3話:【同期】―― 卑弥呼帰還、情報のホットリロード (留守を守った弟王との同期。帰還した知識の社会実装)
いつも応援ありがとうございます。他3作品、およびエッセイ・俳句への温かいご声援にも心より感謝いたします。
本作は、3世紀の邪馬台国と大陸をひとつの「巨大な回路図」と捉え、歴史の謎を現代のエンジニアリング視点で論理的に解き明かす、異色の知略サバイバル戦記です。
【本作の基本プロトコル】
亜那 阿知寝:大陸の数理を解析する天才アーキテクト。
与太彦:現場主義を貫く、泥臭くも凄腕のフィールドエンジニア。
卑弥呼:国の未来を演算し続ける「大和OS」の設計者。
神話やロマンの裏に隠された、古代の「技術者たち」の命懸けのデバッグ作業。
後半に向けて物語の演算速度(クロック周波数)はさらに加速します。彼らが辿り着く「究極の暗号」の結末を、どうぞ最後まで見届けてください!
第十章 第3話:【合】 ── 日田への行軍、共鳴するネットワーク
博多の平野を抜け、馬を駆る二人の前には、険峻な山々が壁となって立ちはだかっていた。脊振の嶺を越え、筑後川の上流へと分け入る道は、通常の旅人であれば数日を要する難所である。
だが、今の彼らは単なる旅人ではない。与太彦がこの数年、不眠不休で列島に埋め込んできた「物理インフラ」の上を走る、高速のパケットそのものであった。
「阿知寝の旦那、見てくだせえ! 山の頂を!」
与太彦が手綱を捌きながら、前方の峰を指さす。
冬の澄んだ空気の中、遠くの山頂で一条の光が爆ぜた。それは自然の反射ではない。与太彦が各地に配置した番人が、巨大な青銅鏡を使い、一定の周期で放つ「同期信号」であった。
光の連鎖は、脊振から耳納の連山へ、そして目的地である日田盆地へと、一瞬で駆け抜けていく。
「……見事だ、与太彦。貴様の造り上げたこの導線、洛陽のいかなる伝令よりも速い」
阿知寝は馬上の揺れに身を任せながら、目を閉じた。
彼の脳内では、天竺で得た「零」の数理がすでに起動している。視覚を閉ざすと、光の点滅だけでなく、国中を流れる情報の「熱」が肌に伝わってくるようだった。
与太彦が整備した烽火台の煙、鏡の反射、そしてそれらを繋ぐ人々の意志。それらすべてが、阿知寝の帰還という情報を、中央演算装置である日田へと伝搬させている。
だが、阿知寝の表情は険しかった。
日田に近づくにつれ、彼の「数理の耳」に届く信号に、耐え難いほどの「ノイズ」が混じり始めていたのだ。
(……この乱れは何だ。信号の周期が、あまりに速すぎる。まるで……焼き切れる寸前の回路のように)
それは、日田の盆地で一人、国家の全情報を処理し続けている卑弥呼の「脳波」であった。
阿知寝の帰還に呼応し、卑弥呼の演算速度は極限まで引き上げられている。しかし、今の彼女には、過負荷を逃がすための「零」の概念がない。集まる情報はすべて彼女の肉体を焼き、魂を摩耗させていた。
「与太彦、馬を休めるな! 女王様の『熱』が上がっている。このままでは、我々が着く前に、彼女の回路が全損するぞ!」
「なっ……! 了解です、旦那! 最短航路を突破しやす!」
与太彦は叫び、愛馬に鞭を入れた。
崖沿いの細い道を、二人の影が火花を散らすような勢いで駆け抜ける。
夕刻、ついに眼下に霧に包まれた日田盆地が見えた。
そこは、列島中から集まった「祈り」と「情報」が渦巻く、巨大な演算の坩堝。
その中心部から、目には見えないが、激しく、切ないほどに高い共鳴音が、阿知寝の魂を震わせていた。
「待っておれ、女王様……。今、世界を静寂へ導く『理』を、私が届ける」
阿知寝は家格の礼装を風になびかせ、光り輝く日田の霧の中へと、迷わず飛び込んでいった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
本作『卑弥呼プラン』は、いよいよ7月10日をもちまして、全57話の幕を閉じることとなりました。天才アーキテクトたちの命懸けのデバッグ作業の結末を、どうぞ最後まで見届けていただけますと幸いです。
さて、本作のような「徹底したロジックと生存戦略」を描いた歴史ドラマがお好きな皆様へ、すでに全八章で完結しているこちらの作品をご案内いたします。
■ 完結済『泥田と田楽 桶狭間』(全八章)
絶望的な兵力差を覆すため、織田信長が放ったのは「音」と「情報の刺客」でした。
諸国を放浪し、京の知恵と堺の富をその脳髄に蓄積(データベース化)した男・秀吉と、「機能美」を追求する魔王・信長。
幼少期に共有した「泥の記憶」を基盤に、二人の天才が交わったとき、桶狭間の豪雨さえも、緻密な観測と情報網によって手繰り寄せた必然の勝機へと変貌します。
過酷な泥土を生き抜くための「野生の合理性」と、土地に根ざした「物流の理」。精神論や根性論を排し、全く新しい視点で信長と秀吉の戦いを再定義した、知略サバイバル戦記です。
合言葉は、「川の深さは?」「赤味噌の濃さよ」。
『卑弥呼プラン』の熱量のままに駆け抜けられる一気読みに最適な一作ですので、ぜひこちらもURLから戦場を覗いてみてください!
https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/3147505/




