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雨のち晴れ  作者: ありり
309/311

あれから④

少し前、

結の大学が決まった頃に遡る。


冬の終わり、まだ冷たい風が残る夜だった。


相馬の自宅。


落ち着いた和室のテーブルに、湯気の立つお茶が置かれている。


向かい合って座る二人。


相馬と佐川。


しばらく静かな時間が流れていた。


相馬が言う。


「結お嬢様」


佐川が頷く。


「はい」


「北海道でしたね」


「獣医学部」


佐川は少し微笑む。


「立派になられました」


相馬も穏やかに頷く。


「ええ」


「奥様も、きっと喜んでおられるでしょう」


少し間。


相馬が静かに続ける。


「社長も」


「ほっとしているでしょう」


佐川が言う。


「ええ」


「旦那様も」


「結お嬢様のことを、とても誇りに思っておられました」


相馬がゆっくり息を吐く。


「……惠さん」


佐川が顔を上げる。


「はい」


相馬は少しだけ表情を柔らかくする。


「以前」


「お伝えしましたね」


佐川はすぐに思い出す。


結が自立したら。


その時に。


相馬が言った言葉。


「……はい」


相馬は静かに言った。


「結お嬢様が自立されました」


佐川は黙って聞く。


相馬が続ける。


「約束通り」


少しだけ照れたように微笑む。


「改めて申し上げます」


そして真っ直ぐに言った。


「惠さん」


「私と結婚していただけませんか」


静かな部屋。


佐川は少し目を伏せる。


そしてゆっくり顔を上げる。


頬がほんのり赤い。


「……はい」


小さく微笑む。


「喜んで」


相馬の表情が少しだけ柔らかくなる。


しかし佐川は続けた。


「ですが」


相馬が聞く。


「はい」


佐川は静かに言う。


「私は相馬さんを支えたい」


「ですが」


少し間。


「旦那様のことも時折、見守らせていただきたいのです」


相馬はすぐに理解した。


ゆっくり頷く。


「もちろんです」


そして言う。


「それは」


「私も同じです」


佐川が顔を上げる。


相馬は続ける。


「私もこれからも支えていきます」


佐川も微笑む。


「はい」


二人は少し笑い合う。


相馬が言う。


「私たち、もう若くはありません」


佐川が言う。


「還暦もですからね」


相馬が肩をすくめる。


「ええ」


「ですが」


少しだけ冗談のように言う。


「気持ちはまだ元気です」


佐川が笑う。


「そうですね」


二人の間に、穏やかな空気が流れる。


長い年月。


多くの出来事。


悲しいことも、嬉しいこともあった。


それでも。


二人はここまで歩いてきた。


そしてこれからも。


相馬が静かに言う。


「これからも」


佐川が頷く。


「はい」


二人は同じ未来を見ていた。

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