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第48話:(セレスティーナSide)異形の少女と井の中の蛙

「はぁー……疲れたーーーーっ!」


夜もすっかり更けた頃、大神殿に用意してもらった宿泊部屋の中に入ると、ベッドに大の字になって大きなため息をついた。

元々はしがない田舎の修道院で働く修道女だった私は、昨年、急に「精霊と直接対話できる」という特殊な能力を買われて、ここ大神殿へと連れてこられた聖女見習い。


朝も早くに叩き起こされて、まず祈りから一日が始まる。

周囲にいる精霊たちにお願いをしながら、国の豊穣と護国を願う祈りを捧げるのだ。

その後に短い朝食休憩を挟み、そこから夜になるまで、今度は家庭教師からの容赦のない詰め込み授業の嵐。

聖女としての素質は評価されても、今まで田舎でろくに勉強なんてしてこなかった身だ。聖女としての教養だの知識だの、色々なものが決定的に欠けているというのは自分でもよく分かっている。

だからこそ、学業だけにとどまらず、歩き方から礼儀作法まで、みっちりと地獄の特訓を仕込まれているわけ。

なんでも、来年王立学校セント・ラプラスの高等部へと編入するために、最低限必要なものだから、らしいのだけど。

「聖女として学園内で様々な交友関係を結び、社交界でも一定のプレゼンスを示す必要が~」とか何とか、先生たちが毎日ブツブツ言っている。

正直、私に何をさせたいのか、今のところ全くこれっぽっちも分かっていませんけどね!


「しかし、あのマナー講師、スカートの裾を上げる角度だのお辞儀の角度がどうとか……そんな細かい所で人柄なんてわかるわけないでしょうが! 貴族ってのは暇人の集まりかッ!」


ドスン、と枕を壁に投げつけて、一人で日々のストレスを紛らわす。

……ふぅ、少しだけスッキリした。けれど、だからといってこの軟禁状態のような境遇が変わるわけではない。

とはいえ、私が聖女として大神殿に引き取られ、さらには名門貴族であるブラン家の養女となったことで、田舎の両親や弟たちの暮らしが劇的に良くなるのなら……うーん、我慢するしかないのだけど。それでもやっぱり窮屈極まりない!


「あーあ! もう、これなら田舎で気楽な修道女のままでいた方が良かったわ! みんな元気にしてるかなぁ……」

私は立ち上がり、投げつけた枕を拾い上げると、またベッドへ思いっきりジャンプして飛び込み、本日二度目となる特大のため息を吐いた。


「あなた達とお話しできること自体は、とっても素敵な能力だとは思うのよ。でもさ、私なんかが本当に『聖女』になんてなれるのかな……」

『お前のようなガサツな女には絶対に無理だろ』

『外面だけのガッカリ美人が聖女様になるとか、大爆笑だな』

「……あなた達も、まぁーよく言うわね! ほんと、可愛げの欠片もないんだから!」


このクソ生意気な私の相棒たちをいつか絶対にギャフンと言わせるためにも、この過酷な聖女教育を意地でもやり遂げてやると、私は心の中で静かに逆襲を誓った。


まぁ、こんな風に、私の相棒である精霊たちは本当に私に対して容赦がないけれど、その力はとても凄いし頼りにしているし、何だかんだでお互いの関係は極めて良好だ。

少なくとも、祈りの力だけなら、この広大な大神殿の中でも、おそらく私が一番強いと自負している。

普通の魔術師は決められた呪文や祈りの型しか使えないけれど、私はそのあたりを相棒たちと直接会話しながら、状況に合わせて色々な祈りの形に変えることができるし、その奇跡の強さも桁違いらしい。

今のところ、国内の作物の育成状況は極めて順調らしく、「セレスティーナの聖女としての祈りが、確実に我が国に繁栄をもたらしてくれている」と、神殿の偉い人が真顔で言っていた。

『回復魔法』のような細かな魔力制御が必要な術式はまだ上手く使えないけれど、傷ついた人たちに対して、皆の力を借りて雑に範囲回復をするくらいなら、私にだって出来る。

それに、そういう細かな魔力制御を伴う神聖魔法については、来年学校に行ってから本格的に勉強すればいいからと、神殿側も今は無理に私に学ばせようとはしていないみたいだった。


そんな、お勉強三昧の日々を送っていた、ある夏の日のこと。

お昼休憩の時間、あまりの息苦しさに耐えかねて部屋を飛び出した私は、気分転換にと、だだっ広い大神殿の敷地内を散策していた。

一歩進む方向を間違えれば一瞬で迷子になるような、とてつもなく広い神殿の敷地。滅多に足を踏み入れないその端の方まで、軽いランニングがてらに走っていた、まさにその時だった。


私の目の端に、とても美しい、けれど圧倒的に『異質な何か』が飛び込んできた。


「は? ……うそ、あれ、何……?」


私は思わず足を止め、その姿を見入ってしまった。

見た目は、銀色の髪をした、小さくて可愛らしい女の子だ。けれど、彼女の周囲に渦巻いている精霊とマナの気配が、あまりにも異常だった。

彼女の周りを取り囲む精霊たちの数もさることながら、彼女の身の回りには、見たこともない微精霊の(もや)のようなものがキラキラ、ずっと眩く輝き続けていたのだ。


「ねぇ! あなた達も今の見た!? あれ、一体何なの? 教えて!」

私が胸の内で相棒の精霊たちに問いかけると、彼らは一瞬、奇妙なほどに静まり返った。

『よく分からない……』

『凄い……あの構造、一体どうなってるんだ!?』

「えっ、あなた達でもよく分からないの!? なんであんなことになっているのか、逆に凄く興味が湧いてきちゃったんだけど……。へぇ……」


私たちはその銀髪の少女が、神殿の奥にある建物に入っていくまで、吸い込まれるようにずっとその姿を目で追いかけ続けていた。

「ねぇねぇ、あの子、やっぱりあなた達の目から見ても相当凄い感じ?」

『お前みたいな馬鹿には到底理解できないくらい凄い』

「一言余計よ、いちいち毒を挟まないのッ! だいたいあなた達だって、さっき『よく分からない』って言ってたでしょうが!」


けれど、精霊たちのその言葉を聞いて、私は「流石は大神殿、本当に底の知れない凄い人が居るんだな、世界は広いんだな」と、素直に深い感銘を受けていた。

『聖女なんて周りからおだてられて舞い上がっているセレスティーナより、あっちの女の子の方が遥かに魅力的』

「はいはい、悪かったでございますよーだ。どうせ私は外面だけのガッカリ聖女ですよーだ」


本当に私の相棒たちは口が悪い。けれど、精霊としての格は高い彼らが、珍しいことに揃いも揃って手放しで大絶賛していた、あの銀髪の女の子……。

一体、どこのどなた様なのだろうか。


「あーあ、私もまだまだだなぁ」


まさに『井の中の蛙、大海を知らず』であることを思い知り、私は自分の頬を両手でパチンと叩いた。改めて、来年の学園編入に向けて、聖女としての勉強に本気で励まねばと、心に強く喝を入れ直したのだった。

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