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雨のち晴れ  作者: ありり
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相馬の想い、佐川の想い

日曜日の昼。


落ち着いた佇まいの料亭。

庭の緑が静かに揺れている。


個室の障子越しにやわらかな光。


相馬と佐川が向かい合って座っていた。


料理が並ぶ。


季節の前菜。


美しく盛り付けられている。


佐川が少し申し訳なさそうに言う。


「相馬さん」


「はい、惠さん」


佐川は料理を見ながら言う。


「毎回……」


少し困ったように微笑む。


「こんな高価なところに連れてきていただいて、申し訳ないです」


相馬は静かにお茶を口にする。


「お気になさらず」


「ですが」


佐川が言う。


「私は普通のお店でも——」


相馬が穏やかに言う。


「惠さん」


佐川が顔を上げる。


「私は」


少し微笑む。


「楽しい時間をいただいています。そのお礼です」


佐川は少し照れる。


「……そう言っていただけると」


相馬が言う。


「本心です」


料理を少し口にする。


しばらく穏やかな時間。


そして相馬が言った。


「社長」


佐川がうなずく。


「はい」


「最近、少し表情が柔らかくなりましたね」


佐川も同じことを感じていた。


「ええ、そう思います」


「結お嬢様のおかげでしょうか」


相馬が言う。


「それもありますね」


「そして」


少しだけ笑う。


「奥様も」


佐川が静かにうなずく。


「きっと見守っておられます」


相馬が続ける。


「十年、長いようで短い時間でした」


佐川が言う。


「社長も本当に大変な時間だったと思います」


相馬は静かに言う。


「これからも時折思い出して寂しくなることもあるでしょう」


佐川も言う。


「はい」


「きっと」


「ずっと」


相馬が続ける。


「ですが」


「それでも」


「社長は前を向いて生きていかれる」


佐川は微笑む。


「そうですね」


「そのために」


相馬が言う。


「我々がいます」


佐川がうなずく。


「支えていきましょう」


少し沈黙。


庭の風の音。


相馬が静かに言った。


「……惠さん」


「はい?」


相馬は少し真剣な表情になる。


「一つ」


「お伝えしておきたいことがあります」


佐川が姿勢を少し正す。


「なんでしょう」


相馬はゆっくり言う。


「結お嬢様が大きくなり自立されたら」


佐川は静かに聞く。


相馬は続けた。


「その時」


少し間。


「惠さんと一緒になりたいと思っています」


佐川の目が少し大きくなる。


相馬は落ち着いた声のまま続ける。


「もちろん急ぐつもりはありません」


「今は」


「社長と結お嬢様を支えることが最優先です」


「ですがその先の人生で惠さんと歩めたらこれ以上の幸せはありません」


静かな部屋。


佐川の頬が少し赤くなる。


視線を少し落とし、そして小さく笑う。


「……相馬さん」


「はい」


佐川は照れながら言う。


「私も」


相馬が静かに見つめる。


佐川は少し恥ずかしそうに言った。


「同じ気持ちです」


相馬の表情が少しだけ柔らかくなる。


佐川は続ける。


「結お嬢様が大きくなって」


「旦那様が安心できるようになったら」


「その時は」


少しだけ微笑む。


「よろしくお願いします」


相馬は静かに頭を下げた。


「こちらこそ」


二人の間に穏やかな空気が流れる。


十年前。


奥様を失った日。


それぞれが社長を支えることに必死だった。


そして今。


気づけば。


二人の距離も、確実に近くなっていた。

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