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神の吹かせる風  作者: わた
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罠の正体

温室に移動したワープと騎士候補生たちは、アナの淹れてくれた温かい紅茶に心を落ち着けた。


暗い顔でカップを見つめるワープに、アナが優しく声をかける。


「元気出して。ワープは充分頑張ったじゃない」


ほわりと笑う顔から、彼が本心から言ってくれているのだとわかる。


「野兎のアジトに乗り込むとは、確かに巫女らしからぬ活躍だな」


ケットも同調する。


「君は気弱なようでいて、かなりおてんばねこさんなわけだ」


ワープはにっこりした。


励まそうとしてくれているのは、とても嬉しい。勝手に危険なことをしたのも、怒らないでいてくれる。


あぁ、けれど、譲れない思いは消せないのだ。


「私は、守られるだけの存在になりたくはないのです」


そのとき、セイルが勢いよく立ち上がった。きらりと青い瞳が光る。


「なら、行動すればいい」

「え?」


セイルは口元に笑みを浮かべ、ワープの顔を覗きこむ。


「野兎と戦おう、ワープ」


冗談とは思えない口調。


「奴らの罠を、探すんだ。おれたちと一緒に」

「一緒、に」


じわじわと嬉しさが込み上げてくる。


「まったく……まあ、反対はしない。ワープは俺たちが守るからな」


ケットが仕方なさそうに笑う。


「校長先生やリフィルさまには内緒ね。叱られるから」


アナがいたずらっぽく言う。

ワープはこの機を逃さないよう、何度も頷いた。




大がかりな魔法なら、その在りかを探るのは易しいはずだ。

そう言って、校庭に場所を移し、ケットはぽわっと光を出現させた。いつか通信魔法としてセイルやアナが使ったものと同じ、風魔法だ。


「風の精霊は、ものの流れを読む。それを使って、魔力を放つ源を探るんだ」


緑色の光は、ふわふわと宙に漂い、吸い寄せられるように移動していく。

後を追っていくが、光は校庭を出ることはなく、ただぐるぐると周りを囲んでいることに気づいた。

だが校庭には、多分どこかのクラスの出し物であろうオブジェが飾られているだけ。魔法が仕掛けられているとは思えない。


「これは……」


ケットは首をひねる。


「お前の魔法が狂ってるんじゃねーか?」


セイルが苛立たしげに言うが、本気なわけではなさそうだ。ケットと同じように、わけを図りかねたような顔をしている。


そのとき、


「君たち」


思わず身を正したくなる声。


振り向けばそこには、ぎっちりと眉間に皺を寄せたナイゼルの姿があった。


「はいっ!?」


また怒られるのだろうか、と声を裏返らせるワープに、ナイゼルは益々苦い顔をする。


「君は私を何だと思っているんですか?」

「でゃっ、あの、すみません……」


縮こまるワープをじろりと一瞥した後、ナイゼルは騎士候補生たちに言った。


「今連絡が入りました。王族が直接、こちらへ来るそうです」

「なっ!?」


見事に三人の声が重なる。


「なぜですか?文化祭まではまだ日があるはずです」


ケットが焦りを込めた問いをかける。ナイゼルは腕を組み、


「そうなんですがね。何を血迷ったか、準備の段階から視察したいのだとか。王族なら何でも許されるとお思いのようで」


小馬鹿にしたようにそう答えるナイゼルに、ワープは面食らってしまう。どうやら彼も、王族は好きでないらしい。


「とにかく今の学園の状況では、王族を呼ぶなど危険にも程があるでしょう。君たちに警護を頼みたいと、校長がおっしゃっています」

「…………」


セイルが顎を引き、訝しげに眉をひそめる。ケットとアナも意味ありげに視線を交わした。


こんなに都合よく、王族がやって来るなんておかしい。


「……言いたいことはわかります」


ナイゼルが静かに言う。


「ですが来てしまったものは仕方がない。とにかく、護衛をしなければ野垂れ死なせるだけですからね。すぐに来てください」

「…………」


三人は頷き合う。

ケットがワープを振り向き、すまなそうに、


「ワープ。君は安全なところへ居てくれ」

「は、はい……」


ワープはしゅんとうなだれる。


迷惑をかけてはいけないのはわかるのだが、せっかく役に立てると思ったのに。


「ワープ・セベリアはクラスに戻りなさい。いいですね?」

「ひゃ、はいっ」


刃のように言い放たれ、ワープは震え上がる。これでは文句など言えるわけがない。




沈んだ気分で教室に入ったワープの目に飛び込んできたのは、暗幕に包まれた空間に、ふわりふわりと漂う透き通った水の塊。そのひとつひとつがまばゆく輝き、教室中を幻想的に飾り立てている。


