結の二泊三日の修学旅行⑤
朝の会社のオフィス。
エレベーターが開くと、すでに社員たちが動き始めていた。
「おはようございます、社長」
「おはようございます」
夫は軽く頷きながら歩く。
「おはよう」
落ち着いた声。
社長室の扉を開ける。
机の上に鞄を置くと、すぐにノックの音。
コンコン。
「入れ」
扉が開く。
「おはようございます、社長」
相馬だった。
タブレットを持ち、いつもの落ち着いた表情。
「おはよう、相馬」
相馬が軽く頭を下げる。
「本日のスケジュールをお伝えします」
「頼む」
相馬がタブレットを確認する。
「九時から役員会議」
「十時半から金融機関との打ち合わせ」
「昼食を挟みまして十三時から新規事業の報告」
「十五時から海外支社とのオンライン会議」
「十七時から取引先との会食」
夫が少し苦笑する。
「……相変わらず詰まってるな」
相馬が淡々と言う。
「いつも通りです」
夫は椅子に深く座る。
「まあいい」
「仕事がある方が気が紛れる」
相馬が少しだけ目を細める。
「そうですか」
夫は軽く息を吐く。
「家が静かだった」
相馬が言う。
「結お嬢様は今日から修学旅行でしたね」
「ああ」
夫がうなずく。
「京都だ」
「二泊三日」
相馬が微笑む。
「楽しまれているでしょう」
「だといいが」
少し間。
夫がふと思い出したように言う。
「相馬」
「はい」
「来月の命日」
相馬が顔を上げる。
「妻の」
「はい」
夫は続ける。
「もしよかったら」
「一緒に墓参りしてくれないか」
相馬はすぐに姿勢を正す。
夫は続ける。
「日曜日だから」
「無理はしなくていい」
「予定があるなら——」
相馬が静かに言う。
「いえ」
夫が見る。
相馬が続ける。
「佐川さんから」
少し言葉を選びながら言う。
「……惠さんから連絡をいただいております」
夫が少し笑う。
「そうか」
相馬は頷く。
「是非ともご一緒させていただきたい」
夫は少しだけ目を細める。
「……ありがたい」
相馬が軽く頭を下げる。
「こちらこそ」
夫は机の上の書類を見る。
「妻も」
小さく言う。
「喜ぶだろう」
相馬は静かに答える。
「きっと」
少し間。
夫が立ち上がる。
「さて」
相馬がタブレットを閉じる。
「役員会議まであと十分です」
夫がネクタイを整える。
「今日も忙しいな」
相馬が微笑む。
「社長が詰めた予定です」
夫が苦笑する。
「そうだったな」
そして歩き出す。
「今日も頼む」
相馬が軽く頭を下げる。
「お任せください」
慌ただしい一日が、また始まろうとしていた。




