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雨のち晴れ  作者: ありり
306/311

あれから①

あれから三年九ヶ月後。


三月。


まだ少し寒さが残る春の入口。


リビングには夕方の柔らかな光が差し込んでいた。


結は制服姿のままソファに座っている。


高校三年生。


もうすぐ卒業式だ。


夫はコーヒーを飲みながら窓の外を見ている。


四十九歳。


気づけば、もうそんな年になっていた。


そして。


四月から。


結はこの家を出る。


北海道。獣医学部。


六年間、向こうで暮らすことになる。


結が静かに言う。


「パパ」


夫が振り向く。


「ん?」


結は少し笑う。


「四月から」


少し間。


「寂しくなるね」


夫は一瞬だけ黙る。


そして言う。


「心配するな」


結が首をかしげる。


「え?」


夫はコーヒーを一口飲む。


「俺は大丈夫だ」


結は少し笑う。


「ほんと?」


夫は淡々と言う。


「ああ、仕事もある」


結が言う。


「でもさ」


少し優しい声。


「たまに電話するよ」


夫が頷く。


「そうか」


結が続ける。


「休みには帰ってくるし」


「夏休みとか、冬休みとか」


夫が言う。


「ああ」


短い返事。


結は夫を見る。


少しだけ寂しそうな顔。


夫はそれに気づきながらも、いつもの調子で言う。


「それより」


結が聞く。


「ん?」


夫が言う。


「たまには」


少し間。


「写真送れ」


結が少し驚く。


「写真?」


夫が言う。


「北海道の景色でも大学でもなんでもいい」


結は少し笑う。


「パパがそんなこと言うの珍しい」


夫が肩をすくめる。


「そうか」


結は嬉しそうに言う。


「もちろん送るよ」


夫が言う。


「ああ」


リビングには穏やかな空気が流れていた。


春が、静かに近づいていた。

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