「ふわぁ……」


あまりの美しさに言葉を失うワープに、声がかかる。


「セベリアさん。どこ行ってたんですか」


不満げな顔をして、クラスメイトたちが近寄ってくる。


「あなたとアナがいないから、お茶の確認が出来なかったんですよ」


野兎の件は、混乱を防ぐために生徒たちには知らせていない。きっと、姿の見えないワープと三人を、クラスメイトたちは不審に思っただろう。


「すみません……」


野兎のことで頭がいっぱいになり、クラスへの協力を怠っていたことに気づく。


「本当に、ごめんなさい」


落ち込んだ気分も手伝って、ワープはもう少しで泣き出しそうにまでなる。ぎょっとしたのはクラスメイトたちだった。


「いや、そこまで気にしないでほしいんだけどっ」

「う、あの、お手伝いします」


せめてもの償いとして働こうと気合いを入れるワープ。


「はあ……じゃあ茶葉の用意をしてくれます?」

「はいっ」


ワープは早速、暗幕で仕切られた調理場に向かう。キッチンというわけではなく、火の精霊の力を借りて調理するので、実際はテーブルを置いただけの場所だ。


茶葉入りの小瓶を種類ごとに並べ、アナや自分が使いやすいように器具も並べる。当日はふたりでは手がまわらないほど忙しいので、心するようにと言われた。


学園祭は生徒たちにとって、とても大切な日だ。それを壊すなんてとんでもない。


野兎の企みは、なんとしても阻止しなければならない。


そうは思うが、自分に何が出来るのだろうか。それがわからないワープは、大きなため息をついた。


「ワープちゃんっ」


突然後ろから抱きつかれ、ワープは悲鳴をあげる。


「わああぁ!?私を食べても美味しくありませんっ!!」


丸くなってフライパンで頭を守るワープに、楽しそうな笑い声がかけられる。


「やあね。あたしよ」


見ると、にこにこ顔のフィリアがこちらを見下ろしていた。

ワープはほっとして立ち上がり、


「フィリア先生……失礼しました」

「うふふ。文化祭当日は来れないから、こっそり見にきちゃったのよぉ」


フィリアはうっとりと教室を見回す。


「あの、先生方は……」


野兎の件で大忙しなはずでは、と首をかしげるワープ。フィリアは笑みを崩さない。


「そうよ。だけど息抜きも必要じゃない」

「は、はい。そうですけれど」

「あたしはワープちゃんを励ましに来たの。あなたがまた無茶しても嫌だし」


ワープは顔を赤らめる。


「すみません……」

「いいのよぉ。けど、厄介なことになったわねぇ」


声を潜め、フィリアはワープの耳に口を寄せる。


「野兎の仕掛けたものの正体が掴めないんじゃ、こっちも対抗のしようがないわ。正直参っちゃって、くたくたなの」

「フィリア先生……」


確かに彼女は疲れているようだった。髪は所々ほつれ、隈もできている。


「強大な魔法には、古代道具が使われていることが多いんだけど、それらしいものも見つからないし」

「古代道具……」

「大きいものだから、あればすぐに見つかるわ。それがないから、困ってるのよねぇ」


フィリアはため息をつく。


「それらしい魔力は感じるんだけど、肝心の本体がねー……」


そこでぱっと顔色を変え、フィリアは笑う。


「ごめんね。ワープちゃんに言っても困らせるだけよねえ。愚痴が言えなくて弱ってたの。ありがとね!!」


ぱたぱたと去っていくフィリアを見送り、ワープは心の中に閃くものを感じた。


校庭を囲むように指し示した、風魔法。そして姿を見せない古代道具……。


古代道具は校庭にある。ただ姿が見えていないだけだ。


そのとき、馬の嘶く声と馬車の車輪が転がる音が聞こえた。

王族が来たのだ。




荒れ果てた礼拝堂。

低く、深い、底冷えするような声で、デリオットは笑う。

「さあ……統一へ」




学園に到着した王族を、エルミタージュと騎士候補生三人が出迎える。


王国主アータウルは立派な髭を生やした高齢の男性だった。堂々と馬車から降りた国王に続いて、王妃ハルマーナと王女ファリシアが降り立つ。


エルミタージュは恭しく一礼する。


「お待ちしておりました」

「うむ。わしも楽しみにしておったぞ、エルミタージュ殿」


国王は上機嫌に挨拶すると、控えていた騎士候補生たちに目を向ける。


「おお、彼らが次期巫女の騎士候補生か」

「はい。その通りでございます」

「はっは。会えて嬉しいぞ」


呑気に笑う国王に、苛立ちを募らせるのはセイルだった。本当はすぐにも、野兎の仕掛けた罠を突き止めに行きたいのだ。ワープを放っておきたくもない。自分は王族の護衛ではない。守るべきは巫女なのだ。


そんなセイルの気持ちを察したケットが、軽く彼を小突く。


(落ち着け。今命の危険にさらされているのは彼らだ)

(……こうしている間に神落としが現れたらどうする)

(ワープがクラスにいるのなら心配ない。騎士候補生クラスだぞ)


セイルは舌打ちした。


わかっている。この苛立ちはワープを置いてきたことに対してだけではない。


自分は野兎と直接戦いたいのだ。


王族など守りたくはない。野兎から守るのではなく、野兎を叩きのめしたいのだ。


憎しみは消えたりしない。




ワープは校庭に来ていた。走って来たので息をきらしながら、しゃがみこんで土を調べる。


(きっと、古代道具は埋められているのです)


姿が見えない理由。それは、地面の中にあるから。

ワープは倉庫から拝借してきたシャベルを取り出し、気合いを入れる。


(掘り出しましょう!!)


