思い出の場所へ、再び①
結の修学旅行三日目。
夕方。
玄関の扉が勢いよく開く。
「ただいまー!」
元気な声。
「お帰りなさいませ、結お嬢様」
佐川がすぐに出迎える。
大きなバッグを持った結が笑っている。
「佐川ー!」
「楽しかったですか?」
「めっちゃ!」
その時、奥の部屋のドアが開く。
「結」
夫だった。
シャツ姿のまま、仕事用のタブレットを手にしている。
結が笑う。
「パパ!」
夫は一歩近づく。
「無事帰ったな」
結が言う。
「当たり前じゃん」
夫が少し息を吐く。
「……よかった」
佐川も静かに言う。
「本当に」
結が言う。
「心配しすぎ」
夫が即答する。
「親だからな」
結が笑う。
「はいはい」
バッグをリビングに持っていく。
「お土産あるよ!」
夫が言う。
「そんなに買ったのか」
結がバッグを開ける。
「じゃーん」
次々と出てくる。
「八ツ橋!」
「漬物!」
「団子!」
「あと煎餅!」
「それから」
袋を取り出す。
「あぶらとり紙」
佐川が少し驚く。
「たくさんでございますね」
結が得意そうに言う。
「だって楽しくて」
夫が言う。
「ほとんど食べ物だな」
結が笑う。
「京都っぽいでしょ」
そして言う。
「みんなで食べよう!」
佐川が微笑む。
「ありがとうございます」
テーブルに並べる。
八ツ橋の箱が開く。
結が一つ取る。
「これ美味しいよ」
夫が言う。
「まずはお茶だな」
佐川が言う。
「すぐにお持ちします」
三人で少しずつ食べる。
結が笑う。
「京都のお菓子って美味しいよね」
夫が言う。
「そうだな」
しばらく賑やかな時間。
やがて落ち着き、三人はリビングでくつろぐ。
夫がソファに座りながら聞く。
「それで」
結が顔を上げる。
「ん?」
「京都どうだった」
結は少し考える。
「うーん」
そしてゆっくり話し始める。
「清水寺とか」
「金閣寺とか」
「嵐山も行った」
夫がうなずく。
「有名なところだな」
結は続ける。
「でもね、ただの観光地って感じじゃなかった」
夫が聞く。
「どういうことだ」
結が言う。
「そこに人が住んでて、普通に生活してて」
「でもすごく古いものがそのまま残ってる」
少し言葉を探す。
「なんていうか歴史って昔の出来事じゃなくて」
「今につながってるものなんだなって思った」
夫は静かに聞いていた。
結が続ける。
「それでね、思い出した」
夫が聞く。
「何を」
結が言う。
「パパの部屋にある写真」
夫が少し目を細める。
「……白川郷か」
結がうなずく。
「うん」
「三歳のときの」
夫は静かに言う。
「覚えてるのか」
結は首を振る。
「記憶はない」
「でも写真は覚えてる」
少し笑う。
「パパとママと私」
夫は黙って聞く。
結は続ける。
「あそこも日本の歴史とか文化がある場所だよね」
夫はうなずく。
「ああ」
結が言う。
「京都行って思った」
少し間。
「もう一回行ってみたい」
夫が聞く。
「白川郷にか」
結がうなずく。
「うん」
少し笑う。
「今度の夏休み、一緒に行かない?」
夫は結を見る。
少しだけ微笑む。
「……わかった」
結が嬉しそうに笑う。
「やった」
夫は静かに言う。
「久しぶりだな」
結が言う。
「楽しみ!」
リビングには穏やかな空気が流れていた。




