あれから⑤ 〜結の胸の内〜
4月
北海道の春は、まだ少し寒い。
大学のキャンパスの芝生には、ところどころ雪の名残が残っている。
私はベンチに座って、空を見上げていた。
(北海道かぁ)
まだ少し不思議な感じがする。
最初は、ここに来るつもりはなかった。
家から通える大学に進むつもりだったから。
パパも、きっとそう思っていたと思う。
高校の頃、何度かそれとなく聞かれた。
「家から通える大学でもいいんじゃないか」
そう言われたことがある。
その時は、なんとなく
「うん、そうかもね」
って答えていた。
でも。
調べていくうちに気づいた。
北海道は、日本の中でも特別な場所だ。
広い牧場。
牛や馬。
畜産が根付いた土地。
そして一方で、犬や猫などの愛玩動物と暮らす文化もある。
(両方あるんだ)
産業動物。
家庭動物。
どちらも当たり前に存在している場所。
(ここで学びたい)
そう思うようになった。
パパにその話をした時のことを思い出す。
「北海道?」
少し驚いた顔をしていた。
「うん」
私は言った。
「ここで学びたい」
パパは少し考えてから言った。
「……そうか」
それ以上、反対はしなかった。
むしろ最後は言ってくれた。
「応援する」
あの時のパパの顔。
多分。
本当は。
(家から通ってほしかったんじゃないかな)
そう思う。
でもパパは、それを言わなかった。
私の決めた道を尊重してくれた。
だから。
私はここにいる。
北海道。
広い空。
冷たい風。
まだ慣れない一人暮らし。
でも。
私は頑張る。
六年間。
たくさん学んで。
たくさん経験して。
そして。
(立派な獣医になる)
困っている動物を助ける。
人と動物を支える。
そんな獣医に。
私はなる。
ポケットからスマホを取り出す。
空の写真を撮る。
青くて、広い空。
私は少し笑う。
「パパ」
小さく呟く。
「ちゃんと頑張ってるよ」
その写真を、父に送った。




