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第19話:皆がフィリアの凄さに気づいてしまった

「それでは、私はこれで失礼しますわ」

「えっ!? コーデリアちゃん、昼食会は……」

「ふふ、その昼食会に野暮な野次馬がお邪魔しては申し訳ありませんもの」

コーデリアは優雅に会釈すると、優雅に去っていった。


「改めて、お疲れ様、フィリア」

労いに頭を撫でると、フィリアは蕩けそうな顔で「えへへ……」と喜び、まるで尻尾を振る子犬のようだ。

「お、お茶、淹れてきますね……!」


お茶を淹れて、ソファに座ったフィリアは、どこか痛むように足をさすっていた。

「ちゃんと自分で治しておきなよ」

言われた通り、彼女は短い詠唱で足を癒やす。

あれだけの無理な強化を、あの小さな身体で受け止めているのだ。

魔法で補っても、肉体への負担は相当だろう。

「先生が、私を治してくれてもいいんですよ……?」

「……すべての試合が終わったらね。教師として、特定の生徒に肩入れはできないからね」

「ふふ、そういう真面目で公平なところ、先生らしいです。じゃあ、全部終わったら、たっぷりやってくださいね」


――だが、その後の午後の試合で、ちょっとした騒動が起きた。

「その子はズルをしていますわ! 高等部の先生に、試合前に強化魔法をかけてもらったに決まっています!」

対戦相手の女子生徒たちが声を荒らげている。

「先生、本当にあの子に魔法を?」

と困り顔で尋ねてきた生徒に、私は答えた。

「そんな不正はしないよ。彼女の実力だ」

「では、先生が行って否定すべきでは?」

私は少し考えたが、首を振った。

「……いや。そこも含めて、私が介入するのは公平性に欠ける。生徒たち自身で解決すべき問題だ」


コートでは言い争いが続いていた。食い下がるコーデリアの後ろでは、フィリアが半べそをかいてはいたが、静かな怒りを湛えていた。

「エリアス先生は、絶対にそんなズルをする人じゃない。先生を……悪く言わないで」

「はあ? じゃあ、ここで証拠を見せてみなさいよ」

「いいですよ。……でも、ちゃんと謝ってください。私、本当に怒ってます」


そのとき、人混みを割って一人の少年が現れた。

「何をそんなに揉めているのかな?」

「ジュリアン様……!」

黄色い声が上がる。この国の第一王子、ジュリアン・フォン・アストリスだ。

「君が先生の魔法を借りてズルをしている、という主張だね。本当かな?」

「……していません。それに、先生を疑うのは、失礼です」

「なるほど。では、実際にここで魔法を見せてくれないか。それで証明できたら、彼女たちに謝罪させよう」


全生徒の視線が集中する中、フィリアが詠唱を開始した瞬間、七色のマナの光が彼女を包み込み、重苦しい圧力が体育館を支配した。

「……中等部だろ? あんなの、あり得るのか?」

術が収まると、ジュリアン王子は真っ先に彼女のもとへ駆け寄った。

「……すごい。こんな同級生がいたなんて。君、名前を教えてくれないか」

「……フィリア・レオンハルト、です。それより、約束を……」

「フィリアか。分かった、約束だ」


王子が振り返ると、対戦相手の女子たちは顔を青くして震えていた。

「も、申し訳ございませんでした……!」

「……先生に、謝ってきてください」

冷たく言い放つフィリア。女子生徒たちは私のところへ来て、今にも泣き出しそうに謝罪した。

「気にせず試合を楽しんできてください」

私は教師としての模範解答を返した。


その後、試合はまたしてもフィリアの一方的な無双だった。

試合中、ジュリアン王子が私の隣にやってきた。

「フィリア嬢は素晴らしい。先生のご指導ですか?」

「……いいえ。きっかけは私かもしれませんが、基本的には彼女自身の努力の賜物ですよ」

「そうですか。……ぜひ、彼女を生徒会に誘いたいくらいだ」


きっとフィリアは応じないだろう。それでも、王太子に注目されるほどの彼女の才能は誇らしく……そして、どこか嵐の予感を感じさせた。


その後、私はフィリアの試合を見ることなく、グラウンドで怪我をした生徒の救助などに追われた。


放課後、私は一通りの仕事を終え、ようやく準備室に戻った。

扉の前では、泣いていたのか目を真っ赤に腫らしたフィリアがちょこんと丸くなって座っていた。

「……せ、先生……遅いです」

疲れ果てて立ち上がる元気もなさそうな彼女に、私は手を差し出した。

「よく頑張ったね。優勝、おめでとう」

「えへへ……先生の回復魔法……約束、ですよ……」


中に入ると、フィリアはよろよろとソファに倒れ込んだ。

「全身が……ミシミシ言ってます……」

「だいぶ無茶をしたからね。……精霊ヴィーラに願い奉らん。傷ついたこの者に救いの光を――『ヒール』」

白く細い足首にそっと手を添え、ふくらはぎから太ももへと光を流していく。

「……えへへ。先生の『ヒール』、あったかくて気持ちいい……ずっと、こうしていたいです……」

「今日はさすがにやりすぎだ。二度とこんな無茶はしないこと」

「はーい……」


「……よし、終わったよ」

「えー、もうやめちゃうんですか。レストランに行く約束は……?」

フィリアが悲しげに頬を膨らませる。

「また後日、ちゃんと連れて行くよ。今日はもう、まともに歩けないだろう?」

「むぅ……絶対ですよ。約束ですからね」

「ああ、約束だ。本当によく頑張ったね、フィリア」

「でも、本当は怖かったんですよ。先生が居ないと、皆の目が怖くて…泣いちゃって、逃げ出しそうでした…だけど、レストラン行くんだって、自分を必死に誤魔化して頑張りました」

そういって困った様に笑って立ち上がると、彼女は重たい足取りで準備室を後にした。


夕暮れの準備室で一人、昼に彼女が淹れてくれた冷めた紅茶を啜る。

一躍時の人となったフィリアには、これから今までにない色々なことが起きるだろう。私は不安を感じつつも、彼女の大きな成長に温かい溜息をつくのだった。

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