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第60話:これは恋だと覚悟を決めてしまった

神聖学講堂の入り口のところで、


「でしたら、わ、私も聖女になりたい……です。いえ……なります!」


と、緊張しっぱなしで引きつった笑顔を浮かべる、銀髪の背の低い少女を見て、私はただ激しく動揺していた。


なぜ、君がここにいるのだろうか。一体、この子はここで何をしに現れたのだろうか。そもそも、さっき視界を白く染め上げたあの規格外のマナは、彼女の仕業なのか……。

その混乱の最中、私の脳裏を、この三年間の思い出がまるでフラッシュバックしたかのように一気に駆け巡っていった。

フィリアと過ごしたあの穏やかな時間。彼女が私の前で見せてくれた、ころころと変わる愛おしい表情。そのすべての記憶が、鮮烈に蘇る。


そして――胸の奥のどこからか湧き上がってくる、嬉しくて、懐かしくて、心臓をぎゅっと締め付けられるような強烈な感情。

先ほどまで義務感だけで向き合おうとしていた、聖女セレスティーナとの原作イベントの進行なんて、もう今の私にはどうだってよかった。

私は、私の大切な一番弟子が、こうしてまた「私に指導してほしい」と会いに来てくれた。ただその事実が、本当に、本当に心の底から嬉しかったのだ。


認めよう。

私は、この半年間ずっと、彼女を失ったことを悲しんでいた。

そして今、彼女が戻ってきたことを、教師としてではなく、一人の人間として、どうしようもなく嬉しいと思っている。

この胸の痛みに名前をつけるなら――きっと、それは恋なのだ。


半年間もの間、彼女に会うことを禁じられ、忘れよう、拒もうとどれだけ理性を働かせても決して消えてはくれなかった。そして、今この奇跡のような再会に、胸の底から湧き起こるこの熱い感情は――それ以外の言葉で表すことなど、到底できはしない。

私はフィリアという一人の女の子を、一人の人間として、愛おしい女性として、教師という倫理の境界線を完全に越えて、大好きなのだ。そして、これからもずっと好きでい続けるのだと、私は今、静かに、心に誓っていた。


私は少し照れ隠しに頭を掻きながら、改めて目の前のフィリアを真っ直ぐに見つめて言った。

「あー……ええと。フィリアが、聖女……ですか。うん。聖女……かぁ……」

気がつけば、私の口元からは自然と笑みが溢れ出てしまっていた。

「まあ、次の時間の授業は入っていませんし、とりあえず、いつもの準備室に移動してお話をしましょうか」


そう告げると、フィリアはぱっと花が咲いたかのような、これ以上ない満面の笑顔を浮かべて、

「はい!」

と、元気よくそう答えた。


見慣れた鉄の扉を開けて中に入ると、フィリアは私の指示を待つまでもなく、いつものようにコンロの方へと真っ直ぐに向かっていった。手慣れた動作でポットを取り出し、水を入れてお湯を沸かし始める。

「先生、お茶がいいですか? それとも、コーヒーですか?」

「あー、確かお茶の葉は切らしたままだから、今はコーヒー豆しかないと思うよ」

「そうですか。では、コーヒーにしましょう」


彼女は戸棚からペーパーフィルターとドリッパーを取り出し、コーヒースプーンで四杯分の粉を丁寧に量り入れていく。

自分の分と、私の分。それから、おかわりを見越してやや多めに淹れるという、かつて毎日のように繰り返していた、懐かしくも自然なルーティーン。

やがて準備室の室内に、芳醇なコーヒーの香りが心地よく漂い始める。お湯を少し注いで、三十秒ほどの蒸らし時間を置いてから、彼女はまたゆっくりとお湯を回し注いでいった。

そうして出来上がったコーヒーを、彼女は棚から取り出した雄猫と雌猫のペアマグカップへとそれぞれ注ぎ、私の執務机の上の、少し埃を被ってしまっていたコースターの上に、とん、と優しく乗せてくれた。


「おかえり、フィリア」

「えへへ……ただいまです、先生」


そう言葉を交わし合うと、私たちはどちらからともなく、くすくすと小さく笑い合った。

半年間という長い時間を離れ離れにされていても、私たちは本当に自然に、いつもの空気感のままで二人の時間を始めることができる。その事実がとても愛おしくて、私の心は底の方からじんわりと温かな幸福感で満たされていった。


フィリアはテーブルの上に自分の雌猫のマグカップを置くと、私の目の前にちょこんと立ち塞がって言った。

「その……まずは先生に、一つだけお願いがあります」

「ん? どうしたんだい?」

「ええと……私、この半年間、とっても、とっても頑張りました。大嫌いな苦手なことや、私にはできないようなことでも、必死で頑張って……。少しでも先生が悪く言われないように。私が先生の隣に立っても、誰からも文句を言われずに許してもらえるように。そして――また、こうやってここで先生と一緒の時間を過ごすために、いっぱい、いっぱい頑張ってきたのです。……だから、だから、私へのご褒美に、いっぱい頭を撫でてください」


フィリアは、少しだけ困ったような、はにかむような笑みを浮かべて私を見つめていた。

昔と変わらない、子どもの甘え方のような可愛いお願い。けれど、今の彼女の表情はどこか中等部時代よりも大人びていて、その瞳の奥には少しだけ隠しきれない疲労が滲んでおり、私にはそれが「半年」という現実の時間の重みを感じさせた。

「うん、分かったよ」


私は椅子から立ち上がると、愛おしさを込めて、フィリアの柔らかい銀髪の頭を何度も優しく撫で回した。

「よく頑張ったね、フィリア。本当に偉いよ。それから……私のもとへ戻ってきてくれて、本当にありがとう」


その私の言葉を聞いた瞬間、フィリアの目から、大粒の涙がぼろぼろと堰を切ったように零れ落ちた。

「先生……っ!」

彼女はそのまま、私の胸の中へと激しく体当たりをするように抱きついてきた。

「ずっと……怖かった……寂しかった……っ!もっと早く先生に会いたかった……!ずっと、この部屋にいたかった……先生と、二人だけで、一緒にいたかったよぉ……っ……」


服の胸元を強く握りしめ、私の身体にしがみついたまま、彼女は十分以上もの間、子どものように声を上げてずっと泣き続けていた。


本当に泣き虫で、手がかかって、危うくて。でも――それはそれで愛おしい。そんな風に思えた。


彼女が何を背負ってここへ来たのか、私はまだ知らない。

けれど、もう二度と、彼女を一人で泣かせたくはなかった。


だからこそ、今度は私が頑張らなければならない。

彼女の横に立つのに相応しい人間でなくてはならない。二度とフィリアにこんな思いをさせてはならない。

フィリアの頭をずっと撫でながら、私は改めて心に誓ったのだった。


だから……当分、この恋心を君に伝えることはできない……かな。


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