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第77話:(フィリアSide)思い出の逃避行

先生が捕まってしまいました。私のせいで、捕まってしまったのです。

遠隔の魔法で先生の様子を時折、眼裏に映し出しながら、私はぼんやりと街を歩いていました。幸いなことに、先生がひどい仕打ちを受けたり、命を奪われたりするようなことはなさそうでした。


ふと顔を上げると、ずいぶんと遠くまで歩いてきてしまっていたようでした。

「ここは、たしか……」

胸の奥に、少し酸っぱい思い出が蘇ってきました。

初めて先生と二人でお出かけをして、緊張のあまり私が吐いてしまった場所。そのあと、先生にいっぱい慰めてもらった、優しい思い出の場所です。

「そうだ、先生との思い出を振り返ってみましょう」

私は少し迷いながらも、今着ているこの服を買ってもらったお店を見つけました。同じ服がまだ置いてあるのかなと、こっそり窓から覗いてみましたが、遠目からはよく分かりませんでした。


二人で一緒に立ち寄った古本屋やカフェ。そのあと、先生に膝枕をしてもらった公園のベンチを見つけて、そこに少しだけ座ってみたりしました。

帰り際に、二人でよく行ったケーキ屋さんを見つけました。買おうかどうかお財布と相談してみましたが、結局、買うのはやめておきました。


そんなことをしているうちに、だんだんと日が暮れていきました。

そういえば、球技大会のあとに連れて行ってもらったレストランがありました。

あのときは私が酔ってしまって、ほとんど何も食べられないまま終わってしまったのに、あれから一度も行けていません。

今度先生に会えたら、また連れて行ってもらって、二年越しのリベンジをしなくてはなりません。

レストランの前に足を向けると、中からとてもいい匂いが漂ってきて、空腹の身体に染み渡りました。

あのとき、先生は酔っ払った私を背負って、お部屋まで歩いてくれたのでしょうか。私はレストランから、先生が以前住んでいたアパートまで、実際に歩いてみることにしました。

十分以上はかかったでしょうか。よく遊びに行った、先生の住んでいたアパートが見えてきました。

私を背負ったまま、先生はこの距離をずっと歩いてくれたんだと思うと、胸の奥が少しだけ嬉しくなりました。

先生が住んでいた三階のお部屋の窓を見上げてみましたが、電気はついていませんでした。まだ新しい入居者は決まっていないのでしょうか。


かつて先生のお部屋にお邪魔するときに、よく買い物に利用した食品店は、ちょうど閉店の準備をしていました。私は急いで、今食べるためのものを調達しました。

そうだ、準備室の色々なものが持ち去られてしまったので、もしかしたらコーヒー豆もなくなっているかもしれません。先生が戻ってきたときに、一緒に飲めるお茶が必要だと思い、なんとなくその日の気分で紅茶の茶葉を買いました。

先生とよく待ち合わせをした広場へ行き、買ったパンを食べていると、夜の風が徐々に肌寒く感じられてきました。


仕方がないので、一度女子寮まで戻ってきたのですが、まだ少し周りの警備が厳しそうでした。夜遅くなって、周りの窓の明かりが消えて静まり返るまで、私は風が当たらない物陰で少し丸くなって待っていました。

そして、ほとんどの部屋の明かりが消えた時間を見計らって、またこっそりと自室へ忍び込み、布団の中に潜り込んで少しだけ眠りました。


翌朝、みんなが起き出す前に、私はこっそりと部屋を抜け出して、また街へ出ました。朝食をどこかで調達しなければなりません。

ベーカリーで朝だけでなく、お昼と夜の分のパンもまとめて買って、広場まで歩いてきたときのことでした。

通りすがりの誰かが広げて読んでいた新聞の一面が、ふと目に入りました。そこには、私の姿が写っていて……。


『聖女誘拐事件――指導していた教師のエリアス・ヴァン・アリスが逮捕された。生徒に手を出す不貞の教師として一部では噂されており……』


全身から血の気が引いていくのが分かりました。

また、やってしまいました。しかも今度は新聞で、こんなに広く報道されてしまった。

エリアス先生は本当はとてもいい教師なんだって、みんなに知ってもらいたかったのに、私が逃げ出してしまったせいで、先生がもっと悪く言われるようになってしまった。

私のせいだ、私のせいで……。

そう思うと、怖くて、辛くて、理不尽で、もう二度と先生には会ってはダメなのだと世界から言われているようで……。私はまたこっそりと部屋に戻り、いつかのように、布団の中に丸まってただただ震えていました。

魔法で先生の様子を見続けながら、先生に対して何度も心の中で「ごめんなさい」と謝り、ずっと誰にもバレないように声を殺して泣いていました。

こっそりと精霊達(みんな)とも会話をしてみたのですが、世界から先生の悪評を消し去るような魔法なんてものは実現不可能で、ただただ自分の無力感に打ちひしがれるばかりでした。そうして、時間だけが虚しく過ぎていきました。


何時間、いえ、一日以上が経ったでしょうか。身体がべたついて気持ち悪くなってしまったので、こっそりとシャワーを浴びることにしました。

シャワーを浴び終えて、お部屋で着替えているとき、突然ドアが激しく叩かれる音がしました。

「誰か、中にいるんですか!?」

私は着替えを終えると、クローゼットから冬用のコートを取って、息を殺しました。

ドアには鍵がかかっているので、すぐに入ってくることはできなさそうでした。

「やはり、誰かいますね」

「鍵なら、ここにあります……」

外からのその声を聞いた瞬間、私は急いで靴を履き、窓を開けてベランダから外へと飛び降りました。


正式に行くあてを失ってしまった私は、なんとなく神聖学準備室へと足を向けてしまいました。

行く場所がなくなってしまったときの、私の唯一の避難場所。その扉の鍵は、かかっていませんでした。

すでに色々なものが持ち去られてしまい、もぬけの殻のようになってしまったその部屋。

辛うじて残されていたソファの上で、私は静かに膝を抱えて目を閉じました。

城に戻れば、無理やり王太子妃にさせられてしまう。自分のお部屋には、当分戻れそうにない。財布の中のお金も、もう残り少ない。

辛くて逃げてきたけれど、大好きな先生はここにいなくて、私のせいで捕まってしまって、不貞の教師だなんて悪口を言われて……。

解決策がまったく見えない中で、私はたった一人、どうしていいかも分からず、ただ小さく震えることしかできませんでした。


「先生……助けて……」


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