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雨のち晴れ  作者: ありり
302/311

思い出の場所へ、再び② 〜夫の胸の内〜

その日の夜。


結が部屋に戻り、家の中が静かになる。


書斎には柔らかな照明だけが残っていた。


椅子に座りながら、棚の上の写真を見る。


白川郷。


茅葺き屋根の家々。


そして。


三人で写った写真。


三歳の結、結を抱える俺。

隣に妻。


「……懐かしいな」


小さく呟く。


あれは——


三十五歳の俺の誕生日だった。


十一月。


寒さが少しずつ強くなる頃。


その時のことを思い出す。


妻がミステリーツアーと称し、計画していた旅行。


その場所に到着するまでどこに行くのか知らなかった。


だが、新幹線や電車、バスでの移動そのもの、

途中立ち寄った高山、全てが新鮮だった。


そして、白川郷。


静かな山の中。


古い家。


雪はまだ降っていなかったが、空気は冷たかった。


結が小さな手で、妻の手を握って歩いていた。


——見てください。私が過去旅行したお気に入りの場所


妻が言った。


——日本の歴史みたいな場所でしょう。


確かにそうだった。


時間が止まったような場所。


その中を、三人で歩いた。


夜。


囲炉裏のある宿で。


結はすぐ眠ってしまった。


妻が静かに言った。


——いい誕生日ですね


俺は答えた。


——ああ


本当に、そうだった。


「……あれから」


夫は写真を見る。


十年。


いや、それ以上。


結はもう中三だ。


そして。


今日。


結が言った。


白川郷に行きたい



あの時の記憶がどこかに残っているのか。


夫は小さく息を吐く。


「……お前が計画した旅行だ」


妻に向かって言う。


「今度は」


写真を見ながら微笑む。


「結と二人で行く」


きっと。


あの場所にはまだ。


あの頃の空気が残っている。


そして。


そこには。


三人で歩いた時間も、きっと残っている。


「……また行くよ」


静かな声で言う。


「俺の誕生日旅行だった場所にな」


写真の中の妻は、

あの頃と同じ優しい笑顔でこちらを見ていた。

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