星占い①
休日の朝。
寝室からゆっくりと出てきた夫は、リビングのソファにちょこんと座る結の様子にすぐ気づいた。
「……どうした」
低く落ち着いた声。
結はクッションをぎゅっと抱きしめたまま、しょんぼりとうつむく。
「……きょう、さいかいだったの」
「何がだ」
「ほしうらない。ゆい、うおざ……びりっこだった」
夫は一瞬だけ黙る。
そして、ふっと小さく息を吐いた。
「それでそんな顔をしているのか」
キッチンから様子を見ていた妻が、エプロン姿のままやってくる。
「結、ママの牡牛座もね、あんまり良くなかったのよ? それにパパの蠍座も順位低かったわよね?」
「……そうなのか?」
「ええ。三人とも微妙だったの。だから気にしないの」
結は少し顔を上げる。
「みんな、よくなかったの?」
「そうだ」
夫は結の前にしゃがみ、目線を合わせる。
「だがな」
静かな声で続ける。
「占いが当てにならないことを、今日証明してやる」
結がぱちっと目を丸くする。
「どうやって?」
「外に出るぞ」
「え?」
「公園だ。徒歩で行けるだろう」
結の目が少しだけきらっと光る。
「……ブランコある?」
「ああ」
「すべりだいも?」
「ある」
少し間があって、結が小さくうなずく。
「……いく」
夫は立ち上がる。
「よし。着替えてこい」
妻が微笑む。
「じゃあ、私はおにぎり作ってから合流します。少し早いけどお昼用にね」
結が振り返る。
「ほんと?」
「ほんとよ。結の好きな鮭と、昆布と……あと小さいたこさんウインナーも入れようかしら」
「やったぁ!」
さっきまでの沈んだ声が、すっかり弾んでいる。
夫はそれを見て、わずかに口元を緩める。
「ほら、早くしろ」
「はーい!」
結が部屋へ走っていく。
キッチンへ戻りながら、妻が言う。
「佐川、手伝ってくれる?」
佐川がすぐに一礼する。
「かしこまりました、奥様」
エプロンを整え、手際よく海苔や具材を並べていく。
「結お嬢様、元気なさそうでしたね」
妻は優しく微笑む。
「占いで最下位だったんですって。可愛いでしょう?」
佐川は小さく微笑む。
「お嬢様らしいですね」
夫が玄関で靴を履きながら声をかける。
「お前、無理するなよ」
妻が振り向く。
「大丈夫よ。すぐ追いかけます」
「……ああ」
少し間を置き、
「結の好きな味で頼む」
「任せてください」
結が元気よく走ってくる。
「パパ! じゅんびできた!」
帽子をかぶり、すっかり外モードだ。
夫はその小さな手を取る。
「行くぞ」
玄関のドアが開く。
青い空が広がっている。
結が空を見上げる。
「……きょう、ほんとにいいひになるかな」
夫は空を一瞥し、静かに言う。
「もうなっている」
「え?」
「お前が笑っているからな」
結は一瞬きょとんとして、それからぱあっと笑った。
「じゃあ、うらないまけちゃうね!」
「そうだ。完敗だ」
二人は手をつないだまま歩き出す。
その背中を、キッチンの窓から妻と佐川が見送る。
妻が小さく呟く。
「ほんと、かっこいいのよね……あの人」
佐川は静かに微笑みながら、おにぎりを丁寧に握る。
「本日は、星占いよりも素敵な一日になりそうですね」
キッチンには、炊きたてのご飯の香りと、穏やかな空気が満ちていた。




