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第44話:教え子を押し倒してしまった

「はぁー……疲れたーーーーっ!」

夜もすっかり更けた頃、大神殿に用意してもらった宿泊部屋でベッドに大の字になり、大きなため息をついた。

元々はしがない田舎の修道院で働く修道女だった私は、昨年、「精霊と直接対話できる」という特殊な能力を買われて、ここ大神殿へと連れてこられた聖女見習い。


朝早くに叩き起こされ、まず国の豊穣と護国を願う祈りから一日が始まる。

その後は、夜になるまで家庭教師の容赦のない詰め込み授業の嵐。

田舎でろくに勉強してこなかった身なので、聖女としての教養も知識も決定的に欠けている。だから歩き方から礼儀作法まで、地獄の特訓を仕込まれているわけ。

なんでも、来年、王立学校セント・ラプラスの高等部へ編入するために必要なものらしい。

「聖女として学園で交友関係を結び、社交界でも一定のプレゼンスを~」とか先生たちが毎日ブツブツ言っているけれど、正直、私に何をさせたいのか全く分かっていませんけどね!


ドスン、と枕を壁に投げつけて、一人でストレスを紛らわす。

私が聖女として大神殿に引き取られ、名門貴族ブラン家の養女となったことで、田舎の両親や弟たちの暮らしが良くなるのなら……我慢するしかないのだけど。それでもやっぱり窮屈極まりない!

「あーあ! これなら田舎で気楽な修道女のままでいた方が良かったわ!」


私の守護精霊達は、こんな時の良き話し相手でもあるのだけど、ちょっぴり辛辣だ。

「あなた達とお話しできること自体は、とっても素敵な能力だと思うのよ。でもさ、私なんかが本当に『聖女』になんてなれるのかな……」

『お前のようなガサツな女には絶対に無理だろ』

『外面だけのガッカリ美人が聖女様になるとか、大爆笑だな』

「……あなた達も、まぁーよく言うわね! 可愛げの欠片もないんだから!」


このクソ生意気な私の相棒たちをいつか絶対にギャフンと言わせるためにも、この過酷な聖女教育を意地でもやり遂げてやると、私は心の中で静かに逆襲を誓った。


こんな具合で本当に容赦がないのだけれど、その力はとても凄いし、何だかんだで頼りにしている。

少なくとも、祈りの力だけなら、この広大な大神殿の中でも、おそらく私が一番強いと自負している。

普通の魔術師は決められた型しか使えないけれど、私は相棒たちと直接会話しながら、状況に合わせて祈りの形を変えられるし、その強さも桁違いらしい。

今のところ国内の作物は順調で、「セレスティーナの祈りが我が国に繁栄をもたらしている」と、神殿の偉い人が真顔で言っていた。

『回復魔法』のような細かな魔力制御が必要な術式はまだ上手く使えないけれど、皆の力を借りて雑に範囲回復をするくらいなら、私にもできる。


そんなお勉強三昧の、ある夏の日。

お昼休憩に息苦しさへ耐えかね、気分転換にだだっ広い神殿の敷地を散策していた、まさにその時だった。

私の目の端に、とても美しい、けれど圧倒的に『異質な何か』が飛び込んできた。


「は? ……うそ、あれ、何……?」

見た目は、銀色の髪をした、小さくて可愛らしい女の子。

けれど、彼女の周囲に渦巻く精霊とマナの気配が、あまりに異常だった。

取り囲む精霊の数もさることながら、見たこともない微精霊の(もや)のようなものが、ずっと眩く輝き続けていたのだ。


「ねぇ! あなた達も今の見た!? あれ、一体何なの? 教えて!」

胸の内で相棒に問いかけると、彼らは一瞬、奇妙なほど静まり返った。

『よく分からない……』

『凄い……あの構造、一体どうなってるんだ!?』

「えっ、あなた達でもよく分からないの!? なんであんなことになっているのか、逆に凄く興味が湧いてきちゃった……」


私たちは、その銀髪の少女が神殿の奥の建物に入っていくまで、吸い込まれるようにずっと目で追い続けた。

「ねぇねぇ、あの子、やっぱりあなた達の目から見ても相当凄い感じ?」

『お前みたいな馬鹿には到底理解できないくらい凄い』

「一言余計よ、いちいち毒を挟まないのッ! だいたいあなた達だって、さっき『よく分からない』って言ってたでしょうが!」

それでも私は、素直に深い感銘を受けていた。

祈りの力なら、この大神殿で一番だと自負していた私ですら、まるで足元にも及ばない。流石は大神殿、本当に底の知れない凄い人が居るんだな、世界は広いんだな、と。

『聖女なんておだてられて舞い上がっているセレスティーナより、あっちの女の子の方が、遥かに魅力的』

「はいはい、悪うございましたよーだ。どうせ私は外面だけのガッカリ聖女ですよーだ」

本当に口が悪い。

けれど、精霊としての格が高い彼らが、珍しく揃いも揃って手放しで大絶賛している、あの銀髪の女の子。

一体、どこのどなた様なのだろうか。


「あーあ、私もまだまだだなぁ」

まさに『井の中の蛙、大海を知らず』であることを思い知り、私は自分の頬を両手でパチンと叩いた。

改めて、来年の学園編入に向けて、聖女としての勉強に本気で励まねばと、心に強く喝を入れ直したのだった。

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