学園祭の準備2
学園祭に向けて、学園中が準備に奔走していた。
生徒だけでなく教員にとっても、この時期は目眩がするほど忙しい。
王族貴族を迎えるにあたっての警備の確認、学園周辺の交通整備、その他に帳簿合わせや生徒の外出願いの受理など。
それらの仕事に終われたナイゼルは、職員室で書類の山に囲まれながら悪態をついていた。
「ふん。視察だの何だの理由つけて、要するに暇人なんだろう貴族ってのは」
手には貴族名義の文書。そこには、当日の待遇を良くして欲しいという旨が、非常に勿体ぶって記されていた。
忙しさから来る苛つきにより、ナイゼルはその手紙を放り投げる。
そばで呑気に茶などすすっていたフィリアが、あらら、と笑う。
「いいのー?貴族からの手紙なのに」
「どうせ校長にも知らせがいってる。こういう仕事は校長の管轄だろう」
それよりも、とナイゼルはフィリアを睨む。
「君は仕事もせずに何をしているんですか?」
フィリアの机の上には、お茶とお茶菓子のみ。楽しげな笑顔を浮かべ、フィリアは椅子をくるりと回転させる。
「あたしの分の仕事なら、うまく処理できたもの」
「何を言って……」
まさか、と目を見張り、ナイゼルは自分の机に積まれた書類を掻き分ける。
その中には、見るからにフィリア宛ての仕事が紛れ込んでいた。
ナイゼルはわなわなと肩を震わせ、眼鏡を外して目頭を押さえる。
「フィリア先生……」
ため息と共に彼女の名前を呼び、ナイゼルは凄まじい形相でフィリアを睨み付ける。
「君はどこまでも……」
胃の辺りを押さえるナイゼルなど意に介さず、フィリアはにこにこと回転椅子の上で茶をすすり続けていた。
深い灰色の雲が欠け始めた月に掛かる夜。
フィリエット学園の制服を着た女生徒が、足早に歩いていた。
学園祭の買い出しに街に出たは良いものの、思ったよりも時間がかかってしまった。すっかり暗くなり、門限はとっくに過ぎている。早く帰らないと、あの生徒指導教諭の雷が落ちる。
そこで女生徒は近道をしようと、裏路地に入り込んだ。真っ暗で不気味な道だが、焦りからそんなことは考えていられない。
早く、早く帰らないと――。
「こんなところで、どうしたんだい。お嬢ちゃん」
低い、男の声がかかった。
女生徒は驚いて立ち止まる。いつの間にか、すぐ後ろに人の気配があった。
「女の子がひとりで夜道を歩くのは、感心しないな。襲われてしまうかもしれない」
首もとに突きつけられる、銀に光るナイフ。
「……あっ」
「例えば、こんな風に」




