第5節
凍てついた北の大地。
機関部の破損で黒煙を上げながら沈みゆく工作船。 わずか数分の交戦でその役目を終えた。
黒煙は吹雪にのまれオホーツクの空へと消えた。 静かな沈黙の再開とともに、花御たちは安堵のため息を出した。
「作戦終了。 これよりアバランチに帰投する。」
普段の穏やかな顔に戻った花御は、小松と水野とともに丘へと歩き始めた。
「お疲れさん。なかなかの出来じゃないか」
それまでこわばっていた大野原の肩の力が抜けた。
その声には、長い夜が終わったという安堵と部下を一人残らず帰ってこさせたという確かな手ごたえが滲んでいた。
帰投した梨田の顔にも、少しばかり安心感が宿っていた。
「ビビッ ビビッ」
原の手が止まる。
和やかな空気を切り裂いたのは、原が操作していたモニターの検知音。血の気が引くというよりも、内部から体もろともすべてが凍り付く感覚。
現在地周辺には、赤く染まった光点はなくなっていた。大野原たちの笑顔は、一瞬にして消える。
「…なぜだ」
その瞬間、モニターにビデオ通話の着信が割り込む。
「大野原。 片はついたか?」
その穏やかな笑顔と余裕に満ちた声は、隊員たちの胸を騒がせる。
「どういう風の吹き回しなんです? 一体。 こんな深夜に本庁の大層なお偉いさんが泥臭い現場にわざわざ…」
大野原は目を細める。
「いまそっちのモニターにも映ってただろう…」
大野原の背筋は次第に凍り、言葉が出なくなる。
「そうだ。 アルファはほんのあいさつ代わりだよ 本命の連中たちを択捉の北へ通すためのな。 いやぁ、非常に見事だったよ! お前たちの戦いは、
見事に連中にとって爪痕になった」
「貴様…」
大野原のその言葉には、大きな殺気が混じっていた。
東は微塵もひるまず、むしろ楽しげに言葉を放つ。
「感謝するよ、大野原。お前たちがそこでおとりと派手に撃ち合ってくれたおかげで、連中は綺麗に包囲網をすり抜けた。――さて、どうする?
そこから西へ35キロ、追いつけるか?」
プツリ、と一方的に回線が切れた。
車内に残されたのは、非情に光り続ける赤い点と、無機質な不通音だけだった。
先ほどの和やかな雰囲気など、海底へ沈むスクラップのように消え去った。
「クソが」
大野原は吐き捨てるように発し、中身のなくなった缶を握りつぶす。
やり切ったと思われた男は、すでに本命を狩るための冷酷な指揮官へと変化していた。




