2話:【解析】―― 構造解析のアルゴリズム (各地での技術・情報の収集。帝国の「ヒビ」の観測)
第五章:【線】 ── 構造解析のアルゴリズム
第2話:砂漠の水脈が「零」の線を引く
タクラマカン砂漠。
天を焼く酷暑と、すべてを削り取る砂塵の境界で、阿知寝は一本の算木を垂直に砂へと突き立てていた。
「……緯度三十六度。ここが、地下に眠る古き王国の『血管』の真上でげす」
突き立てた算木の影、その微細な揺れから彼は地球の傾きを読み、天文学的な逆算で地下の帯水層を特定していた。
そこへ、怒号とともに砂煙を上げて現れたのは、西域の要衝を武力で支配するクシャーナの守護将軍の一隊であった。
「死にたくなければ、魏の通行証を出せ。さもなくば、この砂の中に埋めてやる」
将軍の剣先が阿知寝の喉元に突きつけられる。魏の権威を笠に着た交渉は、この無法の地では通用しない。阿知寝は動じることなく、火にくべて灰にしたはずの通行証の代わりに、一掴みの「濡れた砂」を差し出した。
「将軍。魏の権威はここまでは届きやせんが、私の『計算』は届きやす。この地点から東へ百歩、三丈掘りなせえ。そこには貴殿の軍馬千頭を潤す水が眠っている……。ただし、その水脈の『鍵(流量制御)』を知るのは、私一人でげす」
暴力という名の旧OSに対し、生存に直結する「物理の必然」を叩きつける。
将軍の瞳に、疑念から驚愕、そして盲目的な期待が混ざり合う。阿知寝はすでに、この地を単なる通過点ではなく、天竺へと続く「不可視の供給路」として掌握し始めていた。
「難升米、記録を。……この地点の座標と水利権の確保。これを木簡に刻み、商隊に託して東へ飛ばせ。第一号パケットでげす」
傍らに控える屈強な斥候、難升米が頷く。
阿知寝の眼には、すでにこの砂漠の向こう、仏教の論理が支配する天竺の影が見えていた。そこに至る旅が、数年、あるいは十数年の歳月を要するであろうことも。
「……卑弥呼様。これより我らは、時の流れの外側へ出やす。次にまみえる時、私は『零』という名の真理を持ち帰る。それまでは……この木簡が私の代わりでげす」
風に舞う灰が、彼の足跡を消していく。
だが、彼が砂に引いた「線」は、地下の水脈と繋がり、歴史を変えるための巨大な回線となって東へと伸び始めていた。




