ワープの話
私は赤ん坊の頃から神殿で暮らしていました。生みの親の顔は知りません。神殿の門の前に置かれていた私を、リフィル様が拾ってくださったのです。
……え?うふふ、恨んでなんかいませんよ。私の両親は私を救ってくれる場所にちゃんと導いてくれたのですから。
リフィル様の師……先代の祈りの巫女は、若くして亡くなったそうです。リフィル様は異例の若さで巫女を継がなければならず、その頃はツルハさまやリーンハルトさまが騎士に選ばれて間もない時でした。
私を次期巫女として、弟子にすると言ったとき、リフィル様は騎士たちと喧嘩になったそうです。
ふふ。そうですね、主にツルハさまとです。私は孤児院に引き取られるまでの間神殿に保護されているだけなのですから、反対されて当たり前です。拾った赤ん坊を次期巫女に、なんて、突飛なリフィル様らしいですよね。
……でも、そのおかげで、今の私があるのです。
私を次期巫女とする上で、6歳までに瞳に巫女の証である紅色が現れることが条件とされました。リフィル様は毎朝私の目を覗き込んでは、まだ変わらないと嘆いていました。
でもこの条件のおかげで、私は6歳までは神殿で暮らすことが保証されたのです。子どもながらにほっとしたことを覚えています。私の中で、神殿はお家でしたから。
でも、6歳になれば追い出されてしまうかもしれない。普通巫女としての修行を受けるのは5歳になってからなのですが、私がリフィル様から修行を初めて受けたのは、3歳になってすぐでした。
巫女の修行とは?……うーん、そうですね……。まずはお祈りのお作法と、神への挨拶の文句を教わります。私たち巫女はどのような存在なのか、何をするべきなのか、といった教訓は、子守唄のようなものです。
リフィル様は、若いうちに巫女になりましたから、そのぶん大変な量の修行をこなしていたのですよ。精神を鍛えるために滝行、絶食なんてものまでやっていたそうです。
巫女の修行というのは、何をするかではなく、何を考えてするかに重きを置くのです。だから、決まった方法というのがないのです。
私の瞳はなかなか色を変えませんでした。幼いながらに焦って、リフィル様に申し訳なくて、毎日泣いてすごしていました。赤くなるのは頬とまぶたばかり、と笑われましたね。
……いつなのか、私も覚えていないのです。
突然、私の瞳は紅色に染まっていました。6歳の誕生日が差し迫ったある日のことです。
不思議なんです。その周辺の記憶に、ぼんやりと霧がかかっているようで……よく思い出せないのです。何か、神殿で騒ぎが起きた時なのですけれど。それが何だったのかはわかりません。でも何かがあって……それがきっかけで、私は次期巫女になることができたのです。
不思議ですよね。とても大事なことなのに、思い出せないのですもの。
私は次期巫女になりました。
神殿で、ささやかなパンと野菜を食べて、神に祈りを捧げる毎日です。世界を知らず、国民の幸せのためには祈ってさえいればよいと、そう思っていました。
フィリエット学園に通うようになって、私は本当にいろんなことを学びました。とても大切なことを、たくさん……たくさん。
セイルたちのおかげです。
私はこうして友人として騎士と繋がれたことを、とても嬉しく思うのです。何にも負けない絆を築けると、そう思っているのは、厚かましいでしょうか……?
「もう、築けてるだろうが」
…………!
……はい!
私、リフィル様には勝てっこないって、ずっと心の奥で思っていました。リフィル様は本当に素晴らしい巫女で、守護する騎士さまたちも素晴らしい方たちです。
でも、でも、私は胸を張れます。
私の騎士たちは、それに負けないくらい、いいえ、もっともっと素晴らしい騎士たちなのですよ、と、大きな声で言えます。
え……?
は、はいっ!そうですよね。私も、リフィル様に負けない、セイルたちに相応しい、素晴らしい巫女に……なれるか、自信はありませんけど……いえっ、ならなければならないんですよね。
神さまに逆らうんですもの。今までのように、自信をなくしていてはいけませんよね。
私のなりたい、最高の巫女に……なってみせます。
……えへへ。照れくさいですね。




