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雨のち晴れ  作者: ありり
303/311

虹①

六月六日。


妻の命日。

あれから十年。


梅雨入り前だが空はよく晴れている。

しかし空気は重く、少し蒸し暑い。


寺の境内には静かな風が流れていた。


妻の眠る墓の前。


そこに三人が立っている。


夫。

結。

そして佐川。


まだ墓の前には立たず、少し離れた場所で待っている。


結が空を見上げる。


「今日、暑いね」


夫が言う。


「ああ、暑いな」


佐川が言う。


「ですが、お天気で良かったです」


結が笑う。


「ママ、晴れ女だったのかな」


夫が小さく微笑む。


「そうかもしれないな」


その時、境内の入口から足音が聞こえる。


夫が振り向く。


「社長」


相馬だった。


黒いスーツ姿で、静かに歩いてくる。


「来てくれたか」


「はい」


相馬が軽く頭を下げる。


「おはようございます」


佐川も軽く会釈する。


「おはようございます、相馬さん」


結が手を振る。


「相馬のおじさん!」


相馬が少し笑う。


「おはようございます、結お嬢様」


その時。


境内に一台の車が入ってくる。


夫が言う。


「……来たな」


車が止まり、ドアが開く。


降りてきたのは妻の両親だった。


夫はすぐに歩み寄る。


「お久しぶりです」


深く頭を下げる。


祖父が手を振る。


「いやいや、こちらこそ」


祖母も言う。


「毎年本当にありがとう」


夫が顔を上げる。


「いえ」


祖父が続ける。


「車まで手配してもらって助かっているよ」


祖母も頷く。


「こうして毎年来られるのも、あなたが気にかけてくれているおかげ」


夫は静かに言う。


「当然のことです」


祖父が少し空を見上げる。


そして言う。


「……あの子は」


小さく笑う。


「幸せ者だったな」


夫は少し目を伏せる。


「……そう言っていただけると」


「ありがたいです」


その時。


結が元気に声を上げる。


「おじいちゃん!おばあちゃん!」


二人が振り向く。


「結!」


結が近づく。


「久しぶり!」


祖母が笑う。


「本当に久しぶりね」


祖父も目を細める。


「また大きくなったな」


結が笑う。


「でしょ?」


祖母が言う。


「前に会った時よりまた一段と背が伸びた」


祖父が頷く。


「もう立派なお姉さんだ」


結が照れながら笑う。


「まだ中三だよ」


佐川も丁寧に頭を下げる。


「ご無沙汰しております」


祖母が優しく言う。


「佐川さんも元気そうで安心した」


相馬も一歩前に出て頭を下げる。


「相馬と申します」


祖父が言う。


「生前、娘がお世話になりました。ありがとうございます」


相馬が答える。


「いいえ、こちらこそ」


しばらく穏やかな会話。


そして夫が静かに言う。


「……では」


「参りましょう」


全員で墓の前へ歩く。


墓石の前。


静かな空気。


最初に夫が手を合わせる。


目を閉じる。


結も隣で手を合わせる。


「ママ」


小さく言う。


「来たよ」


祖母が手を合わせる。


「久しぶりね」


祖父も静かに言う。


「元気にしてるか」


佐川が深く頭を下げる。


「奥様」


相馬も静かに手を合わせる。


それぞれが。


それぞれの想いで。


妻に声をかけていた。


十年の時間を越えて。

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