伝える真実4
リフィルは祭壇に座って足を組み、長い間目を閉じて黙っていた。ふたりの騎士が、両隣に付き添って龍のようにリフィルを護っている。
ワープと四人の騎士候補生たちは、辛抱強くリフィルが話し出すのを待っていた。ワープは不安と緊張で倒れてしまいそうだったが、自らの騎士たちが側にいてくれるのを感じて、ただ黙ってリフィルの決断を聞く心の準備をしていた。
リフィルは赤い口紅の映える唇を、重々しく開いた。
「あたしは、すべてを国民に伝えようと思う」
ワープは目を見開いた。
「祈りの巫女は、神に国民の願いを届けられる唯一の存在……そんな尊いものではなかった。血の色を瞳に刻み込んで、呪われた騎士に……神の怒りを受けるためだけに守られる。初代の祈りの巫女は罪人だった。たとえ、それがどんなに理不尽なことでも、神は祈りの巫女を罪人として捉えている」
リフィルは自嘲するように笑う。
「それが、王国の象徴として崇め奉られているなんて、滑稽な話だわ。あたしは巫女として、国民を愛してきたつもりよ。愛する民に嘘をつき続けるなんて耐えられない」
傍らで、ツルハが眉をひそめたのが見えた。リフィルと騎士たちは悩み抜いた末にその決断を下したのだ。その心情はとてもよくわかる。けれど、ワープが想像できるよりももっと、彼らは苦しんだのだろう。彼らの出した答えに、ワープが何かを言えるはずがなかった。
目に一杯涙をためて、顔を真っ赤にするワープを見て、リフィルはやや表情を和らげる。
「ワープ。貴女が精霊王からファラの話を聞いたことは、きっと大いに意味のあることだわ。貴女は素晴らしい巫女になる。神の怒りの捌け口としてでなく、本当の意味での……あたしたちが信じ続けた、真の巫女になれる。あたしに真実を教えてくれて、ありがとう」
「リフィルさま……」
ワープは首をふった。リフィルこそ、真の巫女にふさわしい女性だ。そんな思いを込めて師を見つめるが、リフィルは力なく微笑むだけだった。
目の前が真っ暗になった。
リフィルが、今まで祈りの巫女として、どんなに努力を重ねてきたか知っている。たくさんのものを犠牲にしてきたことも。それは、神を信じる心に支えられていたからできたことだ。神に国民の願いを届ける役目に誇りを持っていたからこそ。それが、すべて偽りの姿だったと言われて、今彼女は何を思うだろう。
……すべて、ワープが真実を話してしまったからだ。
ぞっとした。目の前で抜け殻のような微笑みを浮かべるリフィルに。そして、あまりにも残酷なことをしてしまった自分に。
リーンハルトがワープの肩に手を置き、耳元にそっと囁く。
「リフィル様にはまだ時間が必要なんだ。でも、今に見ておいで。きっと立ち直ってくださる……」
ワープは泣きそうになりながらリーンハルトを見た。彼は優しくウィンクして、リフィルの側へ戻る。
「国民への演説は、明日よ。今日は国王に会いに行かなくては」
リフィルはそれ以上は何も言うつもりはないようだった。ワープは悲しい思いで、騎士候補生たちと目を合わせ、礼拝堂から退出した。
リフィルは真実を国民に話すと言うが、それによって何が起こるかなんて、想像もできない。国民は、信じ続けてきた巫女が罪人だと……例え、神に理不尽に決められた定めだとしても……それを知って、何を思うだろう。暴動が起こったら?神落としに賛同する者が現れたら?
……そんなことは、リフィルもふたりの騎士たちもわかりきっていることだろう。それでも、真実を話すことを選んだ。だとしたら、ワープには何も言うことができない。
……これからどうしよう。
リフィルは巫女として、何をするか決めた。では、ワープは?ワープは次期巫女姫として、何をするべきなのだろう?
「……私も、行かなくては」
呟いた言葉に、騎士候補生たちが振り向く。ワープは真っ直ぐに彼らを見つめ、
「私も王城へ行きます。明日はリフィル様とともに、国民へ全てを話します。……ひとりでは、きっと耐えられません……。お願いします……私の、側にいてください」
騎士候補生たちは互いに顔を見合わせる。
ふっと、セイルが笑った。軽く、額を小突かれる。
「当たり前だ。止めたって側にいてやるよ。お前の騎士だからな」




