2話:【同期】―― 卑弥呼帰還、情報のホットリロード (留守を守った弟王との同期。帰還した知識の社会実装)
いつも応援ありがとうございます。他3作品、およびエッセイ・俳句への温かいご声援にも心より感謝いたします。
本作は、3世紀の邪馬台国と大陸をひとつの「巨大な回路図」と捉え、歴史の謎を現代のエンジニアリング視点で論理的に解き明かす、異色の知略サバイバル戦記です。
【本作の基本プロトコル】
亜那 阿知寝:大陸の数理を解析する天才アーキテクト。
与太彦:現場主義を貫く、泥臭くも凄腕のフィールドエンジニア。
卑弥呼:国の未来を演算し続ける「大和OS」の設計者。
神話やロマンの裏に隠された、古代の「技術者たち」の命懸けのデバッグ作業。
後半に向けて物語の演算速度(クロック周波数)はさらに加速します。彼らが辿り着く「究極の暗号」の結末を、どうぞ最後まで見届けてください!
第十章 第2話:【合】 ── 那の津の最終調整
翌朝、那の津の空は抜けるような冬の青に染まっていた。
阿知寝は、西域の旅装を脱ぎ捨て、倭国の最高位技術官としての正装に身を包んでいた。呉の絹を用いた深い紺色の衣に、家格を示す独自の文様。その姿は、もはや放浪の算術師ではなく、一国の理を司る設計者そのものであった。
博多政庁の広間。そこには、那の津で足止めを食らっている魏の副使・夏侯纂たちが、苛立ちを隠せぬ様子で待ち構えていた。
「阿知寝殿! 洛陽での約定はどうなったのだ。女王はいずこにおわす。我らをいつまでこの野蛮な港に留め置くつもりか!」
夏侯纂の怒号を、阿知寝は柳に風と受け流し、静かに卓の上に一冊の木簡を置いた。それは、魏の法典、呉の土木技術、そして天竺の数理を倭国の地政学に合わせて統合した「統合仕様書」の写しであった。
「夏侯纂殿、ご安心召され。女王様は日田の地にて、貴国との新たな外交プロトコル……即ち、永久不変の親和性を構築するための最終演算に入っておられる。私が今手にしているのは、その『鍵』にございます」
阿知寝の言葉遣いは丁寧ながらも、そこには魏の権威に阿ねる色は微塵もなかった。
夏侯纂がその木簡を奪い取るように開き、絶句する。そこに記されていたのは、魏の法を単に模倣するのではなく、列島の複雑な地形と水理を制御するための「OS」としての法体系であった。
「これは……ただの法典ではない。土木と、租税と、信仰が……一つの数理で繋がっているというのか?」
「左様。もはや倭国は、大陸の影を追うだけの雛形ではございませぬ。自律し、自ら演算を続ける一つの生命体。……この那の津の港を見れば、明白でありましょう」
阿知寝が窓の外を指さすと、そこには与太彦の指揮下、寸分の狂いもなく機能するクレーンと、潮位を計算し尽くした石積みの埠頭が、朝日に輝いていた。
魏の使節団は、その「工学的完成度」という圧倒的な現実を前に、もはや言葉を失うしかなかった。
政庁の裏手。出発の準備を整えた与太彦が、二頭の駿馬の手綱を引いて待っていた。
「阿知寝の旦那、鮮やかなお手並みで。連中の顔、まるでバグを見つけた時の俺みたいでしたぜ」
「……ふっ、過ぎた戯れよ。行くぞ、与太彦。これが最後の手入れ(パッチ)だ。大陸の法、呉の技術、そして私が持ち帰った『零』。この三つを日田で連結し、女王様の脳の過熱を止める」
阿知寝は馬に飛び乗り、日田の方角を見据えた。
博多での外交的・物理的な調整は全て終わった。あとは日田盆地という「中央演算装置」に、この統合された魂のプログラムをインストールするだけである。
「へいっ! 旦那の数理を、俺の馬が最短航路で日田へ繋ぎやす!」
二人の技術屋は、魏の使節団の視線を背に、博多を後にした。
脊振の山々から吹き下ろす冷気が、決戦の地・日田が近いことを告げていた。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
本作『卑弥呼プラン』は、いよいよ7月10日をもちまして、全57話の幕を閉じることとなりました。天才アーキテクトたちの命懸けのデバッグ作業の結末を、どうぞ最後まで見届けていただけますと幸いです。
さて、本作のような「徹底したロジックと生存戦略」を描いた歴史ドラマがお好きな皆様へ、すでに全八章で完結しているこちらの作品をご案内いたします。
■ 完結済『泥田と田楽 桶狭間』(全八章)
絶望的な兵力差を覆すため、織田信長が放ったのは「音」と「情報の刺客」でした。
諸国を放浪し、京の知恵と堺の富をその脳髄に蓄積(データベース化)した男・秀吉と、「機能美」を追求する魔王・信長。
幼少期に共有した「泥の記憶」を基盤に、二人の天才が交わったとき、桶狭間の豪雨さえも、緻密な観測と情報網によって手繰り寄せた必然の勝機へと変貌します。
過酷な泥土を生き抜くための「野生の合理性」と、土地に根ざした「物流の理」。精神論や根性論を排し、全く新しい視点で信長と秀吉の戦いを再定義した、知略サバイバル戦記です。
合言葉は、「川の深さは?」「赤味噌の濃さよ」。
『卑弥呼プラン』の熱量のままに駆け抜けられる一気読みに最適な一作ですので、ぜひこちらもURLから戦場を覗いてみてください!
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