「……よし!!」

「馬鹿か」


いきなり頭をどつかれ、ワープは前にのめる。


「いたぁー……」


頭を押さえて振り向くと、冷たい目をこちらに向けるラインの姿があった。


「さっきから何をするのかと思えば。そんなもので古代道具が掘り出せるわけがないだろう」


淡々と責めるラインに、ワープは涙目になる。


「う、け、けれど、何とかしなければ」

「残念だけど古代道具は埋まっているわけじゃない。そうだとしたら教員がとっくに見つけてる」

「えぇっ!!」


思わぬ衝撃に、ワープはへなへなとへたりこむ。

ラインはため息まじりに肩をすくめ、


「きっともうじき発動する……」

と呟いた。


ラインの目は真剣な光を帯びて空を見つめている。つられるように空を見上げたワープの目に、巨大な鉄球のようなものが映った。


「あ、あれって……」

「あれが古代道具だよ。地面の中ではなく、空の上に、それもほとんど宇宙空間に、隠してあったんだ」


鉄球は遥か上空で静止し、雷のような音を立て始めた。




前触れもなく現れた巨大な鉄球を、セイルはぐっと目を細めて睨み付けた。


「古代道具……」


ケットとアナが、王族を校舎の中へと避難させる。


「な、なんだねあれは!?」

「危険ですから、中にいてください!!」


雷のような音を立て続ける鉄球。エルミタージュがそれに向かって手をかざし、反対魔法をかける。


「……これは、強力だ」


絞り出すように呟くエルミタージュ。


セイルは駆け出した。


古代道具に限らず、魔道具に有効なのは直接衝撃を与えて壊すこと。


「セイル!!」


ケットが呼び止めようとするが、セイルはかまわず走り続けた。


空中に浮かぶ鉄球に、どうやって衝撃を加えるか。あんなに巨大だと、少しの衝撃ではものともしないだろう。



鉄球は一際高い音を立て始めた。


まずい、と思った、その瞬間。


閃光が走り、校庭を焼き付けた。オブジェは破壊され、生徒たちの悲鳴が上がる。




「ヒヒヒッヒヒヒッ」


身の毛のよだつような笑い声を上げ、醜い老人の姿をしたギレフが、セイルの行く手をふさいだ。


「……てめえ」


ギレフはセイルに近寄り、手を掴んできた。


「ヒヒヒッ、あの古代道具はとめられませんよ、ヒヒヒッ」

「……!!触るなっ」


黄色い手を振り払い、セイルは剣を抜く。


「おやおや、物騒な物を」

「退け」


鋭く睨まれても、ギレフはにやにやと笑みを消さない。


「どうせお前には何もできまい」


低い声が嘲笑うように響く。


セイルの中に、堪えきれないほどの憎しみが湧き上がる。冷酷なデリオットの渋面を見て、セイルは息が詰まるほど怒りを燃え上がらせた。


「デリオット……」




鉄球が放った閃光を、ラインはワープを引っ張って避けさせた。


「ひゃあぁっ!?」


一瞬で出し物のオブジェが破壊され、炎が走る。


ラインはワープを抱え、駆け出した。荷物のように抱えられ、ワープは目を回す。校舎の影に身を潜めたとき、ワープはすっかりふらふらになっていた。


「このままじゃ死ぬだけだな」


冷静にそんなことを言うライン。


「どっ、どうしましょう!?」

「古代道具には直接攻撃が有効……だがああ高い位置にあると……」


相手は相当な力を持つ魔法使いだな、とラインは感心したように言う。


「そもそも宇宙空間まで古代道具を持ち込ませるなんて、とんでもないことだ」

