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第14話:(コーデリアSide)恋話に花を咲かせたい年頃 part.1

「はぁ……恋がしてみたいわ……」

読み終えたばかりの恋愛小説を枕元に置き、私は布団に顔をうずめて溜息をついた。


私の名前はコーデリア・フォン・ローゼンベルク。名門ローゼンベルク伯爵家、その唯一の娘。

四歳上の兄エドワルドは高等部の現生徒会長で、次期当主の重圧を跳ね除ける文武両道の完璧な人。

双子の弟カスピアンは、魔術のこととなると周りが見えなくなるオタク気質。それでも、何かに情熱を燃やせる彼の姿は、少しだけ羨ましくもある。


一方、間に挟まれた私はというと、自分でも嫌になるくらい「空っぽ」だ。

淑女教育は受け、礼儀作法も身につけているけれど、それは教えられた通りに動いているだけ。

成績も上位だけれど、満遍なく八十点を取っているだけ。

すべて九十点以上の兄と、魔術なら百点の弟の間で、私は自分の個性のなさに溜息を漏らす毎日を過ごしていた。


最近の趣味は、恋愛小説を読むこと。

けれど「恋がしたい」と呟いても、私の人生のレールはもう敷かれている。

祖父が決めた結婚相手は、兄と同級生で、現宰相家の跡取り。

家柄も性格も成績も完璧な、誠実な先輩。

定期的にお茶に誘ってくれるし、不満は何一つない。

けれど恋愛小説をめくるたび、自分で選べない人生に、言いようのない虚しさを感じてしまうのだ。


今日で春休みが終わり、明日からは中等部二年。二年目はクラス替えがある。

「新しい出会い……あるのかしら」

期待と少しの不安を胸に、私は目を閉じた。


翌朝。新しい教室の席に座ると、目の前にはとても小さく、可愛らしい少女が座っていた。

その愛くるしい容姿に似合わず、学園内では「謎の天才」と噂される少女――フィリア・レオンハルト。

魔術で天狗になっていた弟の鼻柱を、完膚なきまでに叩き折った女の子だ。

私とは見ている世界がまったく違う、遠い存在。それが第一印象だった。


けれど、彼女がめくっている本のタイトルが目に入った瞬間、私の心はざわめいた。


『年上の彼を手に入れる方法 ~今日から使える、年上彼氏の作り方~』


私は思わず目を丸くした。到底手の届かない存在が、急に私へ近づいてきてくれたような気がした。

『先生に寄り添って離れなかったのは、やっぱりフィリアさんの想い人だったのね!』


おじい様に決められた人生を歩む私が逆立ちしてもできない「自分で選んだ恋」を、彼女はあんなにも全力でしている。

不思議と「羨ましい」というドロドロした感情は湧かず、ただ純粋な好奇心が抑えきれなかった。

弟を遥か高みから見下ろす天才少女が、自分の恋心とどう向き合っているのか。

私もフィリアさんとお話してみたい。心からそう思った。


二年生の初日、オリエンテーションが終わり解散となった。

放課後、どこか物悲しげなフィリアさんに声をかける。

「フィリアさん、お久しぶりです。コーデリア・フォン・ローゼンベルクですわ。以前は弟が大変失礼いたしました」


すると彼女は、追い詰められた小犬のようにおどおどし始めた。

「あっ……あの……ご、ごめんなさい! 私が悪かったですっ! 本当に、ごめんなさい……っ!」

「大丈夫? フィリアさん!」

今にも呼吸困難を起こしそうに謝り倒す彼女に、私は急いで駆け寄り、小さな背中を優しく擦った。

「ええ、怒ってなんていないわ。だから大きく息を吸って、吐いて」

深呼吸を促すと、彼女はようやく落ち着きを取り戻し、いそいそと帰り支度を始めようとした。

「あ、ありがとうございました。それでは、私はこれで……」

逃げようとする彼女を、私は勇気を出して呼び止めた。

「あの……もしよろしければ、この後、お昼ご飯をご一緒させていただきませんか?」


その瞬間、フィリアさんの動きが、魔法で凍りついたかのようにピタリと止まった。しばらくの沈黙の後、我に返った彼女は、うっすらと目に涙を浮かべていた。

「えっと……今日は、先生は職員会議で会えなくて……っ。それで、私とご飯を食べる、その目的は……何、なのでしょうか」


怯えるようにこちらを見る彼女。私は両手をぎゅっと掴むと、思い切って心の内を打ち明けた。

「あのね……私、エリアス先生を一途に想うフィリアさんと、『恋バナ』がしてみたいのです!」

「こい……ばな?」

「はい、恋のお話、恋バナです」


彼女はポカンと口を開け、急に顔を真っ赤にして、誰かに相談するようにぶつぶつと独り言を呟き始めた。

「えっと……うん、コーデリアさんなら大丈夫……だよね。わかった……」

そして、意を決したように顔を上げた。

「こ、こちらこそ……ぜひ、よろしくお願いします……でしゅ!」

最後は盛大に噛んでしまったけれど、小さな体でぺこりとお辞儀をしてくれた。

その守ってあげたくなるような愛らしさに、私は少しだけ分かった気がした。

『なるほど。エリアス先生がこの子を放っておけなかったのは、このどうしようもない危なっかしさゆえなのですわね』


私は弾む心で、フィリアさんの手を取った。

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