父と娘の買い物①
日曜日の朝。
リビングには、ゆったりした空気が流れていた。
窓の外はよく晴れている。
今日は結の部活は休み。夫も休み。佐川も休み。
佐川は外出の準備をしていた。
「では、旦那様、結お嬢様」
「行ってまいります」
結がソファから顔を上げる。
「佐川」
「はい?」
結がにやっとする。
「相馬のおじさんとデート?」
佐川が一瞬固まる。
「……え」
夫もコーヒーを飲みながら耳を傾ける。
佐川の頬が少し赤くなる。
「……その」
結が笑う。
「やっぱり!」
佐川は観念したように小さくうなずく。
「……そうです」
結が嬉しそうに言う。
「いいじゃん!」
「楽しんできてね」
佐川が少し照れながら頭を下げる。
「ありがとうございます」
結が続ける。
「昼ごはんも」
「夜ごはんも」
「私とパパでなんとかするから」
「気にしないで」
佐川が少し驚く。
「ですが——」
結が手を振る。
「大丈夫」
夫もコーヒーを飲みながら言う。
「たまには休め」
佐川は少し安心したように微笑む。
「……ありがとうございます」
玄関へ向かう。
「では」
「行ってまいります」
「行ってらっしゃい」
「いってらっしゃい、佐川」
ドアが閉まる。
しばらく静かなリビング。
夫が結を見る。
「さて」
結が振り向く。
「ん?」
「昼どうする」
結は少し考える。
そして言った。
「……カレー」
夫がコーヒーを飲んだ瞬間だった。
「……っ!」
危うく吹き出しそうになる。
結が笑う。
「パパのカレー」
夫が咳き込む。
「おい」
結は楽しそうだ。
「いいでしょ」
夫はため息をつく。
「……急だな」
「食べたいんだよね」
「この前作ってたじゃん」
夫が苦笑する。
「あれか」
「うん」
結が言う。
「おいしかった」
夫は少し考えて言う。
「……材料ないな」
「スーパー行くか」
結がすぐ立ち上がる。
「私も行く」
夫が言う。
「いい」
「すぐ戻る」
結は首を横に振る。
「せっかくだから」
「一緒に行こう」
夫が靴を見ながら言う。
「車で行くか」
結がすぐ言う。
「歩いていこう」
夫が眉を上げる。
「歩き?」
「うん」
結が笑う。
「天気いいし」
夫が言う。
「荷物多くなるぞ」
結は胸を張る。
「私も持つ」
「半分」
夫が少し考える。
結がさらに言う。
「運動にもなる」
「部活のトレーニング」
夫が苦笑する。
「……うまいこと言うな」
結が得意そうに言う。
「でしょ」
夫は立ち上がる。
「……わかった」
結が嬉しそうに言う。
「やった」
靴を履く。
玄関のドアを開ける。
初夏の風が入ってくる。
夫が言う。
「じゃあ」
「行くか」
結が元気よく言う。
「カレーの材料買いに!」
父と娘は並んで歩き出した。
穏やかな日曜日の朝の道を。