「そ、それはそうです!!けれど今はあれを止める方法を考えなければ!!」


ラインはじっと鉄球を見つめ、悩ましげに眉をひそめる。


「相当な力を加えなければ壊れないぞ。あれを操っている本体をどうにかしなければ」


そこであまりに悲痛なワープの目と目が合い、ラインは渋い顔をする。


「……まあ一応攻撃してみるか」

「えっ」


再び雷のような音を立てて魔力を集め始めた鉄球に、ラインは校舎を飛び移りながら向かっていく。そして目にも止まらぬ速さで、鉄球を斬りつけた。


「ラインさまっ!!」


何度も斬撃を加えていくが、鉄球には何の変化も起こらない。いや、少しだけ魔力をためるスピードが遅くなった。



鉄球に攻撃を始めたラインの姿を、セイルも確認した。

デリオットは重々しく抜剣し、セイルと向かい合う。


「ハネールの生き残りよ。せめてお前は私が仕留めてやろう」

「ほざけ!!」


セイルはデリオットに斬りかかるが、相手は軽々とそれを受け止める。逆にはね飛ばされ、セイルは何とか着地する。


「何が統一だ……お前のやってることは、虐殺だ!!」

「何とでも言え」


デリオットは素早くセイルとの距離をつめ、重い剣撃を浴びせてくる。何とか受け止めるが、あまりの力に剣を弾き飛ばされてしまった。


「終わりだ」


大きく剣を振りかぶるデリオットを、突然横からの斬撃が襲った。


「そうはさせん!!」


ケットがデリオットの剣をなぎ、蹴りとばしてセイルとの距離を開けた。


その隙に、アナがセイルに剣を渡す。


「もう、無茶しないでよ」

「……お前ら」

「王族さんたちは先生に任せたよ。多分怒られるけど、こっちが優先だから」


にっこりといつもの笑顔を浮かべるアナ。

セイルは口元を引き上げ、剣を握りしめた。


鉄球の放つ音が高くなる。第二撃が放たれ、今度は教室棟の校舎を襲った。窓ガラスが割られ、壁にえぐられたような傷が走った。


「あれを操っているのは老人だ。まずあいつを止めるぞ!!」


ケットが飛び上がり、ギレフに斬りかかる。だがすぐに、野兎の一員らしき男が現れ、その剣を止めた。


いつの間にか野兎のメンバーが三人を囲んでいた。


「これは、圧倒的不利だね」


どこか楽しそうにアナが言う。


セイルとケットは何も言わず、次々に襲ってくる野兎たちを迎え撃った。


そこに、助太刀とばかりに銃弾が飛んでくる。それは的確に野兎だけを狙い打ち、それも確実に動きを奪う部位を射止めていた。


「学園内で随分好き勝手してくれたな」


拳銃を手にし、引きつったしかめっ面を向けるのは、担任教師のナイゼル・クルーレだった。


「おかげでまた仕事が増える」


悲痛なため息をつくナイゼルの影からひょこっと出てきたのは、彼の同僚のフィリア。


「学園内であなた方のいいようにはさせないわ!!」


三人は人数の減った野兎たちをねじ伏せていく。


セイルはデリオットに剣の切っ先を向けた。


「ここは学園だ。お前の場所じゃない、おれたちの場所だ。この前みたいにはいかないぜ」


しかしデリオットは尚も不敵な笑みを浮かべる。


「壊してしまえば、同じこと」


ギレフがけたたましく、甲高い笑い声をあげた。


「ヒヒヒヒヒヒッ!!」


鉄球が一層大きな音を響かせ、魔力をためこんでいく。眩しくて目が焼かれそうなほどに輝き、耳が壊れそうなくらい高い音を発した。


「いかん、あれが放たれたら学園が吹き飛ぶぞ!!」


