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『卑弥呼プラン:邪馬台国の希望 3人の隠密スペシャリスト〜魏・呉・天竺から世界最強の文明をリバースエンジニアリングせよ〜』  作者: あっちゅ寝太郎


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2話【脈動】―― 列島共生圏(アーキペラゴ・コモンズ)の再配線 (国内の利権「血栓」の排除と、弟王へのバトンタッチ)

第二章 2話:潮流の計算、鉄の祈り

対馬の北端、朝鮮半島を望む断崖の上に、二人の男が立っていた。

一人は潮風に煽られながら木簡を睨む阿知寝。もう一人は、海鳴りよりも低い声で呟く草壁猛くさかべ たけるである。

「……阿知寝。お前のその『答えだけを見て、過程(血の通った苦労)を無視する癖』は相変わらずだな。学舎にいた頃から一歩も進歩しちゃいない」

草壁は、阿知寝を「大計使」という余所余所しい官職名で呼ぶのを止めていた。その言葉には、かつて同じ志を抱いて学びながらも、理想の形が違ったゆえにたもとを分かった友への、隠しきれない棘が含まれている。

「進歩してないのはどっちだ、猛。あんたは昔から『気合』と『練度』でどんな難局も突破できると信じている。だが、あの渦を見てみろ。あれは気合でどうにかなる代物ノイズじゃない」

阿知寝が指した先には、対馬海峡の難所「八反はったんの瀬」があった。複雑な地形と潮流がぶつかり合い、巨大な洗濯機のように海面がのたうち回っている。

「ここを通らねば、半島からの鉄は届かん。俺たちはここで、仲間を何人も失いながら、血を吐くような思いで『潮を読む勘』を磨いてきたんだ。それをたかが泥まみれの算木さんぎ数本で測れるなどと、この海を、俺たちの犠牲を舐めるな!」

草壁の咆哮が響く。だが、阿知寝は静かに草壁の手元を見た。舵を握り続けたことで厚く硬くなったタコ。それに対し、阿知寝は自分の指先を見せた。算木を一日中弾き続け、同じように固くなった指のタコを。

「……舐めてないさ。あんたが血を流している間、俺は泥をすすって山にいた。あんたが命を懸けて集めてくれた『海流の記憶』を、どうすれば誰も死なずに済む『数式』に直せるか。それだけに人生を全振りしてきたんだ。猛、俺を信じるな。俺の計算こいつを信じろ」

阿知寝は一枚の木簡を突きつけた。

「今から一刻後、あの大渦の左脇に、わずか三千歩の『凪の回廊』が生まれる。月の引力と地形の反動が、一瞬だけ均衡するポイントだ。そこを突っ切れば、あんたの船は無傷で半島へ届く」

「……もし外れたら?」

「俺もその船に乗る。計算ミスをした設計士に、生きる価値はねえ」

草壁は阿知寝の冷徹な、しかしどこか懐かしいほどに真っ直ぐな瞳を見て、短く笑った。

「……いいだろう。お前のその『不遜な理屈』、久々に味わわせてもらうぜ」

一刻後。草壁自らが舵を取る大型船が、荒れ狂う「八反の瀬」へと突っ込んだ。

船員たちが絶望の悲鳴を上げる。目の前には、船を一飲みにせんと口を開ける巨大な大渦。

「阿知寝! まだか!」

「……三、二、一。――今だ! 取り舵いっぱい! 帆を畳め!」

阿知寝の叫びと同時に、草壁が全力で舵を回す。

その瞬間、船を揺らしていた狂暴な振動がピタリと止まった。荒れ狂う激流の中に、まるで神が引いた境界線のように、鏡のような静水面が真っ直ぐに伸びていた。

「な……んだ、これは」

草壁は目を見開いた。船は加速し、大渦の縁を掠めるようにして、滑らかに難所を抜けていく。

長年の経験という名の「キャッシュ」では導き出せなかった、自然の深淵に潜む「論理の黄金律」。

対岸の静かな海域に抜けた時、草壁は大きく息を吐き、隣に立つ阿知寝の肩を、砕かんばかりの力で叩いた。

「……ハハッ、傑作だ。俺の経験がゴミに見えるぜ。阿知寝、お前……あの頃の机上の空論を、現実うみを書き換えるまでの力に磨き抜いてやがったんだな」

「言っただろ。俺の仕事は『仕様書』を書くことだ。それを動かすのは、あんたのハードウェアだよ」

「……ふん。大計使……いや、阿知寝。分かったよ。お前の描く『列島の回路図』。その最も危険な配線うみは、この俺が引き受けてやる」

二人の男の間に、かつての友情を越えた、新しい時代の「信頼」という名のプロトコルが確立された。

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