結の二泊三日の修学旅行③ 〜結の胸の内〜
新幹線の車内。
窓の外を景色が速く流れていく。
私の周りではクラスメイトたちが盛り上がっていた。
「次、結ね!」
「えーまた私?」
カードゲームをして笑い声が上がる。
「負けたら罰ゲームだからね!」
「やだー!」
結も笑いながらカードを出す。
「はい、これ」
「うわ強い!」
「ずるい!」
笑い声。
少ししてゲームが終わり、みんなが飲み物を飲んだりしながら雑談を始める。
「そういえばさ」
一人が言う。
「京都で自由行動あるじゃん」
「うん」
「お土産どうする?」
別の子が言う。
「うちさ」
「弟が八ツ橋好きなんだよね」
「えーいいな兄弟」
「結は?」
話が振られる。
結は少し考えてから答える。
「私は……」
「おじいちゃんとおばあちゃんかな」
「へー」
「兄弟いないんだっけ?」
「うん」
「一人っ子」
「そっかー」
別の子が言う。
「うちはさ」
「昨日も弟とケンカした」
「うちも!」
「妹マジうるさい」
みんなが笑う。
私も一緒に笑う。
「兄弟ケンカとかするんだ」
「するよー」
「めっちゃする」
「うざいけどいないと変」
「わかる」
笑い声がまた広がる。
私は窓の外を少し見る。
(……そっか)
私は兄弟がいない。
そして。
母もいない。
四歳の時。
それからずっと。
母のいない家だった。
でも。
(寂しいって)
正直、あまり思ったことはない。
それはきっと。
「結」
「ん?」
友達が話しかける。
「お父さんってどんな人?」
結は少し笑う。
「うーん」
「優しい」
「あと」
少し考える。
「ちょっと過保護」
みんなが笑う。
「いいじゃん!」
「優しそう」
「うん」
結も笑う。
(パパがいた)
忙しいけど。
ちゃんと見てくれていた。
そして。
(佐川も)
いつも家にいてくれた。
朝も。
夜も。
困った時も。
あと。
(相馬のおじさん)
仕事の人だけど。
でも家族みたいだった。
そして。
小さい頃は。
(おじいちゃんとおばあちゃん)
よく会いに来てくれた。
気にかけてくれていた。
だから。
(寂しくはなかった)
本当に。
ただ——
少し考える。
友達の話を聞きながら。
(ケンカ)
親子ケンカ。
兄弟ケンカ。
友達が言っていた。
「昨日さーお母さんとめっちゃケンカしてさ」
「うちも!」
「まじうざいよね」
その話を聞きながら思う。
(ケンカ)
私は。
したことがない。
パパとも。
佐川とも。
誰とも。
(いいことなんだけど)
ふと。
ほんの少しだけ思う。
(ちょっとだけ)
羨ましい。
普通の親子ケンカ。
兄弟ケンカ。
そういうの。
一度くらいしてみたいな、と。
新幹線は京都へ向かって走る。
私はまた友達の会話に戻る。
笑いながら。
でも心のどこかで。
(うちの家族は)
ちょっと普通とは違う。
でも。
(私は)
その家族が好きだった。




