伝える真実2
ワープたちが神殿へ訪れると、リフィルはワープの帰還を喜び、ラインに労いの言葉をかけた。だが、すぐに神殿へ戻らなかったことに何かあると察したらしく、ワープに御座所での出来事を聞く前に、自らの騎士たちを呼び寄せた。
神殿の礼拝堂に、皆が集っていた。祈りの巫女リフィルとその騎士ふたり、そして、ワープと騎士候補生たち。
ワープはリフィルの強い紅色の瞳を見つめ、ここへ来てすべてを話す勇気が揺らいでいた。リフィルが素晴らしい巫女になるためにどんなに努力してきたか知っている。だからこそ、怖いのだ。彼女を支えてきたのは神への忠誠心。それが、真実を伝えることでどうなってしまうのか。
ワープの視線は、ラインの深い黒の瞳に、吸い込まれるように向けられた。ラインは静かな目でじっとワープを見返し、大丈夫、と言うように頷いた。
ワープはすっと息を吸う。この息がすべて言葉となって出ていったとき、どんなことが起ころうと。ワープは後悔してはならないのだ。
「リフィル様。私は精霊王にお会いしました。そして、聞いたのです。祈りの巫女は、神に思いを届けられる唯一の存在などではない。神に虐げられる唯一の存在だということを。そして、巫女の騎士は、神の怒りの捌け口である巫女を守るために存在するのだということを」
ワープは古の少女と騎士の話を語った。ファラとシエがいかにして、祈りの巫女と騎士となったのか。
ツルハとリーンハルト……ふたりの騎士が、そっとリフィルに寄り添うように歩を進めたのが印象的だった。リフィルは美しい紅色の瞳を目蓋の奥に隠し、しばらく動かなかった。
すべてを語ったとき、ワープの足は震え、全身が氷のように冷たくなっていた。
不意に、しっかりと肩に手を置かれる。見れば、セイルの青い瞳と目が合った。そのあたたかさが、どんなにワープを慰めてくれただろう。
永遠かと思うような、長い長い時が流れた。
「……よくぞ話してくれたわ」
リフィルの声は固く、顔は青ざめていた。ワープは竦み上がる。もしかしたら、彼女に刃を突き立てるよりも、残酷なことをしてしまったのかもしれない。
「…………あなたたちと話がしたい」
リフィルが自らの騎士たちを見つめる。
「悪いけど、少しあたしたちだけにしてちょうだい」
ワープたちは礼拝堂から出て、渡り廊下から街を見渡す。不安にまだ身体を固くしているワープに、アナが優しく声をかける。
「ワープ、よく頑張ったね」
「……怖かったです。本当に、話してしまってよいのか……」
ワープは目を閉じて息をつく。
「リフィル様のあんな顔……あんなに傷ついた顔、初めて見ました……」
「……ワープ」
ケットがぎこちなく咳払いをする。
「……俺はこの世には、運命というものがあると思う。ワープが精霊王から真実を聞き出したのは運命。それをリフィル様に伝える決断をしたのも、運命なのやもしれん。ならば後悔することはない……お前は運命に従ったのだ。そう考えることはできないか?」
ワープは驚いてケットを見て、そして微笑んだ。
「うん……そう考えると、少し気が楽になります」
ワープは手すりに手をかけ、ぐっと目を細めた。昨日と何も変わっていない街並み。けれど、決定的に違う。
リフィルがどのような決断をしようと、ワープのすることは変わらない……そう自分に言い聞かせ、ワープはそっと目を閉じた。




