表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の吹かせる風  作者: わた
24/92

事件5

神落としの一員たちは、エルミタージュの手配した警備団に連れられて行った。


完璧な敬礼と挨拶をして警備団が去っていくと、エルミタージュはワープの前に跪いた。


「学園内の安全を確保できなかったのは、私の失態です。申し訳ありません」


長い銀髪が地面に付くまで頭を下げられ、ワープはあわてる。


「いいえっ!!そんな、謝らないでください」

「しかしこれではリフィルに顔向けできません」

「と、とにかく立ってくださいな」


必死にエルミタージュの手を引っ張って立たせる。


「みなさんが助けてくださいました。私は無事ですから」


そう言って微笑むと、エルミタージュは少し安心したように騎士候補生たちを見回した。


「そうですか……君たちは、本当に優秀な騎士候補生です」


エルミタージュはひとり離れたところで腕を組んでいるラインに目をとめ、優しく笑った。


それからセイルたちに労うような視線を向ける。


「少しお話ししたいことがあります。君たち、校長室に来てくれませんか?」




騎士候補生たちが校長室で話し合いをしている間、ワープはナターシャと共に廊下で待っていた。


ナターシャは泣き止んでいたが、目は真っ赤に腫れていて、なお自分を責めるように苦しそうな顔をしている。


ワープは彼女の手をとり、安心させるように頷きかけた。それを見てせきが切れたのか、ナターシャは再び泣き出してしまう。


「ごめんなさい……ワープさん。すべて私のせいです」


ワープは首を振る。


「あなたは知らなかったのです。セイルたちを呼んでくれたこと、感謝します」

「違うんです!!私は、あなたを助けようとなんてしてなかった。偶然なんです」


ナターシャは、まずラインにワープの居どころを尋ねられ、答えられなかったこと。林の前でワープを解放しようかしまいか悩んでいるところに、セイルたちがやって来て、同じようにワープの居どころを尋ねられたこと。たまらず教えたところ、あのような現場に遭遇したことを話した。


「私の通う特別クラスでは、ミシェール・エアネースという生徒が絶大な権力を握っているんです。彼女は騎士候補生と親しくしたがっていて……簡単な話、あなたを妬んだんですわ。それで、あなたを閉じ込めている間に、騎士候補生のあなたに対する評価を落とそうとしたんですの」


結局、大失敗でしたけど、と、ナターシャは自嘲するように言う。


「ラインさんに言われました。私は、次期巫女の身の重さをわかっていないと。只の嫌がらせが、こんな事態になるなんて。私が愚かでしたわ」

「ナターシャさま……」

「ワープさん。あなた、私を怒らないんですか?私はあなたを騙した挙げ句、神落としのアジトに追い込んだんですよ」


これなら怒鳴り付けられた方がましだと言いたげなナターシャ。けれどもワープは、穏やかに首を振る。


「怒りません。あなたはしたくてやった訳ではないのでしょう?怒るとしたら、神落とし相手にされるがままだった無力な私にです」


ナターシャは驚きに目を見開いた。それから、ふふっと小さく笑う。


「あなたは、変わったひとですね」

「そうでしょうか?」


ワープは、フロウの言葉を思い出していた。

祈りの巫女が、どうしたら世界を救えるのか。


「それに、今回の事件で私は学ぶことができました」

「え?」

「私は無力です。確かに巫女が祈るだけでは、できないことがあります」


苦しむ人々を救うためには、行動しなくてはならない。

ワープは強い決意をしていた。




その夜、ナターシャはミシェールを初めとする特別クラスの生徒たちに呼び出され、校舎裏に来ていた。


「神落としの件、聞きましたわ」


ナターシャは期待を込めてミシェールを見た。これで彼女もワープへ嫌がらせしようなんて、考えなくなると。


しかし、この貴族令嬢の常識はずれさは、ナターシャの想像の遥か上を行っていた。


「けれど作戦の失敗は失敗。どんな経緯があったにせよ。騎士候補生さま方は結局あの子に入れ込んだままですわ。どうしてくれるんですの?」

「な……」


流石に絶句するナターシャに、ミシェールは尚も続ける。


「エアネース家の力を持ってすれば、あなたのご実家なんてすぐ失脚させられますのよ。わかっているのかしら?」

「……ミシェールさま」


ナターシャはミシェールを見据える。彼女が今まで見せたことのない反抗的な目に、ミシェールは怯む。


「な、なんですの?」

「ワープさんは危うく殺されるところだったんですよ。この先国の象徴となる次期巫女の身が。第一に、何の罪もない女の子が!!それがわからないんですか」


ナターシャは冷たく言い放った。


「家は関係ありません。私はもうあなたなんか恐れません」


くるっと振り向き、わなわなと震えるミシェールを取り残して、ナターシャはそのまま歩き去っていった。




食堂ですぱげってぃを食べながら、ワープはある違和感を感じていた。


周囲の生徒の視線が気になる。それはいつものことだが、今までのように冷たい無遠慮なものでなく、なんだかこちらに気を遣っているような感じがするのだ。


「あの、みなさんどうされたのでしょう」


向かいに座るアナに尋ねると、彼は相変わらずの笑顔で


「別にどうもしないよ。ワープが可愛いから見てるんだ」

「かわっ……!?」


セイルがアナの頭を叩く。


「違ぇよ」

「ちがっ……!?」

「皆ワープのことを見直したのだ。次期巫女の存在の大きさを、今回の事件が示してくれたからな」


ケットが落ち着き払って言う。


「どんなにドジでバカやってても、お前はこの国にとって重要な次期巫女様ってわけだ。よかったな」


からかうようにセイルに言われ、ワープは困惑する。


「喜んでよいのでしょうか……?」


自らの力でなく、命を狙われて初めて見直されるなんて。


「いいんだよ。とりあえずみんなお前に一目置くようになったんだ。前進だろ」

「そ、そうですかっ」


複雑な思いではあったが、嬉しいことは嬉しい。ワープは頬を染め、胸を弾ませながらすぱげってぃをフォークに巻く。


「みなさん、校長先生とはどのような話をしていたのですか?」

「まずは今日の礼。それから、今後は今までよりお前の警護を強めて欲しいってよ」

「校長も大分ショックだったんだろうね。なんか余裕がない感じだったよ」


ワープはしゅんとうなだれる。


「すみません……」


すると、ケットが励ますように肩を叩いてくれた。この人は顔は怖いけれど、こういった優しさは誰よりもあるのでは、と、ワープは常々思わせられる。


「君が気にすることではない。元々俺たちの務めが君を守ることなのだ。それが今回のようになっては、責められるべきは俺たちだ」

「えっ!!いいえ、そのようなことはありませんっ」


あわてて否定するが、セイルやアナまで申し訳なさそうな顔をするのを見て、ワープはうっと息を詰める。


「あの、そうではないのです」


ワープは気持ちを落ち着け、穏やかに切り出した。


「私、思ったのです。フロウさま……あの、神落としのお頭さまです。彼に言われました。祈りの巫女は、世界を救えないと」


ここで三人共何か言いたそうに口を開いたが、結局はワープの言葉を待って黙っていた。


「確かにそうです。神様に祈るだけでは、今すぐにパンが欲しい人のお腹を満たしてあげられません。そこで、私、考えました」


ワープは瞳を輝かせて三人を見た。


そして、「世界を救う」第一歩としての作戦を、ワープにしては珍しく、自信を持って発表したのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