても、貴女自身に国民に向けての演説をさせるわけにはいかんな。巫女は我々民を欺いていたと言われたばかりで、私が貴女を信用するとお思いか?」

「欺くつもりなら真実を話したりはしないわ」

「そう私に言っておいて、後で国民の気持ちを意のままに動かすなどわけないだろう。真実はどうあれ、貴女は国民の象徴である『祈りの巫女様』とされていたのだから」


リフィルの隣に付き従っていたツルハが、身を乗り出しかける。それを目で制し、リフィルは辛抱強くアータウルに言う。


「あたしは真実以外話さないと誓うわ。貴方が隣に立っていてくれてもいい」

「逆上した国民に討たれるのは御免こうむる。それこそが貴女の狙いであったなら残念だったな」

「貴様!」


ツルハが剣に手をかける。脇を固めていた兵士たちが、一気に槍を構えた。アータウルは冷たくツルハを見る。


「野蛮な……。あのような学園で育った者が、最高の武人と呼ばれようとは」


ツルハは炎のような目でアータウルを睨み付ける。


「ツルハ。落ち着きなさい」


リフィルはツルハを退かせ、長いため息をついた。


「あなたも神に欺かれていた民のひとり。あたしをどう思おうと勝手よ。しかし、巫女の騎士はこの国最強の戦士。この場にいる全員を皆殺しにすることなんてわけないの。アータウル。この子達を嘲ることは許されない」

「…………」


アータウルは黙っていたが、兵士たちに槍を下ろさせた。


やがて、リフィルが言った。


「……アータウル。あたしを捕らえていいわ」

「リフィル様!? 」


ツルハがとんでもないと言いたげにリフィルを見る。リーンハルトは何も言わず、ただじっと主を見つめる。

アータウルは意外そうに眉を上げた。


「あたしを捕らえ、国民へは貴方が好きなように説明すればいい。ただ、真実を。真実を伝えてくれるなら、あたしはそれで……」

「リフィル様。それはあまりに……」

「思えば、これが最初の審判なのよ」


リフィルは宙に視線を移動させる。どこか夢見るような表情だった。


「国民の長である国王が、あたしをどう見るか。その結果を、甘んじて受ける覚悟はできているわ」

「……恐れながら」


今までの会話を全て聞いていたワープは、震える手を挙げて立ち上がった。


驚いたようにリフィルと、その騎士たちがこちらを見る。アータウルが、不快そうに顔をしかめた。


「ワープ、殿。だったか?悪いが貴女はまだ巫女でもない。私にとっては一般人と一緒だ。余計な口出しは……」

「そう決めつけるのはあまりに浅はかだとしか言いようがない」


今まで影のように壁に背をもたれていたラインが、静かな声で言い放つ。


「今リフィルが話したことは、ワープ・セベリアが精霊王から聞き出した真実だ。精霊王が認めた存在を、お前ごときが無下にするとは笑止だな」

「な……」


アータウルは顔をみるみる真っ赤にしていく。


「騎士候補生ごときが、私を愚弄するか」

「俺のことはどうだっていい」


ラインはワープの方を見て、頷いた。それに力を得て、ワープはアータウルと向かい合う。


「恐れながら、申し上げます。王様には、わかっていただきたいのです。リフィル様は心から国民を愛し、国民のために生きてきたということを。祈りの巫女の真実を知ったのは、つい昨日のことなのです。そしてリフィル様は今日には貴方に、そして明日には国民へ真実を話すことを決めた。その誠意は、彼女の真心だということを」


ワープは胸に手を当て、一歩足を踏み出した。セイル、ケット、アナ。そしてラインが、龍が宝玉を取り巻くようにワープに寄り添う。


「たとえ神が祈りの巫女を罪人とみなしても。リフィル・ハートレットというひとは、素晴らしいおひとです。それを否定することは、この私が許しません」


風が、吹いたような気がした。


ワープの瞳には、今までにはない色が浮かんでいた。確かな覚悟と、怒り。そして、リフィルの弟子である誇りと自信。自らを護ってくれる騎士たちへの信頼と、感謝。


アータウルはしばらく言葉を失っていた。やがて、掠れた風のような声で、囁くように、


「……よかろう。そこまで言うのなら、試してみるがいい。明日、国民に全てを話すことで、何が起こるか。民はどのように巫女を裁くか」



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