行動2
ルルが紅茶を客人に淹れている中、エルミタージュは静かに目を閉じてソファにもたれていた。
「ありがとう、ルル」
健気にポットを抱えてお辞儀する少女に労いの言葉をかけてやってから、リフィルは厳しい目付きでエルミタージュを見据えた。老人は依然目を閉じたまま、じっと彼女の言葉を待っている。
リフィルの化粧した顔には怒りと焦燥が浮かんでいた。
「学園内に神落としのアジトがあるなんて前代未聞よ。ワープはもう少しで寝首を掻かれてたかもしれない」
震えを抑えながら言う。
「最近の奴らはおとなしくしてると思って油断していたけれど、それが狙いだったみたいですね」
リフィルの背後に控えていたツルハが静かに言う。リフィルは頷き、ぐっと目を細めてエルミタージュを睨み付けた。
「まんまとはめられた。奴らは更に力を付けて計画を立てているわ。もうこんな失態は許されないわよ」
「ええ、まったく。今度の事は私の落ち度です」
エルミタージュは自責の念に耐えかねたように目を開いた。
「騎士候補生に救われました。学園の警護を強めなければ」
「……騎士候補生」
リフィルの表情が少しだけ和らぐ。
「優秀な子たち。そして頼もしい子たち。貴方は油断していたけれど、候補生たちの教育は流石だわ」
「あの子たちの実力です。私の手柄ではありません」
エルミタージュは静かな瞳でリフィルを見つめ返す。
「私は自分を許せない。私の学園、私の領分で!!私の生徒を、この国の未来を担う少女を、まんまと奪われるところだったのです。リフィル、貴女の思うよりずっと強く、私は後悔しているのですよ」
「なら、行動に移すのね。大切なあの子を、あたしは貴方に託したのよ!!」
エルミタージュは恭しく低頭した。この上なく敬意を込めた礼だった。
「承知しています。リフィル」
リフィルは依然腹立たしげに腕を組んだ。
「騎士候補生たちのお手柄だそうね」
少し声の調子が変わる。
「あの子は元気?」
あの子と聞いて、エルミタージュは眉を上げた。
「ラインのことですか」
「ええ。黒のラインよ」
リフィルのラインを呼ぶ声には、懐かしさと確かな愛情が込もっていた。
「相変わらずの性格です。……が、ワープさんを真っ先に助けてくれたのは、あの子なんですよ」
「……まあ!!」
リフィルはたちまち笑顔になる。それから先ほどの不機嫌を思い出したように、やや顔つきを歪めた。
「よかったわ。ワープ、あの子ともうまくいっているの?」
「どうでしょうか。貴女の目指すところまでは、まだ時間が必要でしょう」
「そう……」
リフィルは少し考えるような顔をし、それから明るく言い放った。
「今日の外出には、ラインも同行させなさい!!」
素敵な思いつきに瞳を輝かせるリフィルに、エルミタージュは穏やかに微笑み返した。
「それは何より素晴らしい命令です」




