第七章 1話:【数理】―― 天竺の「零」と砂漠のラグ (阿知寝による数学的革新。西域の「水脈」掌握)
第七章:【破】 ── 知略の限界突破
第1話:長江の計算機
長江河口、霧が渦巻く混沌の境界線。
与太彦の駆る小舟の背後には、呉が誇る最新鋭の楼船、その巨大な質量が迫っていた。
「逃がしはせぬ。貴殿の頭脳は呉の宝……いや、放置すれば呉を滅ぼす劇薬だ。死なせるにはあまりに惜しいがな」
楼船の舳先に立つ若き名将・陸遜の声が、湿った空気を震わせる。
陸遜の指揮は完璧だった。無数の軍船が、長江の流速、風の向き、さらには与太彦が漕ぐペースまでを完全に逆算し、逃げ場をミリ単位で削り取っていく。それはまさに、呉という国家が長年かけて構築してきた「軍事アルゴリズム」による物理的な包囲網であった。
与太彦の懐には、この旅の最大の成果である「稲の種」と、未知の可能性を秘めた「発酵菌の器」が収められている。
もしここで彼が捕らえられれば、倭国の未来は、魏や呉といった大陸国家の「一機能」として組み込まれ、その独自性は永久に失われるだろう。
(……へっ、さすがは陸遜の旦那だ。この配置、このタイミング。どこをどう計算しても、この先で『詰み』になるようにできてやがる)
与太彦は、自身の指先が微かに、しかし鋭く震えているのを感じていた。
それは恐怖ではない。懐にある算木を通じて伝わってくる、天竺の阿知寝からの同期信号――「零」という概念を用いた、高次元の物理演算の「震え」であった。
阿知寝が砂漠で掴み、卑弥呼が洛陽で起動させたその概念は、今、与太彦の脳内で長江の「潮汐データ」と結合し、陸遜の計算すら及ばない「特異点」を導き出そうとしていた。
「陸遜殿、あんたの計略は完璧だ。だが……あんたの数式にゃあ、『空』が入ってねぇ」
与太彦は、あえて櫂を止め、怒涛のごとく逆流し始めた潮のうねりを見つめた。
陸遜が「潮の満ち引き」という定数で計算している場所で、与太彦は「月の引力による海水の跳ね返り(潮汐ボア)」という、予測不能なバグを意図的に引き起こそうとしていた。
いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!
物語はいよいよ第七章。卑弥呼の洛陽からの帰還、そして阿知寝による遥かなる天竺への旅立ちと、物語のスケールは最高潮を迎えつつあります。
この世界規模で加速していく大展開に先駆けまして、本日よりタイトルとあらすじを、本作のコアである「古代×IT・技術ハッキング」のワクワク感がよりダイレクトに伝わるものへとアップデートいたしました!
新タイトル:
『卑弥呼プラン:邪馬台国の希望 3人の隠密スペシャリスト〜魏・呉・天竺から世界最強の文明をリバースエンジニアリングせよ〜』
全十二章に及ぶこの戦記も、ここから後半戦へと突入し、隠密スペシャリストたちの暗躍はさらに鋭さを増していきます。
世界の最先端システムをハックし、列島の未来を書き換える彼らの旅を、ぜひ最後まで見届けていただければ幸いです。
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