4話:【浸食】―― 魏呉国境のゼロデイ攻撃 (与太彦による造船技術の窃取と、魏の情報の書き換え)
第六章:【震】 ── 接触と覚醒
第4話:『震』の収束と対馬ポートの起動
対馬、厳原。断崖に穿たれた秘密の地下ドックに、一艘のボロボロになった小舟が滑り込んだ。
舵を握ったまま倒れ込んだのは、与太彦であった。その腕には、呉の追撃を振り切って守り抜いた「稲の種」と、脳内に焼き付けた「楼船の設計図」という名の巨大なデータが抱えられていた。
「……ハァ、ハァ……。間に合ったか。対馬が、俺たちの『計算機』だ……」
彼を出迎えたのは、卑弥呼の命を受けてこの島を要塞化していた職人集団だった。
その瞬間、与太彦の懐にある算木が、かつてないほど激しく共鳴した。
数千里の彼方、洛陽の闇に潜む卑弥呼。
そして天竺の僧院で石板に円を刻む阿知寝。
三人の知性が、物理的な距離を無視して一つの「プロトコル」で結ばれた。阿知寝が掴んだ「零」という空位の概念。それが情報の桁を固定し、卑弥呼が読み取った魏の「脆弱性」と、与太彦が持ち帰った呉の「構造」が、一つの巨大な回路図として対馬の地に展開される。
「同期、完了。……これより、倭国独自の演算を起動する」
卑弥呼の静かな声が、知のネットワークを通じて響く。
これまで、大陸の技術を「模倣」し「解析」するだけだった邪馬台国は、今この瞬間、独自のOSを持つ「自律国家」へと進化した。
与太彦が持ち帰った稲の種が土に触れ、呉の竜骨の設計が対馬の材木に刻まれる。そして、阿知寝の「零」がそれらすべての複雑な変数を管理し、最適化する。
対馬は単なる島ではない。大陸から流れ込む莫大な情報を処理し、倭国の未来へと変換する「中央処理装置(CPU)」へと変貌を遂げたのだ。
「……さあ、始めよう。我らの知恵が、大陸の理を『破』する時だ」
三人の鼓動が重なり、対馬の地下ドックに、歴史を書き換えるための巨大な火が灯された。