ナイゼルが叫ぶ。


ケットとアナがギレフに斬りかかるが、デリオットがそれを妨げる。


そんな中、セイルの意識は静まっていた。口が微かに動き、囁くような言葉を発する。


「……めろ」


感情が、徐々に高まる。


「やめろ。やめろ」


矢のようにデリオットを見すくめ、セイルは激昂した。


「やめろ!!」


疾風のように駆け、剣を振りかぶり、一心不乱に斬りつけた。


「なにっ?」


感情に任せて剣を振るい、何も耳に入らない。鉄球の放つ金属音も、ケットやアナの制止する声も。


デリオットは徐々に押され、遂に剣が弾け飛ぶ。尚もセイルは腕を止めず、その体に刃を突き立てようとする。



「やめてくださいっ!!」



響き渡る、少女の声。


途端に我にかえり、セイルはぴたりと動きを止めた。


「セイルっ!!」


ワープが駆け寄ってくる。


「憎しみに、心を囚われてはだめです」


きつく剣を握っていた指が、少しずつ外される。ワープは体当たりをしてセイルをデリオットから遠ざけた。


その間に、ケットがギレフの首を突く。


「ひぎゃあっ」


ギレフは地に伏せ、その体をケットが拘束した。



古代道具は魔力の吸収の力を徐々に弱めていく。それを認めたラインは、好機と見て校舎の屋根から飛び上がった。


落下と共に剣を振るい、古代道具を斬りつける。



目を貫くように眩しい光線が溢れだし、皆思わず目を瞑った。


古代道具は上空で真っ二つに割れ、耳をつんざくような音と共に爆発した。



そっと目を開けたワープが見たのは、激しく降り注ぐ金属片。そして、それから守るように自分に覆い被さるセイルの姿だった。


「……セイル!!」


いたずらっぽく目を光らせ、セイルは笑ってみせる。


「だーいじょうぶだって」


そう言いながら、頭から一筋血が伝っている。


「大丈夫ではありません、早く、治療を」


混乱するワープの頭をかき回し、セイルはふらりと立ち上がった。


「しなきゃならないことが残ってる」


そう言うと、地面に膝をついて空を睨むデリオットの方を向く。


ケットとアナが、黙ってセイルの側に寄る。ふたりとも傷ついてはいるが、ひどい怪我ではなさそうだ。


デリオットは低く囁いた。


「……私の計画が」


セイルは冷ややかに憎い仇を見つめた。


家族を殺し、故郷を焼き払った張本人。憎しみを向け続けた相手が、今無防備に眼前にいる。


デリオットの瞳が、かっと見開かれた。


「ギレフ!!」


怒りに震えた声で手下の名を呼び、転がっていた剣を手に取る。そしてすごい速さで振り下ろし、老人の形をしたその首を狙った。


「外道が!!」


デリオットの動きが止まる。


セイルの剣が、その腕を貫いていた。


「お前は、どこまで堕ちるんだ」


静かに呟くと、セイルは刃を引き抜く。


デリオットは呻きながら腕を押さえ、忌々しげにセイルを睨んだ。


「ハネールの生き残り……貴様にはわからんのだ。私の中に渦巻く憤怒の念が、いかに強く、抗えぬ力を持っているか。私がいかなる思いで、革命を望んでいるか」

「わからないよ」


セイルの声は静かだった。


「お前の気持ちがわかるのは、憎しみに囚われた殺人者だけだ」


ふっと息をつき、セイルは悲しげに目を震わせた。


「だから、おれにはわからない」

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