4話【脈動】―― 列島共生圏(アーキペラゴ・コモンズ)の再配線 (国内の利権「血栓」の排除と、弟王へのバトンタッチ)
第二章 4話:遣魏使編成表の開示
日田の広間に、倭国の重鎮たちが集っていた。
正面の帳の奥には女王・卑弥呼が鎮座し、その傍らには管領・阿知が、期待と不安の入り混じった表情で立ち尽くしている。
廷臣たちの関心はただ一つ。大陸の覇者「魏」へ送る使節団の顔ぶれだ。
「これより、大計使・阿知寝による、遣魏使の編成を発表する」
阿知の声を合図に、阿知寝が広間の中央へと進み出た。彼は巨大な木簡――いや、もはや「仕様書」と呼ぶべき緻密な図解が施された板を、廷臣たちの前に突き立てた。
「諸官、よく見ておけ。これは単なる挨拶回りの行列じゃねえ。魏という巨大な演算系に潜り込み、その核心を書き換えるための『特務部隊』の構成だ」
阿知寝の指が、木簡の最上段を指す。
「まず、表層――外交プロトコル層。正使には難升米、副使には都市牛利の両殿を据える。これは魏の皇帝を満足させるための『格式』だ。礼儀作法と朝貢の儀は、彼らに任せる」
納得のいく人選に、廷臣たちから安堵の声が漏れる。しかし、阿知寝の指が中段へ移動すると、広間の空気は一変した。
「次に、核心層――実務実行エンジン。ここには俺が率いる『数理院』の精鋭を叩き込む。
一つ、考工部。目的は大陸のインフラ解析だ。魏の大河に架かる石橋の構造を盗み、倭国の治水に実装する。
一つ、観象部。大陸の暦を解析し、列島の四季と同期させる。
そして俺、阿知寝が全体の設計と、魏の官僚たちとの『論理交渉』を担当する」
「待て! 阿知寝!」
一人の豪族が声を荒らげた。
「その編成、肝心の『武』が足りぬではないか! 大陸の道中は険しいと聞く。我が国最強の盾、草壁猛殿をなぜ外した!」
その問いを待っていたかのように、阿知寝は不敵に笑った。
「猛は行かねえよ。あいつには、最も重要な『留守居』を任せる」
阿知寝は木簡の最下段を叩いた。そこには「対馬守護・草壁猛」の名が、他の誰よりも大きく刻まれていた。
「いいか。俺たちが海を越えて大陸の奥深くまで潜り込むとき、一番の恐怖は何だ? それは『帰るべき門』を閉ざされることだ。国内の残党や、半島の不穏な連中に、対馬という蛇口を握られたら俺たちは詰む」
阿知寝の声が広間に響き渡る。
「魏に剣は要らねえ。あそこは理屈と権威の国だ。だが、この倭国の入り口には、世界で一番硬い『盾』が要る。猛には対馬で睨みを利かせてもらう。俺たちが大陸でどれだけ暴れても、あいつがいれば『戻る場所』は担保される。……これは、俺とあいつの間で交わした『友情』という名の信頼だ」
広間は静まり返った。
感情論ではなく、国家という回路を維持するための徹底した「機能配置」。
最強の男を前線に送らず、あえて入り口に置くという逆転の発想に、廷臣たちは己の旧弊な思考を突き崩されるのを感じていた。
「……以上が、俺の書いた遣魏使の仕様書だ。文句がある奴は、俺の計算より優れた代替案を持ってこい」
阿知寝は算木を懐に収め、廷臣たちを圧倒的な知性でねじ伏せた。
その視線の先では、対馬での「留守居」を承諾した草壁猛が、静かに、しかし決然とした笑みを浮かべて控えていた。
倭国というシステムが、いよいよ世界という大海へ接続されようとしていた。
いつも『卑弥呼プラン』などの時代小説や、私の俳句・詩を読んでいただきありがとうございます。あっちゅ寝太郎です。今回は、少し頭を柔らかくして、歴史のifを全力のコメディで描いてみました。本日は「予告編」として序章1話を先行公開いたします!明日月曜日から、毎日20時30分に本編を投稿していきます。箸休めにお楽しみいただければ幸いです!




