父と娘の料理②
キッチンからいい香りが広がる。
夫が鍋の火を止める。
「できた」
結がすぐ言う。
「やった」
皿にご飯を盛る。
その上にカレーをかける。
湯気が立ち上る。
二人でテーブルに座る。
「いただきます」
「いただきます」
結が一口食べる。
「……うん」
満足そうに頷く。
「やっぱりおいしい」
夫も一口食べる。
「まあまあだな」
結がすぐ言う。
「いや、おいしいよ」
夫は少し笑う。
しばらく二人は黙って食べる。
そのあと結が言った。
「パパ」
「ん?」
「来月さ」
「うん」
結が少し真面目な顔になる。
「ママの命日」
夫はスプーンを置く。
「ああ、ちょうど日曜日だ」
結が聞く。
「休み?」
夫はうなずく。
「休みだ」
少し間を置く。
「部活や勉強で忙しいと思うが」
結が黙って聞く。
夫は続ける。
「十年だからな、節目でもある。できれば......」
少し柔らかい声になる。
「結にも一緒に来てもらいたい」
結はすぐ言った。
「何言ってるの」
夫が顔を上げる。
結は普通の顔で言う。
「節目じゃなくても行くに決まってるでしょ」
夫は少し驚く。
そして小さく笑う。
「……そうか」
結も笑う。
「当たり前じゃん」
カレーを食べながら言う。
「それにおじいちゃんとおばあちゃんにも会いたいし」
夫がうなずく。
「ああ、そうだな」
少し考えて言う。
「当日は車で来てもらうよう手配しておかないとな」
結が聞く。
「迎え?」
「ああ」
夫は言う。
「もう八十前後だからな。ここまで来るのも大変だ」
結がうなずく。
「そうだね」
夫が少し苦笑する。
「俺の我儘で」
結が顔を上げる。
「ん?」
夫が言う。
「墓をこのマンションの近くに建てた」
「本当なら向こうの実家の近くでもよかった」
結は少し考える。
そして言う。
「でも私は近くでよかった」
夫が結を見る。
結はカレーを食べながら言う。
「会いに行きやすいし」
夫は静かにうなずく。
「……そうだな」
少し沈黙。
結がふと思い出したように言う。
「パパ」
「ん?」
「佐川と相馬のおじさんは誘う?」
夫が考える。
「どうだろうな」
結が言う。
「ママと仲良かったし」
夫はうなずく。
「本人たちに聞いてみる」
結が言う。
「来てくれたらいいね」
夫は静かに言う。
「ああ」
そして少し空を見上げるような顔になる。
「来てくれるなら」
小さく微笑む。
「ママも喜ぶだろう」
結も静かにうなずいた。
テーブルの上にはカレーの皿。
二人の間には、穏やかな時間が流れていた。




