子猫4
日が暮れ始め、木々の隙間からオレンジ色の光が差し込み、黒々とした影が落ちてきた。
「……日が落ちるとまずい」
セイルは苛立たしげに何度も通信魔法を試すが、うまくいかない。痺れを切らして立ち上がろうとするセイルを、ワープはあわてて制止する。
「だめです!お怪我をなさっているのですから。やはり私がケットたちを探しに行きます」
「それこそ神落としの思うつぼだろうが。お前をひとりにするわけにはいかない」
そのとき、緑色の光がふたりの目の前にふわりと飛んできた。今まで何度も失敗した、風の精霊の通信魔法だ。ふたりは呆気に取られ、顔を見合わせる。
『ワープ!? ああ、やっと見つけた』
「アナか?」
『セイルも一緒だね。よかった。心配したんだからね!何してるの?連絡もなしに!』
「ちょ、ちょっと待て。おれは何度も通信魔法を試したんだぜ?精霊の状態が安定しなくて使えなかったんだよ。お前どうして……」
『まさかセイル怪我してるの?……精霊は繊細なんだから、無理もないよ。でももう場所はわかった今から行くから、間違っても動かないでよ!』
風の精霊は、ふわりと浮かんで空へと消えていく。
セイルは大きく息を吐きながら、脱力して木にもたれかかった。
「あいつの精霊との相性の良さは異常だ」
ワープは思わず笑顔を浮かべ、
「よかったです……」
と漏らす。流石、騎士候補生たちだ。
セイルは腕を伸ばしてワープの髪の毛をわしゃわしゃとかき回し、
「おれはもう少しこのままでもよかったけどな」
「へっ?」
ぽかんとするワープの頭を小突き、セイルはふっと笑った。
ケットとアナはすぐにやって来てくれた。もともとかなり傍まで探しに来ていたらしい。
「まさか崖から落ちているなんてな。精霊が乱れていたから、何かあったのだろうとは思ったが」
ケットはセイルを背負いながら、愉快そうに言う。セイルは足の骨を折ったらしく、流石に治癒魔法を使えるほど精霊の状態が落ち着いた場所ではなかったので、不本意ながらもおとなしくケットにおぶさっている。ちなみに子猫も、居心地良さそうにケットの頭の上に乗っている。
「無事だったから良かったものの。騎士が動けなくなってどうする」
「……悪かったな」
「あの、ケット。セイルは私を庇ってお怪我をなさったのです。精一杯助けてくださいました」
ワープの方は、アナにしっかりと手を引かれていた。少しでも離れたら、ぐいと引き寄せられる。少し気恥ずかしい。
「ワープは本当に危なっかしいね。いくらケットのお嫁さんのためでも、崖から飛び降りるなんて信じられない」
「……は、はい……ごめんなさい」
ワープは反省する。セイルにも叱られ、アナもいつになく怒っている。本当に向こう見ずな行動だった。
けれど……。
「ニャオン」
ケットの髪の毛を爪に引っかけて遊びながら、楽しそうに鳴く子猫を見て、ああ、この子が無事でよかったな、と思うのだ。
アナは放したらまたワープが崖から落ちてしまうとでも思っているのか、きっちりとワープの手を握っている。
「息抜きのつもりが、とんだことになっちゃったね。……ごめんね、ワープ。怖かったでしょ」
「いいえ。皆さんと一緒ならば、怖いことなど何もありません」
ワープはぎこちなくアナの手を握り返し、彼と、それからケットとセイルを、順番に見つめた。祈りの巫女の証である、紅色の瞳で。夕日がワープの姿を赤く縁取り、瞳の光を一層際立たせる。
「学園に戻ったら、校長先生に私の決意を伝えます。そして、神殿へ行き……リフィル様に、すべてを話します」




