父と娘の料理①
スーパーから戻った二人。
玄関の扉が閉まる。
「ただいま」
もちろん誰もいない。
結が笑う。
「佐川がいないと静かだね」
夫は袋をキッチンに運びながら言う。
「そうだな」
袋から食材を出す。
玉ねぎ。
じゃがいも。
にんじん。
豚肉。
夫が包丁を取り出す。
「俺が作る」
結が言う。
「手伝うよ」
夫は首を横に振る。
「いい」
「勉強でもしてろ」
結が笑う。
「パパのカレーなのに?」
「だからだ」
夫が玉ねぎを切り始める。
「危ないから邪魔するな」
結は少し考えて言う。
「じゃあ」
炊飯器の前に立つ。
「ご飯は炊く」
夫が横目で見る。
「……それくらいならいい」
結が笑う。
「ふふふ」
米を研ぎ始める。
台所に水の音。
夫が言う。
「結」
「ん?」
「高校どうする」
結が手を止める。
「高校?」
「ああ」
夫はにんじんを切りながら続ける。
「今の学校は」
「中高一貫だろ」
「そのまま進学でもいいし」
「もし他に行きたい高校があるなら、そこを目指してもいい」
結は少し考える。
米を研ぎながら言う。
「うーん」
少し間。
「私は」
炊飯器に米を入れる。
「このままでいいかな」
夫が聞く。
「今の学校で?」
「うん」
結は振り返る。
「今の高校、理系の大学の進学率高いんだよ」
夫が頷く。
「そうらしいな」
結が続ける。
「私、獣医になりたいし」
「理系強い学校の方がいい」
夫は少し驚く。
「……ちゃんと考えてるな」
結が笑う。
「一応ね」
夫は鍋に材料を入れながら言う。
「感心した」
結が照れる。
「そんな大したことじゃない」
夫が水を入れる。
「いや、大したことだ」
火をつける。
「自分の将来を考えるのは、簡単じゃない」
結は少し嬉しそうに言う。
「ありがとう」
少し沈黙。
夫がふと本音を言う。
「それに」
結が振り向く。
「うん?」
夫が言う。
「今の学校、女子校だろ」
「俺としても安心だ」
結が一瞬固まる。
そして笑う。
「なにそれ」
夫は真顔。
「事実だ」
結が笑いながら言う。
「過保護」
夫が玉ねぎを炒めながら言う。
「普通だ」
結が腕を組む。
「普通じゃない」
夫は言う。
「お前が父親になればわかる」
結が笑う。
「私が父親?」
夫も少し笑う。
「間違えた」
「親だ」
結が言う。
「でもさ」
「パパって昔からそうだよね」
「何が」
「心配性」
夫はフライパンを見ながら言う。
「当然だ」
結が笑う。
「まあいいけど」
鍋からいい匂いが漂い始める。
結が言う。
「いい匂い」
夫が言う。
「まだ早い」
結が鍋を覗く。
「楽しみ」
夫が小さく笑う。
静かな台所。
父と娘が並んで立つ時間。
それは、とても穏やかな日曜日の午後だった。




